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詩 #26

咲き誇る冬の花
その香りも届かないほどに
ひたすらに坂を漕ぎ進む

いつか百日紅が咲いていた坂道
思い出も目の端の景色も
気がつく前に忘れていく


僕らの恋は淡い色なんかしていなかった
そうと頷く君の声を忘れた
揺れる花びらさえ僕には速すぎた

君が好きな邦ロック
tastes bitter. 曖昧に笑う僕を
君は可笑しそうに見つめる


僕らの夏は淡い色なんかしていなかった
暑いねと笑う君の顔を忘れた
触れた一瞬さえ僕には眩しすぎた

夢の中で出会う君は声も顔もない透明で
その向こうに透けて見えるあの頃に
僕は今でも手を伸ばす

伸ばした先はひたすらに暖かくて
泣き出しそうなほどに優しくて
春の朝日のように僕を肯定する


僕だけでは時間を止められないよ
君がいてくれないと
この日々は僕には速すぎる

ひたすらに坂を漕ぎ進む
その香りも届かないほどに
咲き誇る冬の花

置いてかないでと風に託ける
君に届くだろうか
冬の花が優しく揺れた


2022.1.25

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