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出会いの予感。読書記録 雪と珊瑚と


読書記録 雪と珊瑚と
梨木香歩さん
角川書店 2012年



梨木香歩さん、初めましての作家さんでした。

読み始めて、内面の心理描写が丁寧な文体で、私には読みやすい、継続的に読んでいきたい文章だと思えました。



◎あらすじ
 主人公の珊瑚は21歳、高校生の時に母が突然家が出て行った。父は生まれた時からいない。
珊瑚はひとりぼっちになってしまい、生活の見通しもないので、高校を中退し、パン屋で働き出した。

その後、結婚し雪を産むが、1年あまりで離婚する。

雪を預けて働きに行かなくてはならない珊瑚だったが、保育園はどこも定員いっぱいで預けるところがなく、途方にくれて歩いてると、一枚の貼り紙を見つける。

「赤ちゃん、お預かりします」

その貼り紙のあった家を訪ねて、珊瑚はくららと出会う。くららは、子どもを預かった経験はなかったが、海外で貧しい状態にある人々の支援をしてきた。



◎気になった箇所
✴︎
自分は泣いているのだと、気づくのに、一瞬間があった。「泣く」という行為が、かつて自分のとろうとする行動の選択肢にあったためしはなく、とった行動にあったためしもなかった。

珊瑚のこれまでの人生では、泣いたところでどうなる事態などなかったし、とにかく次に打つ手を考えなければならない逼迫した状況のオンパレードだったのだ。そんな役に立たないエネルギーなど使う暇はなかった。



✴︎✴︎
くららは、黙って頷いた。チキンスープもおいしかった。インスタントにある媚びた旨味ではなく、あっさりとしててらいのないダシの味がした。こういうものが、体にまっすぐ入って、体をつくっていくのだと感じた。



◎感想
✴︎珊瑚の生育状況はネグレクトの状態だったのだろう。本当に大変な時は人に相談すらできないと思う。
常にお腹を空かせていて、そんな自分が自分で悲しすぎる。いや自分の感情すら蓋をしていたのかもしれない。

それでもたった一人でも、心から信頼し、自分の本当の苦しさを打ち明けられる大人に出会えた。そしてその人は、珊瑚の本当に大変な状況をさりげなくサポートしてくれた。珊瑚は幸運だったと思う。


✴︎✴︎珊瑚はまだ生後間もない雪を連れて、預ける場所もなく、さりとて働かねばならず、そんな時に出会ったのが、くららだ。珊瑚は初対面のくららの温かい対応に触れ、自分の苦しい状況を話すことができた。この出会いは珊瑚の今後の人生を左右することになった。


✴︎✴︎✴︎
以前、海外で半時給自足のような暮らしをしたことのあるくららのつくる料理は、素材の味を生かし、わずかな調味料で作る、温かく、身体の芯に染み渡るような味だったのだろう。

そんな料理をもっと食べたい、そして家族や自分の周りの人たちにも味わってほしい、というやさしい思い、珊瑚をそんな思いに導いてしまうほど、くららの料理は素晴らしかったのだろう。


✴︎✴︎✴︎✴︎
その後、珊瑚の人生には新たな出会いと思わぬ展開が待っている。辛いことの少なくない人生で、時には思わぬ落とし穴も見え隠れするが、信頼できる隣人を探し出し、援助を求めることのできる珊瑚の人生を見守っていたいような気がする。





◎今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




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