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いつか守りたいものに出会えれば、、。読書記録 海馬の尻尾

読書記録
海馬の尻尾
荻原浩先生著
光文社
2018年



荻原浩さんは、ここ数年で出会った作家さんです。
「海の見える理髪店」や
「ストロベリーライフ」
などの本を読んできました。
穏やかな日常の中にも、心湧き上がる経験を家族や周りの人達と築いていく物語でした。

とても心地よい読後感でしたが、何かまだ本当はもっと違う別の作風があるのかなと、感じさせることもありました。

今回の本は、図書館で並んでいた本の中でもやはり背表紙や装丁から、前記の作品とは全く違うものでした。

この表紙、なんだかクレヨンしんちゃんのパパみたい、と親しみを込めてページをめくりましたが、、、。

◎あらすじ
主人公の及川頼也は、20代後半。仕事は組の管轄の店の繁盛ぶりを確かめたり、時には店長や店の人間に気合いを入れる役だ。

腕っぷしは強いし、背中には観音様の彫り物を描いている。


ある日、店でチンピラ相手にちょっとやらかした。
頼也は、相手の視線や仕草に敏感で自分を少しでも貶めるような瞬間を見つけると、すぐイラッとする。

そして、酒が手放せない。夕方から毎日飲む。顔色も悪い。

とうとう、カシラに呼ばれて、病院に行ってこいと諭される。

あまり気が進まなかったが、頼也はカシラに逆らうと後が面倒だと思い、指定された病院に行く。

そこは、アルコール中毒を治すための病院だと聞かされていたが、さまざまな検査をされ、

色々なVR画面をゴーグルで見せられ、脳画像を撮られた。その結果、頼也は恐怖の感覚が鈍くそれは、自分に対しても、他人に対しても共通であるらしかった。


そして、医師、桐島から入院治療を勧められる。

その後頼也は、、、。

◎気になった箇所

✴︎330ページ
ラジオ体操が終わったとたん、斜め前にいた梨帆(りほ)がすっとんできた。

中略

両手を回して抱きついてこようとする梨帆の手を取って左右に振る。こうすれば梨帆は喜ぶし、変態ロリコンを見る目は向けられずに住む。


✴︎✴︎341ページ
大ムカデは腹を上にして宙を飛び、電池切れしたように動かなくなった。
俺の震えはまだ止まらない。身体の震えというより、骨が震えている。頬や背中や両腕の皮膚の内側の今までそんなものがあることも意識していなかった神経が小刻みに震えている。


◎感想
✴︎
頼也は確かに気に入らないことがあると、手が出て、足が出て時には止まらなくなるそんな性格だが、梨帆という少女との出会いで、無条件に人から好かれるという経験をする。

私も子どもを産んで自分を頼り切って泣いたり笑ったりしてくれた子ども達との出会いの中で、愛着という感情が自分の中に湧き上がるような気もして、それが幼少期の寂しい体験を癒していたようにも思う。

✴︎✴︎
恐怖心とは湧き上がるもので、私は怖い物だらけでスリラー系の映画や映像は見ることすらしない。
頼也は、怖いものがまったくなかったのに、ムカデを怖がるようになる。

なぜだろう、治療による効果で脳の変容があったのか。そして守りたい大切なものができると、壊したくないあまりに、怖いものができるのだろうか。


✴︎✴︎✴︎
最後に医療は人の命を守る、助けるためのものだと信じて疑わなかった私は、それだけではない医学の進歩のために何かが犠牲になる可能性があることを突きつけられ、少し考えが浅かったかもしれないと気づかされた。

そして

この本はスリルのある途中で止まれない文章。秋の夜中に読んでいたら、どんどん目が冴えてきました。

荻原浩先生、侮れないです。
次はどの作品でこの感覚が味わえるのでしょう。


◎最後まで読んでくださりありがとうございました。



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