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ビジネスモデル研究:DAIKIN


Executive Summary

始まりはいつもプレスリリースから。

DXerとして研究が欠かせない企業、それは空調大手のDAIKIN。第3次AIブームが勃興するかなり前から「エッジAI」のビジネスを欲しいままにし、今年から「空調のサブスク」という新業態まで展開し始めた(PR参照)。
ハードウェアとしての空調機器分野にて「コト売り」が実現する裏には、同社が中期的に取り組んできたIoT技術によるデータ取得、収集データの分析による故障予兆検知技術、部品在庫管理におけるサプライチェーン構築など、最高にクールで泥臭い戦略の賜物だったのだ。下記でその根幹部分を説明したい。

ビジネスモデル


・ハードウェア開発・提供
(実は防衛製品も含まれている... 後述)
・保守メンテナンスサービス(これも広義にはMRRに入るが)
・ハードウェアの提供も含めたサブスク型提供

技術


・空調機器からの稼働データ
・故障検知技術

制約


・機器のどのデータを取得することで故障が検知できるのか誰も知らない状態からのスタートであること
・仮に故障の予知ができたとしても、部品をどのように現場に提供し、部品を交換するか、サプライチェーン だけでなく、プロフェッショナルサービスも含めた戦略が重要

制約解消方法


(4481019号):出張修理サービス支援システム(2007年出願、2010年特許化)
... 交換が必要な部品をデータベース化して、在庫の部品リストと付き合わせて、サービスマンに効率的に修理に行ってもらうシステム。ここではあくまで「各種データ」とにごし「どのように交換が必要な部品データを取得するか」には言及していない。

(特開2005-218275):モータのコイル温度検出装置
... 低コストでモータの温度を検出する技術について。不登録確定を受けている。ここから推察されるのは、故障予知に使用するデータの一部にモーターの温度、出入力電流・電圧の時系列変化などを取得している可能性である。

(4052051号):故障診断システム及び診断サーバ
... 空調設備からの「機器情報を送信」し、機器情報及び空調設備の過去の修理情報に基づく履歴情報により故障かどうか判断する「故障診断サーバ」に送信する仕組み。
ここで重要なのは、故障診断方法に関しては一切触れていないこと。なんなら、「サービスエンジニアが診断マニュアルをみて判断できる」とまで書いてある。おそらくデータ収集の仕組みと、判別機にかける前段階までのインフラで権利確定を狙ったものと思われる。強い。2002年出願・2007年特許化。

(特開2020-8261):空調機の通信システム及び空調機
... アンテナなどの通信機器を内包した空調機器に関する特許。基地局との無線通信が可能なアンテナユニットについて記載しているので、3G回線などでエッジデータを取得することを考えてのことだろう。

私の独断で上記の特許を紹介したが、不思議と「故障検知技術」に関しての特許は見当たらない。これは「どのデータの組み合わせで故障検知するのか」を競合に知らせないためであると考えられる。機械学習するにしても、アルゴリズムより、データの組み合わせが命。コカコーラ戦略。さすが。いいすね。

そして運用するのに必ず必要な周辺の「運用・インフラ特許」を固めに行くことで、サブスクビジネスを10数年で土台作りしていたということだ。この時から2020年の動向を予期していたというほかないだろう。

いい知財担当・戦略立案者がいる。

横展開


・B2B向け空調メンテナンスの高度化
... 簡単にいうと「顧客が故障を認知する前に、部品持って行って直す」ということ。言ってるほど簡単なことではないのだが。5年ほど前の日経ビッグデータでそんなような記事を読んだ(誰か巻数知ってたらおしえて〜)
特に東南アジアの高温多湿環境で、デパートの空調とかが壊れると、数時間で蒸し風呂になってお仕事にならないんだそうな。そんな壊れやすい環境でも、予め部品持って行って20分ぐらい止めて直したら、クライアントにも影響が少ない。こういう顧客本位のビジネスを「低コスト」で実施するために、部品の調達や日本からの移動を行う時間的・物理的余裕ができることは故障検知技術の最たるメリットであろう。

・アフリカでの空調サブスク
冒頭のPRでも触れたように、事前に故障検知できれば必要な部品だけ数ヶ月かけて船便で送って現地でメンテナンスとかもできる。初期コストをグッと抑えて、アフリカの空調シェアを一気に獲得しに行く戦略なのだろう。

また、未払いリスクに対してもサブスク型は効果を発揮する。遠隔で空調止めてしまえばいいんだから。ここまで技術でフォローしながら、あくまで別会社で立ち上げるのも、ビジネス運用として、リスクヘッジの観点からも非常に好感だなと。DXの鬼ですわ。

さいごに


今回の(ざっくりとした)調査でびっくりしたのが、ダイキンさんだけで申請数が38790件。ひゃ〜さすが。特許申請の文章書いたりするの結構大変なんですけど、文化や仕組みとして申請するモチベーションがしっかり構築されているのだと感じました。
そのうち、空調+IoT系の検索で引っ掛かったのが145件、全部抄録(アブストみたいなもの)読んで、26件に絞ってまとめた感じです。ご参考まで。
調べていくうちにですが、おまけで下記のような面白い特許も:

(6025525号):迎撃ミサイルの弾頭
(特再公表2008-84864):カプサイシンの効果を持ったまま、辛くないカプサイシン... 日清ファルマとの共同出願
(5071807号):毒物検出技術... 産総研との共同出願

特許引いてから知ったんですけど、防衛省向けの製品作ってるのね。おもしろい。

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戦略立案うまいはずですわ〜

はい、ということで今回は高い空調機シェアにとどまらず、新規市場開拓・コト売りのためのDX事例でした〜。
故障検知に至っては2007年から出願をコツコツはじめて、足掛け10数年。いまやアフリカにまでサブスク売りを始めるという。まさにDXは数年にしてならず。中期的な視点で旗を振り続け、ビジネスモデルにまで落とし込む難しさとお手本を見せてもらってる気持ちになれる。拝みたくなりますね。すばらしい🙏

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