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サッカーに無関心な息子の、「ただいま・おかえり、等々力。」ブーム

 2021年9月、川崎フロンターレは約3か月ぶりにホームである等々力陸上競技場で試合を行った。ACL出場による海外遠征とアウェイでの連戦を経て、ついに帰ってきたのだ。

 そんな9月からの試合日程を知らせてくれる、スケジュールポスター。「再開」の二文字をバックに立つ脇坂泰斗選手のかたわらに「ただいま・おかえり、等々力。」というフレーズが添えられている。

 ファンやサポーターは選手たちを迎える立場であると同時に迎えられる立場でもあるのだという温かい思いが伝わってくる。じんわり心に沁みる、素敵なメッセージだ。

 グッズショップ「アズーロ・ネロ」で買い物をしてポスターをゲット。リビングのいちばんいい場所に貼った。時を同じくして、それまでのスケジュールポスターと同じように、ホームタウンである自宅周辺のいたるところでそのポスターを目にするようになった。


 さて、我が家には私の他にもうひとり、この「ただいま・おかえり、等々力。」に魅せられた人がいる。5歳の次男である。

 残念ながら次男はサッカーが好きではない。発達の遅れがあり、決められたルール(サッカーなら手を使わないとか)に沿ってスポーツを楽しむのはまだ難しいようだ。そもそも、ボール遊び自体あまりやりたがらない。

 では観る方はどうかというと。私がテレビでフロンターレの試合を観ていると、テレビと私の間の絶妙に観戦の邪魔になる位置で遊び始める。もしくは、一緒に寝よう、早く寝ようと誘ってくる。興味がないだけでなく、家族がサッカーの試合に夢中になるのもお気に召さない様子。現地観戦にはとても連れて行けそうにない。

 そんな彼が「ただいま・おかえり、等々力。」にはまった。単純に、言葉遊びとして気に入ったのだと思う。それに加えて、うちにあるのと同じポスターを街のあちこちで見かけるのがおもしろい、というのもあるようだ。

 街を歩いていると、まず、ポスターを見つけるのがとにかく早い。店内に貼ってあるポスターも店の外から見つけてしまう。

 ポスターを見つけると、嬉しそうに指さして「あれ、なにか書いてあるよ」と声をかけてくる。私が「ただいま、おかえり、とどろき」と読んであげると、満足そうに笑う。そして「おうちにもある」とつぶやく。ここまでが一連のお約束だ。

 外出時だけではない。うちの中でも事あるごとにリビングのポスターに向かって、お決まりの「あれ、なにか書いてあるよ」が始まる。私が読んであげると、やはり満足そうに笑って、「おそとにもある」とつぶやく。

 あるときには、帰宅した家族と「ただいま」「おかえり」のやりとりをしたあと、「とどろき!」と付け加えてひとりでウケていた。よっぽど気に入ったんだね。


 言葉遊びを楽しんでいるに過ぎないとしても、次男がポスターの「青いユニフォームのお兄ちゃん」に好感を持っているのは明らかだ。ポスターのおかげで、次男とフロンターレでつながっている。

 フロンターレがあふれる街で、「青いユニフォームのお兄ちゃん」を見ながら息子と笑顔で言葉を交わす。そんなささやかな日常に大きな幸せを感じる。

 いつか次男もサッカーを楽しめるようになって、家族みんなで等々力へ観戦に行けたら最高だと思う。彼の「はじめまして、等々力。」が実現する日を夢見る私である。

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