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東京を50円で生き延びる

2021年の冬、東京の一日という芝居を春風舎で観た。丁寧でも雑でもない暮らしが、ただ続いている70分の、淡々とした芝居だったと記憶している。

私は半年に一回くらいダウンタイムがある。整形した後、1ヶ月くらいはダウンタイムと言って術後の腫れを引かせる時間がある。可愛くなるための整形だけど、その期間は目が腫れていたり、術部が突っ張ったりする違和感を我慢して粛々と過ごす。
私は整形したことがないけれど、心情は毎日少しずつ手術されていると感じる。自分がより良い方へ、より明るい方へと変容していく最中にはドーパミンが麻酔の代わりになっていて気づかない。だーっと駆け抜けて、手術の手が一旦止んだタイミングで休憩しようと思うと、ドーパミンがぷつっと切れて変わっていた自分の心情(を含む身体)があちこち成長痛になる。ダウンタイムは、普段頑張っている女の子の勲章のような時間であると同時に、生理中のような違和感を常に持ちながら生活しなければならない。

ダウンタイムには何をすればいいのか。何もしなくてもいいんだろうけど、私はとてもせっかちで何かをしていなければ気が済まない。もっと言えば、「何か」をしていないと「何もしていない」自分が襲ってきて、痛みが強くなるような気がする。

今日は、9時に目覚ましをかけたのに二度寝してたら11時になってしまった。オンライン授業を聞き流しながら遅すぎる朝食を食べ、家事や直近でやるべき仕事をこなす。仕事は無限にあるけれどそれをこなす気力があまりない。ちなみに明日はドイツ語のテストだってことを書いている今思い出した。

15時過ぎに外出する。家にいるよりは、外の方がきっと楽しい。お金がなくても一人を楽しむ方法を私は心得ている。そういう術を持たなくても済むであろう豊かな女の子たちに思いを馳せる。私は全然幸せである。

上野に行く。アットコスメでいつも使っているヘアオイルと同じブランドのシャンプーとコンディショナーのトライアルセットを買う。アットコスメの新規会員登録で300円分ポイントがもらえるので、それを使う。レジのお姉さんに化粧水のサンプルをもらう。ほくほくして店を出る。これらはダウンタイムを脱出した記念に使うんだと思う。ここぞという時に。

そのまま地下にある無印用品に行く。私は今月誕生日なので、何か買い物をしたら翌月に500円分ポイントがもらえるらしい。半額になっている可哀想なそらいろのボールペンを買ってみた。

500円分のポイントが付与されたら、カレーを買おうと思う。

本当は1階のリンツでリンドール診断をしたらもらえる2つのチョコをもらおうとしたけどスマホの不調で起動せず、諦める。その代わりに、秋葉原まで足を伸ばしてマネケンワッフルをお土産に買う。これもアプリを入れると無料になる。新発売のなんとかショコラが美味しそうだった。

ヨドバシもいいけど、今日はブックオフの気分。110円で羅列している文庫本の中から、好きな島本理生さんの読んだことない本を取り出して買う。成人式が終わってから情緒が不安定だった自分にぴったりの作家だと思う。大学図書館の小説はぼろぼろであまり読む気にならないから自然と小説を読む回数が減っていたけれど、こういう古本ならまた読めそうな気がする。アプリ登録で100ポイントもらって、10円で購入。その足でスタバに行く。誕生日に親戚からもらったドリンクチケットで、ほうじ茶ティーラテを買う。お姉さんにおすすめされて、ホワイトモカシロップに変更。

島本理生『君が降る日』は、3つの短編が入った小説だった。そのうちの最初の一つの作品を読み終える。ほうじ茶ティーラテは熱くて舌を少しやけどした。スタバで溜まったレポートなどを終わらせようと思っていたけど、結局レポートは一文字も進んでいない。
買ったもののレシートを登録して、5-6円稼ぐ。思えば、今日は50円しか使ってないのに充実した休日であったように感じる。

つい先週、私は20歳になった。20歳になってからの方が自分が子供であることをひどく感じさせられる。最近時間に余裕があるからバイトを新しく始めようと思っている。自分を消費しない、やりがいのあるバイトがいい。髪を切った自分は、結構好きだ。後ろから聞こえるスタバのお姉さんの声は、気遣いがあって温かい。丁寧でも雑でもない、東京の一日が好きになれたとき、2021年に観た『東京の一日』がやっと自分の間近にいるような気がする。

雨が降ってきた。

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