見出し画像

愛した彼女のためにグラスを(そして、道のりのためにも)〜 one for my baby (and one more for the road)

私の "Lifetime Best Movie" は 1982年に日本でロードショー公開された『Blade Runner/ブレードランナー』。当時、中学生だった私は、このSF映画から強烈な衝撃を受け、以来ずっと "私の一本" であり続けています。それから35年という年月を経て、2017年に続編の『Blade Runner 2049/ブレードランナー2049』が公開されたことはご承知の通り。もちろん、多くのファン同様、私も待ちきれない思いで続編を観ました。ここでは映画についての詳細は省きますが、2019年を舞台とした(すでに過去!)前作で描かれていた「生と死」や「感情」といったテーマが、続編の 2049 では「生殖」や「継承」といったテーマへと発展的に引き継がれていて、非常に感動的でした。なかでも、前作で最も印象的だった酸性雨降りしきる中でのクライマックス・シーンが、続編ではしずかに雪の降り積むエンディングへと繋がっていて、ずっと余韻の残る、私にとって忘れられないシーンとなりました。

シナトラが歌う『One for my baby (and one more for the road)』を、私はこの続編2049 の劇中歌として初めて知りました。廃墟となった娯楽施設で、主人公同志が対峙するシーン。ふたりが激しい一戦を交えた後、バー・カウンターで。コードネーム:K であるところの "ジョー" がバーのジュークボックスにコインを入れると、ホログラムの小さなシナトラが現われ、この重要な曲が歌われます。リック・デッカードが歩んできた、長い、長い道のり。愛した女性への想い… なんと完璧な挿入歌でしょうか。

映画のバー・シーンで現れるホログラムのシナトラの元となった映像は、1962年のこのライブ動画ではないかと思われます。タバコを吹かしながら、酔った風情での歌唱。素晴らしいです。

そして、歌詞はこんな感じ。【超•ゆき訳】でどうぞ。

          ****************

あと15分で午前3時
ここにはもう、あんたと俺しかいなくて
だからジョー、頼めないか?
聞いて欲しいんだ ちょっとした話を
一緒に飲んでいて欲しくてね
ささやかな俺の話が 終わるまで
愛した彼女のためにグラスを。そして、道のりのためにも

いつもこうするんだ
コインをもう1枚、ジュークボックスに入れて
えらくひどい気分でね
夢見るような、せつない曲を選んでくれないか
話したいことはたくさんあってね
とは言え、ここだけの話にしたいんだ
愛した彼女のためにグラスを。そして、道のりのためにも

わかってもらえなくても良いんだが
俺はまぁ、詩人みたいなもので
言いたいことを たくさん抱えててね
憂鬱なときに
ただそうやって 聞いていてくれればいい
俺の話が尽きるまで

まぁ、そういう訳でね
分かってるよジョー、とっくに店じまいの時間だってことくらい
なのにありがとう、付き合ってくれて
聞いてもらえると ありがたくてね
俺のなかで燃える この炎は
消さなきゃならない。さもないと、すぐにも炎上してしまう
愛した彼女のためにグラスを。そして、道のりのためにも
長い、とても長かった道のりのためにも 乾杯。

          ****************

そしてこの曲、そもそもは、私の大好きなタップダンサー、フレッド・アステアのために書かれた曲だったようです(同曲を歌った動画の中で、サミー・デイビスJr. がそう言ってました)。アステアのダンスはやっぱりスゴくて、いやこの壮絶な破壊っぷりったら!!そしてこのバーは、なんとなくブレードランナー2049 のバーにも似ているのですよ。

 
         ****************

そしてもう一つ。歌詞からすると男性の歌という印象が強いこの曲ですが、女性歌手も歌っています。先日、行きつけのお店で、可憐な歌声のステイシー・ケントが歌うこの曲を聴いたことが、この記事を書く直接のきっかけとなりました。彼女がこの曲を、というのはとても意外でしたが、また違う味わいがあって、良くて。

物語を感じさせる歌、私が好きなのは、そんな歌です。


よろしければサポートをお願いします。頂いたサポートは、活動費に使わせて頂きます◎