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世界を10周した旅人が教える、旅で得られる強みとその見つけ方

※本記事は、「宣伝会議 編集・ライター養成講座 第48期」の卒業制作として作成したものです。


強みはだれにでも秘められている――。
世界を10周し、100カ国以上を旅する現役のバックパッカー、村上学(むらかみ・まなぶ)さんはこう語る。

彼は会員制登山コーディネートやカフェ経営、不動産投資を手がける起業家でもある。登山の旅や日本とは異なる文化を知ることで、ビジネスアイデアを生み出してきた。

世界を旅してきた村上さんは、その豊富な経験をどのようにビジネスに活かしてきたのか。そして、自身の強みをどのように発揮してきたのか。
旅とビジネスの接点について、バックパッカーの視点からお届けする。




1.現場合わせ能力の向上

村上さんの旅のはじまりは、学生時代に「青春18きっぷ」を使って、47都道府県を巡ったことだった。当時はお金に余裕がなく、野宿をしながら全国を巡った。お金はなかったが旅への熱量と行動力は充分にあった。
国内を旅し終えた村上さんは海外に目をむけるようになり、ユーラシア大陸と北アメリカ大陸を陸路で横断した。さらに、アフリカ大陸を縦断し、オーストラリア大陸を一周する壮大な旅を成し遂げた。

大学1年で登山部に入部したことがきっかけとなり、世界のさまざまな山を登頂している。現在でも年間の約3分の1を海外で過ごし、旅を続けるバックパッカーである。

村上さんは旅をすることで「現場合わせ能力」が身につくと語る。
海外の旅では、柔軟性や交渉力、判断力、適応力などが求められる場面があり、学びが多いからだという。
時間通りに来ないバスや電車、荷物の紛失、料金の交渉、身の危険を避けるための対処など、あらゆることへの対応や判断をしなければならず、その場その場での最適解を出す必要がある。

手取り足取り教えてくれる先生もいなければ、ガイドブックに正解は載っていない。
すべての出来事に対して、自分で答えを出していかなければならないのだ。

旅をするにおいて、言語が通じないことが不安とよくいわれるが、村上さんはこのように語る。
「ボディランゲージやアイコンタクトでもコミュニケーションはとれます。店員さんの口調や雰囲気からおすすめのメニューを察することもできますし、怒っている人は見ればすぐわかります(笑)」。

言葉もコミュニケーションのひとつにすぎないと村上さんはいう。
現地の言葉が話せなくても意思疎通はできるからだ。その場の空気を感じとることで状況を理解できるようにもなっていく。

予期せぬトラブルへの対応やスケジュール管理、コミュニケーションといった、「現場合わせ能力」は身をもって経験することで鍛えられていき、ビジネスの現場でも発揮できるようになるのだ。


2.最適解を出すツール

ビジネスの場面ではときおり、自分には強みがないという声を耳にすることがあるが、そんなことはないと村上さんは断言する。だれもが今のポジションにいることで「正確な情報」をもっており、そのことが強みであるからだ。

しかし、強みである正確な情報をもっていることと、現場で「最適解」を出せることは異なってくる。

「旅は最適解を出すための強力なツールになる」と村上さんはいう。

多くの時間をかけてまで旅をしなくても、ネットで得られる情報で十分だと思うかもしれない。だが、ネットの情報だけでは真偽が不明なことも多々ある。現地で五感をフルに使って得る情報だからこそ価値があるという。パッケージ化されたものや用意されたものではなく、自分の足で現地に向かい、自身の知識や経験を総動員してものごとを見極めていく。

信頼性の高い正確な情報を取り続けることで、最適解を出せるようになってくる。誤った情報ばかりを受け取っていては、誤った答えしか出せないのだ。

正確な情報を得られること、そして最適解を出すことは、自転車に乗るようなものだと村上さんはいう。自転車に乗る練習をするときには、右足を出して、次は左足を出してなどペダルの漕ぎ方を頭で考えるが、ひとたび自転車に乗れるようになれば、そんなことも考えずにスイスイと走れるようになる。いままで乗り方を頭で考えていたことすら忘れてしまう。
旅も慣れれば信頼性の高い正確な情報を得られるようになり、最適解が出せるようになるのだ。


3.思考回路の変化がいい影響を与える

想定外の出来事を乗り越えたり、異文化や習慣を受け入れたりすることで、旅を楽しむことができると村上さんは語る。不慣れな場所や見知らぬ人との交流がストレスになる原因は、自分の考えが中心になってしまっているからだ。

よくあるコミュニケーションのトラブルは、相手も自分と同じ価値観だと思ってしまうことで起こる。

「自分のモノサシで相手を批判すれば、いい関係は築けない。生まれも育ちもちがえば価値観だってちがう。見ているものや感じていること、考えていることが同じではないという前提でコミュニケーションをとることを意識しなくては」と村上さんは話す。

異なる価値観を受け入れることは、相手を受け入れることでもある。
簡単ではないがそのことに意識をむけることで、考え方も変わってくるのだ。

村上さんは、旅をすることでビジネスにおけるプロジェクトの「プロセス」自体を楽しめるようにもなるという。旅を通じて「思考回路」が変わることで、プロジェクトへの関わり方も変わってくるのだ。

ひとつのプロジェクトを旅に見立てるとわかりやすい。
まずは目的やゴールを設定することからはじまる。道中は計画どおりにいかないことも多く、予期せぬトラブルが起こることもある。旅を進めていくなかで価値観や考え方の異なる者同士が互いの意見を交わし、交渉し、合意形成をしていく。常に最適解を出し続け、ゴールを目指していく。
その先には達成感が待っている。

旅のようにプロジェクトを楽しめるようになると、精度の高いスケジュールが立てられ、いいアイデアも浮かび、成果に結び付けやすくなる。思考回路が変われば、ビジネスに大きなメリットをもたらすのだ。


4.強みを活かしたビジネス戦略

村上さんは大学を1年間休学し、世界各国を旅した。数多くの山にも登り、さまざまな文化を体感することで視野を広げてきた。
大学卒業後、ITベンチャー企業に就職した村上さんだが、独立して自分の事業を立ち上げたいという思いが強くなってきた。

「会社員は無理だな」
そう思った村上さんは、自分の強みを活かしたビジネスができないかと考えた結果、会員制登山コーディネート業をはじめる。これまでの登山の経験から各地のルートや気候、文化を熟知しているため、一人ひとりにカスタマイズされたオリジナルの体験を提供できると考えたからだ。

「登山も千差万別です」と村上さんはいう。
山に登ることが目的の人もいれば、登山道から景色を眺めたい人もいる。登山後においしいお酒を飲みたい人もいれば、ゆっくり温泉につかりたい人もいる。顧客の登山スキルも予算もスケジュールもまったく異なるのだと。

当時、オーダーメイド型のツアーはあったものの、「登山に特化」したオーダーメイド型ツアーはなかった。村上さんはここに目をつけた。むずかしいことを考えたわけではなく、自分の強みを活かそうと考えたのだ。
ニッチな市場ではあるが、専門性が高いことで特定の顧客層から強い需要を生み出せた。

さらに、村上さんはかつて横須賀で日本初の「米軍高官専門のカフェバー」を経営していた。
もとは一般的な飲食店だったのだが、お店が流行ることはなかった。だがある日、アメリカ海軍横須賀基地を訪れる機会があり、そこで米軍高官専門のカフェバーへと業態を転換するヒントを得た。特定のニーズに応えることで、固定客の獲得に成功した。

カフェバーの経営がうまくいったことで、村上さんは新たなビジネスを生み出す。
技術職の米軍高官は特定の3つの地域に勤務するため、転勤があり、その際には新しい住居が必要になる。村上さんはここに着目し、転勤先のエリアの不動産会社と提携して、高官向けの住居探しや必要品の手配をおこなう不動産賃貸業をはじめた。
「米軍高官のリストを持っていたのが強みでした」と村上さんはいう。

外国人とのコミュニケーションにも慣れていたため、高官にヒアリングして好みのものを転居先に揃えることで、顧客満足度を高めていったのだ。


5.自分だから見えるマーケットがある

「自分がいまいるポジションが強み」だと村上さんはあらためていう。
すべてのマーケットが見えている人はおらず、自分だからこそ見えるマーケットがあるからだ。
カフェ経営を例に話をしてくれた。

アニメ業界に詳しくなかった村上さんだが、アニメファンのお客さんからの提案を実行したところ、お店の売上が伸びたという。
その提案とは、アニメのキャラクターが描かれたコースターを作成したり、キャラクターの名前をつけたカクテルを提供したりすることだった。こうしたちょっとした工夫が他店との差別化になる。おかげで聖地巡礼を楽しむ多くのアニメファンが来店してくれるようになった。
その他にもお店でイベントを開催するなどして、お客さんを獲得した。

「わたしには見えていなかったマーケットが、お客さんには見えていました」と村上さんはいう。

旅はこうしたビジネスでの気づきや最適解を出すためのいい訓練になる。とはいえ、なにも意識せずに旅に出ればビジネスで成功するわけではない。最適解を出す能力を上げる手段として、ビジネスを意識して旅をすることを忘れてはいけない。
目的意識をもつことで、旅の価値は最大化される。

旅をしてみたいと思ったら、まずは「一歩踏み出す」ことが大事だと村上さんはいう。
動きだせばものごとは進んでいくからだ。

多くの人が行動に移せない理由は恐怖心があるからだと。その恐怖心を埋めるために人は過度に準備をしてしまう。準備のための準備は必要ない。
じっさいに行動をすれば徐々に恐怖心もやわらいでいく。飛行機のチケットを勢いで買ってしまえばあとはもう行くしかない。

「最低限の準備も必要ですけどね。それでも、行動することのほうがよっぽど大事。走りながら準備をすればいいんです」

もう何カ国を旅したのかも数えていなければ、数に執着もしていない、と村上さんは笑う。
数の多さではなく、経験が大きな価値をもつものだと。


旅は自分の強みを得られるツールになる。
村上さんの言葉を胸に、一歩踏み出してみるのもいいかもしれない。

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