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「今更聞こう、気候変動」 Part1: 気候変動問題とゴール

脱炭素とか気候変動については一応知っているけれども、自分ごとなの? だとしても何をすべきなのか分からない、という方も多いかと思います。自分で積極的に探せば今や情報はたくさんありますが、科学的なことや、専門用語が多かったり、範囲も広く、なかなか容易ではありません。

私はこれまでシリコンバレーを拠点にスタートアップや新規事業の支援をしてきたのですが、気候変動への危機感を感じて学び始め、自分も何かしなくてはと思い、2021年にClimate Tech Communityという実践者向けコミュニティをはじめました。

その過程で、気候変動問題に取り組む多くの人・企業に出会う一方、一般の理解がそれほど進んでいない状況を目にし、シンプルに短時間で要点を包括的に理解できるようにしたいと考えました。

そこで、私が学んだことを元に、これから何回かのシリーズに分けて、気候変動とは何なのか、何をすれば良いのか、Climate Tech/気候テックとは何か、といったお話しをしていきたいと思います。

今日はまず基礎編シリーズ、題して「今更聞こう、気候変動」のPart 1として、気候変動問題とは何かについてお話しします。

気候変動とは

気候変動とは、これまでの我々人間の活動が、特に産業革命以降、二酸化炭素などの温室効果ガスを大量に排出してきたことにより、地球全体の気温が著しく上がってしまうこと、そして、それにより、氷河や氷床が溶けること、そして水温が上がることで海面が上昇したり、世界各地で干ばつや熱波、豪雨などの自然災害や山火事が起こる可能性が高まり、その重度、頻度が上がることにより、我々の暮らしに様々な弊害を及ぼすという問題です。

不便というレベルではなく、水や食べ物が無くなったり、住むところが無くなったり、外に出られなくなったり、ウイルスが蔓延したり、場合によっては国自体が無くなったり、というレベルです。影響については様々な予想があり正確には言えませんが、温度が上昇すればするほど酷くなることは分かっています。

問題となっている温室効果ガス(Greenhouse Gas = GHG)とは、その名の通り、大気に留まることで熱を取り込み逃さないようにしてしまうものです。日差しの強い日に車を外にとめていると、車内がすごく暑くなるのと似ています。この機能によって地球は住める環境になっているわけですが、これが行き過ぎてしまっているのが問題なのです。

こうしたガス自体が悪いわけではありません。これらは地球上に自然に存在し、排出しては吸収・活用するというサイクルが回っています。例えば人間は空気を吸って二酸化炭素を吐き出し、植物は二酸化炭素を光合成し酸素を作り出しますよね。その昔、人間の生活がもっと自然だった頃は、このサイクルが上手く機能してバランスしていました。

ところが、1850年代頃から産業化によって排出が急増し、バランスが崩れてしまったのです。これは主に、化石燃料の使用によるものです。化石燃料とは何かと言えば、植物が吸収し土にかえることで、地中に溜まった炭素であり、長い時を経て圧縮され、石炭・石油・天然ガスといった形になったものです。これを採掘し燃やすとその炭素が放出されるわけです。更に、我々は炭素を吸収する森林を伐採し続けてきたので、ギャップは広がるばかりです。

大気中の温室効果ガス濃度の推移
図・データ 出典:NOAA
平均気温の変化推移 1961年から90年比
図・データ 出典:Our World in Data

この2つの図から見て取れる通り、温室効果ガスの排出が増え、大気中のガス量が増すにつれ、気温が上昇します。このまま進むと2050年までに1.5℃ - 3℃の上昇、2100年には4℃-8℃の上昇が予測されています。

影響を考えると、産業化以前に比べて1.5℃の上昇に抑えるのがベストですが、現状既に1.1℃上昇済みで、その達成はかなり難しいということで、現在では、パリ協定による「出来るだけ1.5℃に近い2℃以下」という目標に向け、世界各国がゴールを宣言したり実行を行っている状況です。

1.5℃や2℃というと随分小さな感じがしてしまいますが、氷河期は今から6度低い程度、ジャングルで火山が噴火しまくるイメージの恐竜の時代は何と今より4度高いくらいです。この問題を解決しなければ、80年後にはその時代に逆戻りかもしれません。ちなみに、これはグローバルの中央値ですので、実際の温度の上昇は場所によって大きな違いがあります。

気温上昇を1.5℃ー2℃に収めるにはどうすれば良いのか?

ガスというと目に見えませんし、パッと消えてしまいそうですが、これらのガスは大気圏に達してから長いこと留まるため、排出すればするほど大気中のガスはどんどん積み上がっていきます。
先程、大気中に溜まっているGHGの濃度を見ましたが、今度は年間の排出量で見てみます。現在、全世界で我々は毎年約50Btまたは50Gt (ビリオントン=ギガトン=10億トン)もの温室効果ガスを排出しています。

温室効果ガス年間排出量(グローバル)*2021年は推定
図・データ  出典:Rhodium Group

温室効果ガスで最大のものが二酸化炭素(CO2)で、全体の約75%を占めます。次に多いのがメタン(CH4)で、全体の17%程。 その次が亜酸化窒素(N2O)で、6%程。他にはフロンガスなどがあります。それぞれ温暖化への影響は異なります。二酸化炭素は大気中に何百年から何千年も留まるという問題があり、メタンは温暖化効果は二酸化炭素の何十倍もありますが、大気中に留まるのは12年程度です。これらの影響を考慮して炭素に換算しCO2e (CO2 equivalent)として計上されます。二酸化炭素に限ると、年間排出量は37Gt程度です。

排出量が累計どのくらいになると気温上昇が範囲を超えてしまうのか、というのがバジェット(予算)という考え方です。

残りのカーボンバジェット
図・データ 出典:Global Carbon Project 2022

この図はCO2に限定したものですが、ご覧の通り、世界は既にバジェットをかなり消化してしまっています。1.5℃のシナリオでは残り13%程しか加えられる余地がありません。
そこで、予算内に収めるには、年間の排出を減らしていき、「ネットゼロ」にする必要があります。

ネットゼロとは

バスタブを思い浮かべてください。バスタブには、今既に結構上の方まで水が入っており、開いている蛇口から水が注がれ続けています。水が溢れないようにするためには、蛇口を閉めれば良いのですが、そう簡単には閉められません。そこで、蛇口から出る水の量を極力少なくしつつ、バスタブから水を抜くことが必要です。
これによって水量増加を実質0にすることが、ネットゼロです。

気温上昇を1.5℃くらいに抑えるシナリオの場合、二酸化炭素排出のネットゼロは2050年頃までに、そして他のGHGガス排出は2065年頃までにネットゼロに達する必要があります。

CO2ネットゼロ シナリオ
図 出典: Stripe

上図は二酸化炭素排出のネットゼロを示しています。グレーの部分が蛇口から出る水の量を削減するもの。青い部分(carbon removal=炭素除去)がバスタブから水を抜く部分です。
2050年だとまだ30年近くあるような気がしてしまいますが、実は2030年で45%程削減している必要があります。あと7年。時間がありません。

Covid-19で世界が止まった2020年、交通量が減り、空気がきれいになり都市に自然が戻ったりしましたよね。確かにその年の排出量は減りました。どのくらいだと思いますか?
何と5%程です。あれだけ世界の動きが止まってもその程度。この10年で半減するには、相当抜本的なシステムレベルの変革が必要です。

問題の重度、緊急度が把握できたでしょうか?

次回は、温室効果ガスはどこから排出するのか、どうやってネットゼロに向かうのか、という話をしたいと思います。


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