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短編小説、エッセイ、その他自分の描いたもの

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物語が中心です。おもに短編小説。
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#日記

サイゼリヤのミラノ風ドリア

 人は、他の人と関係を持ちながら生きているので、死ぬと、自分の意志と関係なく理不尽にその関係性が終わってしまう。  その、理不尽さや唐突さになんとか理由をつけて納得しようと思うのだが、理由をつけてもさみしいものはさみしい。  そしてそのさみしさはだんだん小さくなっていくように見えて、ある日唐突に、嵐のようにやってきてしまうのだ。  母が亡くなってしばらくして、ひとりでサイゼリヤに行った日に、恥ずかしいほどに泣いてしまった。  外食が好きな母は「サイゼリヤのミラノ風ドリアを食

「もうわたしのことは考えないで」と彼女は言った

夢の中で久しぶりに女ともだち3人で集まった。 わたしたちが連絡を取り合うのは「どこかでおいしいものを食べよう」という時だけ。 昨今はコロナで、会って食事をする機会を逸してしまっていた。 それでしばらくのあいだ電話もメールもしないままだったのだ。 集まったのは、白い椅子に白い丸テーブルのイタリア料理の店。 予約のときにアサミがコース料理を注文してくれてたらしい。 「お店で悩むより楽だから、勝手に頼んでたの」と笑いながら言ってくれた。 前菜と、オリーブオイルをつけたバケット

君のいる空の下で今日もおしゃべりをしている

2011年3月12日。その日九州新幹線が開通した。 震災の翌日のことだ。 全線開通のオープニングイベントは、前日の夕方に早々に中止になった。 ダンスもパレードもなくなってしまった。 テレビで流れる津波の衝撃的に呆然とするだけで、これからどうすればいいのかなんて誰にもわからなかった。 当時、新幹線が停車することになったわたしの町は、ふわふわ浮き足立っていた。 この町から新幹線でまっすぐ遠くに行ける。九州の小さな町にとって、それは夢のような話だった。 九州新幹線開通の当日は

LoveHotel

仕事でよく訪問する事務所がラブホテル街の中にある。ほぼ毎週のように車で向かう。そして、ほぼ毎回、ホテルから出てくる車とすれちがう。 いろんなホテルがあるけれど、いろんな人が利用してるんだな。車で入れるモーテルタイプの中をのぞいてみると、車がたくさん停まっているではないか。 そして、車の運転が乱暴でも恥ずかしげでもなく、ふつうに人の出入りがあるということも小さな驚きだった。道路が片側工事中だったら、こちらが通りすぎるまで待っててくれるし。 平日の昼間のラブホは意外にも年齢

午後の最後の芝生

ずっと独身でいるにちがいない。 なんとなくムスメのことをそう思っていた。 オタクで偏屈でひきこもり気味。家から出ずに何日もすごせる。 ときにはピアスを一緒に見たり、カフェにいくこともあった。 ところがこのムスメが、そうそうに結婚してしまった。 遠距離恋愛の彼と、2人で近隣の都市に就職し、いつのまにか同居していた。 休日にはときどき2人で実家に遊びにきてムスメの部屋に泊まっていった。 物静かな彼は、控えめにオットのビールの相手をしてくれ、ときにはみんなで食事にも行った。