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「SING/シング: ネクストステージ」に溢れる多幸感とモヤモヤ 【今、推したい映画 イマオシ】

きました! きました! 
「SING/シング」の続編です。

2017年に日本で公開され、大ヒットしたイルミネーション制作の「SING/シング」。その続編「SING/シング: ネクストステージ」が公開となりました。

僕は「SING/シング」が大好きなんです。3Dアニメ作品では生涯ベスト。「映画」とくくっても相当上位にくるくらい好きです。

ミニオンズなどで知られる製作会社「イルミネーション」については、「ペット2」評で詳しく書いているので、気になる方はそちらから。

「SING/シング」は、動物がくらす世界で劇場を営むコアラ、バスター・ムーンを中心に繰り広げられるミュージカル・コメディ。

新旧のヒット曲に彩られ、意外ながらも実力たっぷりなキャストの歌声に感情が揺さぶれまくります。

「SING/シング」でいえば、なんといってもゴリラのジョニー。演じたタロン・エジャトンが歌うエルトン・ジョンの「I'm Still Standing」では泣き笑いのミルフィーユが襲ってきます。

この時の歌唱が評価され、その後エルトン・ジョン自身を「ロケットマン」で演じることになるなんて嘘みたいな話も。そのあたりは「ロケットマン」評に書きました。

「SING/シング」だけでも数万字書けますが、やめておきましょう。今回は、続編である「SING/シング: ネクストステージ」です。

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やっぱりSINGは最高でした

最初に言っておきます。最高だとは思っていましたが、やっぱり最高でした。

世界最高峰のエンタメ棒で脳天かち割られて、多幸感をどばどばぶち込まれ続ける感じ。ずっと気持ちいいし、ノリノリのニヤニヤ。

冒頭のニュー・ムーン劇場でのシークエンスからしてもうね。プリンス・アンド・ザ・レヴォリューションの『レッツ・ゴー・クレイジー』をお馴染みの面々が歌い踊るだけで「あぁぁぁあSINGだあぁあぁあ」と身体が動き出しました。そこでもうクラクラ。

バスター・ムーンが落ち込むシーンで、エルトン・ジョンの「黄昏のレンガ路」がかかるのも、前作のジョニーからの流れもあって最高です。僕のマガジン名は「黄昏のレンガ路」からとっているので、それもあって嬉しさ倍増。

新キャラも魅力的です。ショービジネス界の大物であるオオカミのジミー・クリスタルと、その娘のポーシャ・クリスタル。特にポーシャは、ベタベタに甘やかされているものの実力は確かという設定。クライマックスの歌唱では、父親との関係も相まってエモーションが爆発。前作におけるジョニー的なポジションです。

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ただ、ジミーの描かれ方にはモヤモヤが。それは後で触れますね。

物語の鍵を握るかつての大物ロックスター、ライオンのクレイ・キャロウェイ。妻を失くしてのをきっかけに心を閉し、15年間も表舞台から遠ざかっています。勢いでクレイをショーに出すと大見栄をきったムーンたちの奮闘ぶりも見どころです。

クレイを演じたのは、U2のボノ。クライマックスでは、U2の『終わりなき旅』をヤマアラシのアッシュとデュエットします。

ボノが声優として、U2の名曲を歌うわけです。何それ反則? 良いに決まってるじゃない。

……といいつつ、僕が見たのは吹き替え版。県内どこも字幕やってないんですよ! 地方を舐めないでください! やってくださいよ字幕版! お値段倍でも見るからさあ!!!

取り乱しました。

しかし、そこはご安心。SINGシリーズは、過去のどんな映画より吹き替えに力が入っています。キャラクターが歌う楽曲は、すべてオリジナルの日本語歌詞が当てられています。字幕監修は、いしわたり淳治さん。音楽プロデュースは、蔦谷好位置さんという鉄壁の布陣。

吹き替えと字幕、どちらも遜色なく楽しること請け合いです。

吹き替え版でクレイを演じたのは、B'zの稲葉浩志さん。

歌が最高なのは言うまでもありませんが、芝居でも枯れたロックスター感が出ていました。アッシュを演じた長澤まさみさんとのデュエットも良かった。

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字幕版でファレル・ウィリアムスが演じたキャラクターの吹き替えは、SixTONESのジェシーさん。歌った楽曲は、ファレル・ウィリアムスらしい高音が気持ちいいんですけど、ジェシーさんの歌声もファレルらしさが感じられてとても良かったです。

「歌声」だけなら、今回いちばん驚いたのはジェシーさんかも。達者ですよ、彼。

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それぞれのキャラクターのエピソードが積み上がり、クライマックスのショーで爆発するつくりは前作から同様。

前作は、それぞれが抱えてきた人生の「ままならなさ」が歌として爆発するという最高のカタルシスがありました。

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ただ、続編としてはそれを踏襲しても「おんなじやんけ」となってしまいます。今作でを、よりショーアップされたエンタメ成分を強めることで別の見せ方ができていました。

”この世界の彼方へ: Out of this world"と題されたミュージカルは多幸感の極み。ハッピーが寄せては返しで溺れそうになります。

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ブラボー!! SING最高!! って感じです。

絶対劇場で見てください。

僕はもう1回見ます。今度は息子と。先日のテレビ放送を見て、無事にハマってくれたようです。

とまあ、褒めちぎって終わろうと思ったんですけど、小さくないモヤモヤがあったのも確かなんですよね。

その辺のこともちょっと書いておきます。

ここから先は、ネタバレになるので注意してください。

【ネタバレ】ジミーの描き方は、あれでいいの?

まずは、小さいところから。新旧キャラのそれぞれに見せ場を作るためですが、ひとりひとりが薄めな感は否めません。

特に、クレイがショーへの参加を決めるまでの流れはもう少し丁寧に描いてほしかったです。ドラマ的な頂点がそこにあって欲しかったし、それを求めているところもあったので。

アッシュがポロンポロンと弾き語ったらあっさりほだされたようにしか見えない。それでいいなら15年間も引きこもられないだろうし、ミス・クローリーにも謝罪してほしい。

クレイ以外もそうです。

ポーシャやスーキーのジミーへの反発も、分かるんだけど唐突感がありすぎて。特にスーキーは、何で最後、逮捕までさせるの? ムーンを落としたのが傷害ってこと? それならジョニーの父親たちがやったことだって同じでは?

そして、最大のモヤモヤはジミーの描かれ方。ショービズ界で絶大な影響力を持っているオオカミですが、結局「ただただ強欲なエゴの塊」としか描かれていない。それだけでのし上がれるほど、SINGの世界はチョロいんでしょうか。

エンタメについての審美眼は確かで、それこそが彼の源泉。クレイの歌声でそれを思い出すとか、そういうラストが良かった。「忘れてたものを思い出させてもらったよ」的な。

その方がジミーに奥行きが出て、より多幸感があったと思うんですよね。

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しかも、オオカミが「強欲なエゴの塊」という描き方そのものが、動物に対するステロタイプの象徴な気がしてなりません。

こんなことを書くと「またポリコレ」とか言われるかもですけど、意味のない先入観は与えない方がいいでしょうよ。子どもだって見るんだし。子どもたちに先入観の再生産をする必要はないと思うんです。

動物の世界でのステロタイプの脱却でいうと、「ズートピア」が真っ先に思い出されます。「ズートピア」公開が2016年ですから、6年たってもまだそんな描き方するんだと思わずにはいられません。

ディズニーやピクサーと比肩するポジションを築いたイルミネーションだからこそ、今の価値観を引っ張ってほしいなと思います。

説教くさくしてほしくはないですけど、今作のジミーの描写はあまりにも浅いと言わざるをえないのでモヤモヤが残りました。

もしかしたら、ジミーにはモデルがいて、それが実は内部の人物で自己批判的な側面があるかもですけど。「トイ・ストーリー3」のロッツォ的な。いや、これはまったくの妄想です。

とまあ、めずらしく苦言みたいなことを書きましたけど、作品全体でいうなら大好きだし、字幕版も見たい。それまでは、サントラで我慢します。

ジミーの描き方がどうかも含めて、見て確かめてほしいです。

その際は、ぜひあなたの感想を聞かせてくださいね。

あぁ、それにしてもSING最高!


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