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短編 人魚姫の恋物語 〜海生目線〜


まず、王子様目線からの『人魚姫の恋物語』をお読み下さい。

※エロシーンはございませんが、濃厚キスシーンはございます。

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海生目線



高校1年生の3月、

私は草むらで脱ぎちらされた服を拾った

痛みがあとからジンジンした


シーンとした夜のはずが、

抵抗する声だけは、夜の闇にかき消された。


無理矢理ねじこまれて、


ことがおわった後は、

自分の身体ではないような。



怖くて、怖くて、
涙が止まらなかった




そいつは、お母さんのお客だった。



お母さんがその事実を知ってからは、
ときおり自分を見失うことが多くなった。



それからは、ずっと学校には通えないでいた。


身長が伸びて、
胸も膨らんできて、
大人の女性になっていく自分

周りとは違う白い肌が逆に目立っていた。


「あの母親の娘だから、イケる!」

そう思われていたようだ。



その予感が的中したのが、あの月のない殺風景な夜だった。



それ以降、夜になるとしきりに怖くなる。


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陸との出逢いは、

夏休みが始まる前夜だった。

頼まれていた夕ごはんを買いに自転車で走ってた。

キキィィー!!   

急ブレーキかけるも人をはねてしまった。

「私の人生、完全に終わった。」と、よぎった。

恐る恐る顔を覗きこむと、


陸の第一声が、

「なぜ俺は、ここにいるのですか?」だった。

まんま漫画のセリフそのものだったから、

笑ってはいけないのに可笑しかった。

そんな陸は、
最初から優しかった。

私を一切責めなかったから。


「何するんだ!テメェー!!」

って怒鳴ってもおかしくないはずなのに。

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陸と二人でよく図書館に行った。

陸は本というより歴史書を見ていることが多かった。

「歴史は失敗や成功を教えてくれる、体験本なんだ。だから面白いんだ!」
と、日本史の先生みたいなことを言っていた。


陸が本当に担任の先生と気づいたのは、
少し経ってのころだった。


「陸」という名前の字が印象的で、
なぜか頭の隅に残っていた。


高校のカバンからはみ出た自己紹介のプリント、

そこには、

高校2年生の日本史の教師だということ、

担任の先生になることが書かれていた。


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陸の顔は、鼻筋が通っていて、

横顔がとても綺麗だと思った。

陸は私に「海生ういは焼けないな」と不思議そう聞いてきた。

陸もじゅうぶん色は白かった。


もう少し目が大きければ王子顔だと思う。


性格の方はというと、面白がってからかうと、すぐに怒る。

顔にでやすくて分かりやすい。

記憶喪失となった陸に島を案内してあげた。

毎日のように陸と一緒にいたのに

夜はまた陸のことを考えたり、
会話した内容を思いだしたりした。

手帳を日記がわりに書くようになったのは、この頃からだった。

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8月の満月のスタージョンムーンの日。

陸と一緒に海に浮かぶ満月の下で、お願い事をした。

私は「陸の記憶がずっと思い出しませんように」って…

けれどその願いは、無神経な同級生が声を掛けたせいで、叶わなかった。

陸は自分が教員だったことを思い出してしまったから。

同級生に余計なことするなと腹が立った。


恋愛というものは、

恋をしてはいけない相手に恋をしてしまったら、お互いが辛いことになる。

頭ではそんなこと分かっていた。

けど、 

ダメだと思えば思うほど、もうすでに陸に惹かれていった。

私は父と母の娘。
決して許されない関係の中で生まれた。

そのひとり娘が、つぎは、先生と生徒…

血は争えないなと思った。

お母さんも今の私みたいに悩んでいたんだろうか…

今ならお母さんのこと分かってあげられる…


ここの島の人たちの情報網はまるでスパイだ。

陸のことを勝手に好きになるぶんには迷惑をかけない。

ただ、陸には私の「あの日の夜の出来事」を知られたくなかった。
そういう目で見られたくなかった。


2学期の始業式が始まると、

陸はきっと出席簿のクラス名簿を見て私の名前を知ることになる。

私が陸の生徒だと知る前に、逃げたい。

そう思った。

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8月31日、夏休みが終わる最後の日。

笑ってバイバイするつもりで、陸の部屋に行った。


すると、陸が目を閉じて眠っていた。

あまりにも無防備で可愛かったのと、
陸に触れたいという衝動にかられて、

私は迷わず、、、

陸の唇にキスをした。


そしたら陸が起きていたっ!!


はじめは戸惑いからのキス。

徐々に徐々に…

一緒に確かめ合うように

「ん〜っ」

      「ん、んんっ」

私の気持ちいところを執拗に絡めてくる…

目がトロンとなった

「んんーーっ」

熱くて、胸がせわしなく脈打っていて…

「ん〜っ」

    「んはぁ…ぁ…」

自然に吐息が漏れて、恥ずかしい…


身体全体が火照って、

「んは…あぁ…」


徐々に腰が浮いてるのがわかる

そのたびにキュンキュンと子宮が反応して

もう腰が立ってられなくなっていた

それを感じとったのか、
陸の手が、そっと腰を支えてくれていた

けど陸の舌が私のを離してくれない


「んはぁぁ…」

そしてまた唇を重ねた

深くて、優しくて、
また深いぃ…

「ん〜っ…」「んん…っ」

「んはぁぁ…」

もう…頭がおかしくなる…気持ちいぃ…

こんな気持ちのいいものなんて知らなかった…

「んんーーっはぁぁ…りく…」

もうわたし、後戻りできなくなるよ…?



いつのまにか陸の手がシャツの下にあった。

(やっぱりダメッ!!)


バサッッ


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バッッタン!


気づいた時には、私は扉の外だった。

心臓の音が鳴り響いてるようで

バックンバックンって…。

いろいろすっ飛ばしすぎた!!

恋人になったわけでもなく、
好きだとも言ってないのに、

手も握ったこともなかったのに!!

「この、尻軽女〜」と思われても仕方ない。

急に死ぬほど恥ずかしくなった。

逃げたくなった。

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9月1日、陸が復帰の始業式の日。

私は本気で陸から逃げた。


出港の汽笛が鳴り響くと、陸の姿が見えた!

何か懸命に大声で叫んでる!!


(えっ!?なんて??)


その声は最初から私には全く聞こえず届かなかった。

だからあのときは、笑顔で手を振るしかできなかった!


港に到着したら、
お父さんが迎えにきてくれていた。


島に残してきた母親とは、いつもの口喧嘩のままで仲直りはできていなかった。

テーブルにそっとメモを置いてきた。

「お母さんへ

海生ういは、前に心理カウンセラーになりたいって言ってたでしょ?
そのためには、高校をきちんと卒業して、
賢い大学に行きます。

高校を卒業するまではお父さんのところにお世話になることになりました。

ひとりで勝手に決めてごめんなさい。

また連絡します!」と殴り書きの字になってしまった。

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本島の高校に編入した。

それからは怒涛の忙しさだった。

夕方からは、大学費用を貯めるために、年齢をごまかしてスナックで働いた。

裏方のくせに目立つなと嫌味を言われたりした。
掃除に、皿洗いに、片付け…


学校が休みの日は図書館で勉強をした。


そうこうしていると、もう気がついたら半年が経っていた。

私は、まだ陸のことも、あの日のキスのことも忘れていなかった。


陸は私のことなんかもう忘れたと思う。

もしかすると、新しい彼女なんかもできたのかもしれない。

一応、近況報告をするために陸に手紙を書いた。

それだけじゃつまらないから、一緒にいた頃の時みたいに陸をからかってみた。

最後の一文に
『p.s.島に帰ったらあの夜の続き、してもいいよ』と書いた。


1週間以上経ってから、返事が届いた。

陸はとても綺麗な字だった。

手紙を書くの遅すぎだと怒られた。
心配かけるな!この大馬鹿野郎!って。

そして最後の一文、

『p.s.もう俺の生徒じゃないから、あの夜の続き、最後までするぞ。待ってるから』って。

びっくりした!

陸は、私が自分の生徒だと知っていたんだ!

陸も同じだったんだと思うと嬉しくてたまらなくなった。

早く陸に逢いたい!!

照れ隠しの冗談まじりで、

『王子様へ
人魚姫はつぎの夏休みに陸に戻ります。』と

急いでポストに投函した。

陸まで、毎日楽しみでたまらなかった!


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陸まであと2日。

美容院に行ったあとショッピングをした!

人魚姫らしく、水色でほどよくスパンコールがキラキラついていて、小さな波のフリルのついた可愛い下着。

誰かを思い浮かべながら下着を買うなんて初めてだった。


あと、2日。

陸、待っててねー!


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次の日、陸まであと1日だった。

突然、連絡もなく、
母が尋ねてきた。

海生うい!手紙を出したのに!!
お母さんのこと嫌いになったの?」と言ってきた。

「え…?手紙?!返事くれなかったのはお母さんでしょ?」

すると、

「海生ー。お客さんかい?」と、
おばあちゃんが顔を出した。

一瞬にして母の顔色がだんだんと赤くなった!

「あ、あ、あなたはいつになっても私の邪魔をするのですね!!
ね、そうなんですね!?
いつも私から大事なものを奪うんだ!!
海生までそそのかして!

私の海生を返してぇー!!」

そう乱暴に言い放ち、

カバンから取り出した包丁を手に取った!


「待って、お母さん!待ってー!
話を聞いて!」

力いっぱい母の腕をつかんだ。

「手を離して海生ー!
みんなして母さんを馬鹿にしてー!」と、力強く私を振り払った。

こんな力がどこから湧いてくるのかと思うほどだった。

もうパニック状態だった

「危ないから包丁から手、離して!!」

祖母は硬直したままだった。

すると「警察、警察呼ぶわよー!」と祖母が叫び声をあげた!

それを聞いた母が余計に逆上した。


「お母さん、危ないから!手を離して!落ち着いてー!!」



グサッ…!!



え。え…??





顔を下に向けた。

みごとに胸に刺さっていた。

赤い血がにじんていた…


え…?

あっ!

目の前の母の顔が真っ青で、そのまま崩れ落ちた。

その何秒か後に私もドスンと倒れた。






ピーポーピーポー っと

救急車のサイレンが微かに聞こえた。


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あ!陸だっ!!


月の光で海がキラキラして綺麗だね!


なんだか、身体がふわふわする
刺されたはずなのに、すごく気分がいいんだ〜♪♪

海生はこのままキラキラ輝く海の底へ行くのかな?

人魚姫が泡になるようにさっ!

なんだか、気持ちがよくて、吸い込まそうなんだわ♪


ねぇ陸!

生まれ変わったら、また私と一緒にいよう。
今度こそ最後までしよう。

陸〜!

今度こそ、笑ってバイバイな!!













ピーーーーッッ

その音は病室中に響いた。







《おわり》

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