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産声
僕の1日は高木正勝の『産声』という曲で始まる。毎朝6時に、机の上で充電されているiPadから流れるように設定しているのだ。この季節になると、起きる頃にはシャツが汗でじっとりして、大きく空いた窓から吹き込む風でカーテンは揺れ、強い日差しがチラチラと部屋の中に差し込む。外では鳥の小さなさえずりと、電車が走る音、どこかの家から微かなアラームの音が鳴っていた。ベッドの足元で夜通し回っている扇風機は、もうこの暑さでは涼しさの足しにもならない。ただそれらの音に混じって虚しく風の音を奏でているだけに過ぎなかった。そんな夏の朝に、『産声』は鳴り始める。音量は30%に設定しているので、音楽が流れ始めても全ての音を支配してしまうことはない。『産声』が鳴る前の外と扇風機によるBGMは、どこか音が浮いていて、孤立している。しかし、『産声』によってそれらは調和され、それぞれがそれぞれの音を、それぞれの音量でお互いに奏でるようになる。
そうして完成された音楽が、僕には、この世界の産声のように聞こえるのだ。
「洗いたての橅の葉。洗いたての蜘蛛の巣。洗いたての空。何もかもが太陽に輝いていて、まるで世界が一夜にして生まれ変わったように思えた。」
花 『おおかみこどもの雨と雪』
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