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ライティングコンテストで書いた作品「羽化」の供養してみた。

2017年5月26日(金)-6月23日(金)に募集されていた、同志社女子大学情報メディア学科が主催しているライティングコンテストに応募した時の作品です。面白かったし副賞も豪華なので、同学の方がいらしたらぜひ応募してみるといいと思います。同女のHPがリニューアルしてデータの閲覧ができなくなり(よくわかる)、「どんなん書くん?」という質問に対してURLを返送していたのができなくなったので、「いっそnoteに供養してやろう、そしてこのwordファイルを削除してやろう」ということでコピペしました。
テーマは「インストール」でした。
幸いなことに審査員特別賞を受賞し、コメントも賜ったので後の方に記載します。どうぞ、読んでください。


 太田有紀 タイトル:羽化
 今まで皆さんに嘘をついていたことがあります。

 実は、皆さんが私だと思っていた人は私ではないのです。名前も性別も住所も趣味嗜好も、全て私の口から出まかせ、真っ赤な嘘というやつです。
実は私は浮浪児で、小学三年生の時に親に勘当され、ホームレスのシゲさんに弟子入りし休日は空き缶拾い、ご飯は毎日炊き出しと教会巡りという生活なのです。

 えぇ、皆さんが思っていることは私にもわかります。嘘だと。その通りです。嘘です。体重くらいはもう少し軽くてもいいと思うのですが、残念ながら嘘です。前述の私の嘘を読み、ズブの素人の奇をてらったくだらない演出だろうと顔をしかめる人もいるでしょうし、ハハァこいつ友達が少なそうだと苦笑いを浮かべる人、私が嘘をつく真意に注意を払う人もいるでしょう。日本の貧困問題を軽く扱っていると憤る人もいるかもしれません。
 千差万別の反応が面白くて嘘をついただけなのです。私は嘘が好きなのです。くだらんやつだと私に嘲笑をくれるならそれも一興。されどシュレーディンガーの猫のように、毒ガスの入った箱の中の猫が生きているか、死んでいるか。箱を開けるまでわからないでしょう。
 嘘かどうかなんて私以外、いいえ、私にもわからないのです。

 そろそろ本題に入りましょうか、実は私は数ヶ月前、恋に落とされました。嘘つきの私がいうことを、皆さんは信じないかもしれませんが、私は彼を一生愛せると思った、そんないい男でした。私は傷つきたくなかったので彼に言ったのです。嘘つきは嫌いだと。私は彼のことを最初愛していませんでしたが、私のことを大切にしてくれた彼を信じたいと思ったのです。しかし、私が彼を大切に思うようになってから、彼は私に飽きてしまった。彼は何も言いませんが、私も女の端くれですから、視線や、声、文体でわかるのです。男は女を騙せないのです。皆さんは、蜘蛛の巣に引っかかったのに興味を示されない蝶々がどれほど惨めか、わかりますか。いっそ彼が蜘蛛の糸を切ってくれれば、私は自由に羽ばたけるというのに。

 私は蜘蛛の糸に触れるべきではなかった。
私はもう恋なんてしません。誰かの歌で聞いたことがある気がしますが、この気持ちは本当です。私は私の、恋をする機能を凍結します。解凍ソフトのラプラスでだってこの決意を揺らがせるもんですか。私は恋を知る前の私にただ戻るだけなのですから。あぁなのに視界が濁る。彼との思い出でできた蜘蛛の糸が私に絡みつく。私の五感を奪い、身動きをとれなくする。縛られた私は羽を動かすことができない。あぁまた嘘をつきました。本当のことをそろそろ言わねば、皆さんに見限られてしまいそうですね。ごめんなさい。

 私は愛されたい。愛したい。
 全ての嘘に、ごめんなさい。
 私は確かに彼が好きでした。
 
 そして、私は愛することから逃げることができない。女としてのプライドがあるから。また恋愛に必要な設定をして、恋愛が動作可能な状態にするつもりです。残念ですが、私はパソコンじゃないから、自動で更新できない。辛くても悲しくても、いちいち向かってくる別れを乗り越えねばならないのです。あぁ、残念、無念。蜘蛛の意図を無視しましょう。糸を切ろうともがかず、蜘蛛の糸で私はもう一度さなぎになります。栄養を蓄え、もっと遠くに飛べる羽を作ります。次に会う私はもっと美しい蝶となっているでしょう。

 携帯が私に呼びかけます。どうやら私に言いたいことがあるようです。さて長くなりましたが、私は、この非常にどうしようもない戯言を聞いて頂けてとても嬉しいです。申し訳ないのですが、これで最後ですから、どうか私の人生最後の取るに足らない嘘を一つ、聞いて下さい。私はこの痛みを嘘で包み、更新された強く美しい女性になります。なって見せましょう。

 私は、彼と最後に会い、おおきく笑いました。


おしまい。以下は講評です。


以下引用
講評「特別賞・太田有紀さんは、読者を何度もだまして結末に至る。だまされすぎてこの結論も信じて良いのかどうか。芥川や太宰を彷彿とさせる擬古的文体には賛否もあるだろう。ただ、最後までこの方法を貫いた表現力は高く評価したい」

賛否両論あるんだって、おもしろいですね。
錚錚たる文人と並べていただけて、光栄すぎて「いやまじでやめて」って感じですけど、書いた後に太宰治さんが書いた「嘘」を読んで、うわマジ確かにとおもったのを覚えています。

改めて二年前の文章とか恥ずかしさ極みですけど、「生きることは恥なの」ってYOUさんもいってたし、書き続けてねっていってもらえたからまた書くと思う。

読んでいただきありがとうございました。

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