見出し画像

【ズレたブロック、消えたスペース】J3 第25節 松本山雅×ガイナーレ鳥取 マッチレビュー

スタメン

今季2度目の4連勝と好調を維持しているホームチーム。ただ今節は3人の主力を欠いての戦いを強いられることとなる。横山歩夢は負傷離脱中、常田克人と外山凌は累積警告で出場停止。代わりに2トップには小松蓮が前節に続いて名を連ね、常田克人が抜けた最終ラインには橋内優也が今季初先発、ウィングバックには中山陸が移籍後初スタメンに抜擢された。中山陸は当初トップ下やボランチの戦力として獲得していたが、甲府でウィングバックを経験していたこともあり起用されたようだ。そして住田将が5試合ぶり、田中パウロ淳一は実に12試合ぶりのベンチ入りを果たしている。

一方の鳥取も4試合負けなし、直近5試合が3勝1分1敗と調子を上げている。気がかりな数字としては今季アウェイでの戦績が芳しくないこと。12試合で2勝1分9敗。シーズン全体だと7勝4分13敗であることを考えるとホームで勝点を稼いでいることが分かる。アルウィンで勝点を拾うことが出来るか、今季のジンクスを打ち破りたいところ。


左右非対称なサイド攻略

22試合3得点、21試合6得点

これは常田克人と外山凌が24試合を消化した今シーズン残している成績である。この数字を見るだけでも二人が絶対的な主軸であり、チームに欠かせないピースであることは明白だ。そして今節は二人同時に欠くという緊急事態。大きな穴をどうやって埋めるのかは注目ポイントだった。

名波監督が採用したのは左右非対称なタスク割り振り。

右サイドで良い連携を見せていた下川陽太・野々村鷹人の縦関係を左サイドに移植。左サイドが担っていた縦への推進力を託した格好だ。
二人の関係性は明確で、マイボールになると下川陽太はスルスルと内側に入ってくる。そして下川陽太が空けた大外のスペースをオーバーラップした野々村鷹人が駆け上がるという仕組みである。右サイドでも同じ形でプレーしていたこともあり、ここの連携はかなりスムーズ。
野々村鷹人を押し上げるために、橋内優也が左に張り出し、3バックの中央にはボランチの1枚が落ちてくるところまで設計されていた。

左サイドの形

一方で右ウィングバックに起用された中山陸は、本職のサイドプレーヤーではない。下川陽太や外山凌のようなアップダウンを繰り返すというよりは、ボールを走らせて味方との連携で局面を打開するのが得意な選手。加えて中山陸の背後に控える大野佑哉は、今季3バックの中央に構えることが多く、オーバーラップを要求される右センターバックにはブランクが有るのも事実。

こういった起用した選手の特性を考慮してか、右サイドでは少し違った崩しを見せる。まずトリガーになっていたのはルカオ。この試合では右サイドに流れてくる場面が多く、大外のレーンを取ることが求められていた。大外をルカオに任せた中山陸はハーフスペースでプレー。やや後方からのフォローでルカオを支援しつつ、自らはサイドでの司令塔として振る舞うことができていた。

右サイドからの崩し

まとめると、左サイドは下川陽太と野々村鷹人が内外を入れ替えつつも、最終的には下川陽太の推進力を活かす形を作りたいのかなと。逆に右サイドはルカオに幅と縦を取ってもらうことで、中山陸に時間とスペースを供給。比較的プレッシャーの少ないサイドで司令塔としてプレーさせることで、ボールの預けどころを作り出したい狙いがあったように思う。

左右で形こそ違えど、サイドで攻撃の起点を作りたいという設計は共通している。その背景には鳥取が敷く4-4-2の守備ブロックを横に広げたい思惑が透けて見える。人が密集している中央を避けつつ、左右に揺さぶってブロックを広げた隙間で菊井悠介や佐藤和弘が息をしつつ、最終的にペナルティエリア内でのマーキングミスを引き起こしたい。


狙い通りの先制点

まさに先制点の場面は想定通りだったはず。

左サイドのスローインが起点となり、野々村鷹人から中央のパウリーニョへ横パスが入る。この横パスを見て鳥取左サイドハーフの田村は、中山陸へのサイドチェンジを警戒して外側へ走り出している。また、FW田口のプレスバックが間に合わないと踏んだボランチの新井は、パウリーニョに寄せるために持ち場を離れた。

この瞬間こそ松本が待っていた形。図を見てもらうと分かりやすいかもしれないが、瞬間的に鳥取の守備ブロックが崩れてしまい、生まれた空間に菊井悠介が顔を出している。そして菊井悠介に入った縦パスがスイッチになって先制点が生まれることになる。
得点は決して偶然生まれたものではなく、相手を意図的にズラして生まれたものだった。

先制点の場面

菊井悠介が縦パスをフリックし、中央で受けた小松蓮は再び左サイドへ展開。特筆すべきは小松蓮の動き直し。下川陽太へ預けた瞬間にDFの死角へ消え、クロスにダイビングヘッドで合わせている。

ピッチ上で彼らだけが描けていたゴールへの道標。質の高いクロスと質の高いオフザボールの動きで表現された一連の動きは美しかった。

あと、もはや見慣れてしまったけど、菊井悠介のライン間で受けるプレーは本当に上手い。スペースを見つける観察眼、顔を出すタイミングが完璧。お金を払ってでも見たいプレーだ。


鳥取が失ってしまった自由

攻撃面ではトレーニングしてきたものを見せられたが、守備面ではやや不安定な部分があった。スーペルゴラッソ未遂となった石川のミドルシュート以外、決定機を作られたわけではなかったが、ラストパスの手前まで崩されいた場面が多かったので取り上げたい。

松本が終始手を焼いていたのは、初期配置は大外なのに流れで内側に入ってくる鳥取サイドハーフ。最初は大外にいるのでウィングバックがマークしているのだが、内側に移動した時に誰が監視するのか?が序盤曖昧だった。
ボランチに引き渡せば良いのでは?と思ったが、残念ながらボランチはプレッシングの中で出張中。相手センターバックに2トップがプレスを掛け、ボールサイドのボランチは菊井悠介がマーク。必然的に空いてくるサイドバックにはボランチが出ていく設計になっていたからである。

曖昧だったSHのマーキング

内側に絞るサイドハーフのマークについては決めの問題なので速攻で解決。単純にウィングバックが付いていくことにしたようだった。

ところが、ドミノ倒しのように次なる問題が発生する。

先ほど相手サイドバックにはボランチが出ていくと書いたが、そもそも物理的な距離が遠いので若干無理な設計だったことは否めない。特に前半25分くらいまでは鳥取サイドバックがやや低い位置を取っていたので、ボランチとの距離が余計に遠くなっていた。
ウィングバックがサイドハーフを追いかけて内側に入ると、大外レーンを管理する人はいなくなってしまう。結果的に相手サイドバックを自由にしてしまい、ドリブルで持ち運ばれる場面が散見された。特に右サイド。

サイドバックがフリー

ただ、サイドバックが空いてしまう構図は時間経過とともに失われていく。理由は松本が対策したからではない。鳥取の自滅に近い。

試合展開に慣れてきたこともあってか、鳥取のサイドバックは徐々に立ち位置を上げていってしまうのだが、これは極めて悪手だった。なぜサイドバックが空いてしまったか?を思い出せば容易に想像がつくが、高い位置をとれば取るほど松本ボランチに近づいていくことになってしまう。せっかく得られていた時間とスペースを自ら捨ててしまったのである。

この構図にいち早く気づいたのは鳥取右センターバックの増谷。ボールを持った際に魚里に対して、ものすごい勢いで下がってこい!と指示を飛ばしていた。サイドバックの低い立ち位置こそ、松本が最も嫌がるカードであり、攻略の糸口だったはずなのである。

高すぎるサイドバックの立ち位置

こうなると主導権は完全に松本へ。鳥取はボールこそ握っているものの、崩しの最適解を見つけることができないまま時間だけが過ぎていく。

後半早々にセットプレーから1点返したのは、鳥取からすればラッキーだっただろう。ルカオに”当たってしまった”という表現が正しいような場面で、反撃開始の狼煙となるかと思われたが、後が続かず。

松本にとっては橋内優也の負傷交代というアクシデントはありつつも、基本的にやることは変えず、疲れの見える選手を交代していくにとどめた。1点差というスコアと、決定機を作られていなかった試合展開を考えれば、下手に選手交代することでリズムを崩すリスクを危惧したのだろう。ベンチも冷静だったと思う。

最小得点差を守りきった松本が今季初の5連勝をおさめた。


今年の松本山雅をレストランに例えると?

少し試合の内容とは脱線してしまうが、今季の松本の戦い方を例えるとしたら何が分かりやすいだろうか…と考えていて、それっぽい答えが出たので備忘録として書いておきたい。

結論はこちらのツイートの通り。

考える起点となったのは、中山陸の右ウィングバック起用と、左右非対称なタスクを与えていたこと。チームとして枠組みが決まっているチームならば、ウィングバックに中山陸は起用していないだろう。今季ここまで見ている限り、サイドバック系統の選手が向いていると思うし。

ここに名波監督のチーム設計の色が出ている気がしてならない。予め枠組みが決まっているわけではなくて、その時点でベストな11人を選出した上で、どう配置するかを考えてはめ込んでいるのではないかなと。

そして名波監督はその時点でベストな11人を選出する眼が優れている。新鮮な食材を見抜く料理人のように、フィジカル・メンタル両面のコンディションを把握するのが抜群にうまい。特にメンタル面に関しては、選手への接し方によって、鮮度調整をすることすら可能っぽい。(放置プレイとかw)

加えて、フレッシュなメンバーを選んで、それぞれの個性が打ち消し合わないように絶妙なバランスで配置するのもめちゃ上手い。抽象的な言葉になってしまうけど”いい感じに仕上げる”という能力が高いんだと思う。

完璧な選手はいないわけで、それぞれの特徴を正確に認識しているがゆえに噛み合わせが適切なのだと推測している。しかも凄いのはスタメン組だけではなく、控え組に関しても知り尽くしているということだ。キャッチアップ能力がエグい。

一方で、ツイートでは”定番メニュー”を作ると表現したけど、シーズンを通して貫くスタイルを構築するのは苦手である模様。リーグ内を見渡せば、いわきや藤枝のように、確固たるスタイルを持っていて相手に構わずハンマーを振り下ろすチームもある。どちらが良い悪いという話をしたいのではなく、得手不得手の想像なので、「俺達のサッカー」みたいな議論は一旦置いておくけど。シーズン総括とかで話せたらいいかなと。


総括

首位のいわきが敗れたことで勝点差は1に縮まった。藤枝の猛追を受けながら、負けたら即脱落の昇格争いは続いていく。28節に控える藤枝との直接対決まで連勝を続けて臨みたいところだ。

横山歩夢の復帰が不透明である中、2トップにゴールが生まれたのは好材料。シーズンも佳境を迎えて出場停止や負傷離脱のリスクが高まっているので、誰かに依存しない得点源の創出は急務だった。さらなる爆発を願っている。

また、中山陸がウィングバックで計算できそうであるのも大きい。システム変更のキーマンだった前貴之が抜けた影響は計り知れなかったが、中山陸の台頭をもって再び3バックと4バックの併用に挑戦するかもしれない。そんな期待すら抱かせる出来だった。

もしかしたら中山陸が最終盤に向けたブーストになるかもしれない。


俺達は常に挑戦者


Twitterはこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?