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【2トップを支える助演男優賞】J3第21節 松本山雅×ギラヴァンツ北九州 マッチレビュー

スタメン

鹿児島戦で今季ワースト4失点、3試合未勝利となっている松本。今節はアウェイ3連戦の3試合目となる。累積警告で出場停止だったパウリーニョが復帰した一方で安東輝がメンバー外。この試合は3バックを採用し、トレーニングでも好調を維持していたという野々村鷹人が先発で起用された。

対する北九州は直近勝ちと負けを交互に繰り返しており、なかなか波に乗れていない状況。攻撃の軸である高澤が負傷離脱しており、今節は約1ヶ月ぶりの復帰となる。対戦成績を見ていると、いわき・鹿児島・松本・藤枝といった上位陣相手に勝点を奪えていないのが顕著。上位進出を狙うには直接対決で叩くことが重要になってくる。


選択肢を削った2トップ

この試合は2トップを中心に話を展開していこうと思う。

北九州の攻撃は、主に2つの選択から成り立っている。ひとつは最終ラインからの丁寧なビルドアップ。ここでキーになってくるのはダブルボランチの西村と前田で、彼らを経由してプレッシングを剥がしながら、常にスペースのあるサイドへ展開していくのが常套手段。
もうひとつは、右サイド奥のスペースで起点を作っての攻撃。崩しのキーマンである佐藤亮がいるサイド深くで起点を作り、佐藤亮に前を向いてボールを持たせることがひとつの理想形であったはず。起点を作る作業におけるキーマンは高澤なのだが、彼はベンチスタートだった。

北九州の選択肢のひとつ目を削ったのは2トップの守備。

鹿児島戦で問題だったのは、2トップがボランチを消しきれなかったことで、インサイドハーフがフォローに回ってしまったこと。その結果、サイドバックが空いてしまって、薩川に自由に前進させてしまった。

鹿児島戦の守備

この日の2トップは非常に守備の締めどころが良かった。相手のセンターバックにプレッシャーを掛けながら、常に背中でボランチへのパスコースを消す。サイドバックにパスが出れば、素早くボランチにマークを寄せる。鹿児島戦で露呈した2トップの守備の未熟さを、意識の改善によってここまで引き上げてくるとは。やればできんじゃん!案件である。

2トップが相手のセンターバック+ボランチを監視するタスクを徹底してくれるので、相手サイドバックにはインサイドハーフがスライドして対応。
菊井悠介・佐藤和弘の予測とリアクションがよく、サイドバックに自由に持ち運ばせるシーンは少なかった。

北九州としてはボランチを経由して前進したいのだけど、松本2トップに監視されているので使えない。サイドに逃げても、インサイドハーフが寄せてくる。ということで地上からのビルドアップを詰まらせることに成功。

そして繰り返しになるが、この成功の一番のキーポイントだったのは、2トップがボランチを消す「カバーシャドウ」の守備をサボらずにやりきったこと。これに尽きる。


選択肢を潰した常田克人

ボランチ経由のビルドアップを削られた北九州。最終ラインでボールを保持しても運べないので、前線にロングボールを蹴るようになる。そこで狙った先は、右サイドの奥。前述の通り、佐藤亮にボールを集めるための布石である。

ここで一役買ったのが常田克人。上形が流れてきて起点になろうとする動きに粘り強く対応し、時々うまくいかないこともあったが、完全にサイドを攻略される場面はなかったので及第点と言えるだろう。試合後のコメントでも、常田克人のサイドは警戒していたと話していたので、攻撃の芽を摘み取る働きは非常に重要だった。

地上からの前進、空中からの前進、どちらも封じられてしまうと苦しくなってくるのは北九州。試合の流れを変えるカードを切ってくるのはもう少しあとの話である。


成熟を見せた2トップ

特に2トップの連動が今季一番…というよりも、私がここ松本山雅に来てから2トップでやってきた中で一番良かったと思います。お互いにコミュニケーションもよく取れていましたし、付かず離れずの距離感、それからノーアングルの立ち位置もなくて、小気味よくカウンターを発動できました。
ヤマガプレミアム 試合後監督コメントより

福島戦、2トップの連携の悪さ(特に守備)で苦言を呈され、早々の交代を命じられていたことを考えれば、急激な成長を遂げていると言っていい。もっとも、その時とは横山歩夢の相棒が変わっているのだけども。

攻撃に絞って見ていくと、まずは2トップが常に縦関係になっていたことが良かったと思う。名波監督のコメントで言うところの「ノーアングルの立ち位置もなく」という部分になると思うが。

基本の立ち位置は、横山歩夢が前でルカオが少し下がり目。これは守備時に横山歩夢の負担を減らして前残りをさせていることも関係していると思う。攻撃に転じたときに、そもそも横山歩夢の方が高い位置にいるという意味で。

そして、いつもの2トップと大きく違ったのは、単体攻撃ではなく、ペアで攻撃する場面が多かったこと。今季の松本でよく見るのは、常田克人のロングボールに横山歩夢が抜け出して仕掛ける、ルカオがDFを背負ってボールを受けて強引に反転して持ち運ぶ。こんな場面ではないだろうか。

ところがこの試合では、横山歩夢に入った楔のパスをルカオに落とし、ルカオから横山歩夢へスルーパス。なんて場面も見られた。2トップの距離感が遠すぎず近すぎず、かつ縦関係を維持できていたことで、二人の連携で相手DFをかわしてカウンター発動という新鮮な光景が。
これまでは、単純に推進力のあるFWを2枚前線に並べているだけだったが、この試合で披露した連携が成熟していけば、”2トップ”である意義がより発揮されてくるはず。


それでもMVPは佐藤和弘

2トップべた褒め記事じゃないんかい!というところだが、個人的なMVPは佐藤和弘。次点で菊井悠介。

佐藤和弘はとにかく、めちゃくちゃに走った。

カウンターの局面になれば、必ずと行っていいほど相手ペナルティエリア内までスプリント。「ルカオと歩夢、お前ら二人だけにはさせねえぜ!」と言っていたかは定かではないが、彼の優しさと意地を見せてもらった気分。

破壊力満点の2トップが抱えていた問題点として、スピード・推進力がエグすぎるので、周りが誰も付いて行けない。つまり、カウンター時に2トップが孤立してしまうという点があった。2人でフィニッシュまでやりきってくれたなら万事解決なのだが、現実はそれほど甘くない。そこで救世主として現れたのが、佐藤和弘兄貴の全力スプリントだったというわけだ。

佐藤和弘がすごいのは、カウンターに付いて行くのだけど、その後すぐに切り替えて守備位置に帰ってくること。この献身性、めっちゃ疲れてそうなのに白い歯を見せて笑っている狂気に満ちた表情、マジで最高である。

もう一人、頑張ったで賞をあげるとすれば菊井悠介。彼は2トップにボールを渡すまでのリンクマンとして奮闘していた。自陣でセカンドボールに素早く反応し、正確な楔のパスでカウンターのスイッチを入れる。時には自らドリブルで持ち運んでチャンスを演出することもあった。目立たないが、2トップを行って来い!と送り出していたのは菊井悠介だったね。

2トップが躍動した裏には、とてつもない運動量でハードワークした二人の存在があったこと、どうしても書きたかった。


得点シーンと選手交代に思うこと

北九州の決定機は、佐藤亮がカットインから左足を振り抜いたもののビクトルのセーブに阻まれたやつだろうか。対する松本も、22分にルカオが独力でDFを振り切って迎えたGKとの1対1を仕留めきれず。
やや停滞した状態で後半に入った。

松本の得点が生まれたのは、散々繰り出していたカウンターとは全然別の文脈から。佐藤和弘が正確なボールをファーサイドへ入れると、野々村鷹人が折り返して常田克人が合わせてネットを揺らす。二人が合わせる形はトレーニングでもやっていたらしく、練習の賜物と言えるだろう。

あとひとつ気になったのは北九州の選手交代のタイミング。
松本のセットプレー前に2枚替えをしているのだけど、これがどれくらい影響したか。北九州の守備はマンマークというよりはゾーンなのであるが、180cm台の選手を2枚下げたことによる立ち位置の変更など、守備に一時的な混乱が生じていた可能性はなくはない。
常田克人は代わって入った高澤と河野のギャップでヘディングしていることも、偶然なのだろうか。

さて、最後に松本の選手交代を見ていて気になった点をひとつ。2トップめっちゃ引っ張ったなーと。横山歩夢は代表合宿帰りだし、ルカオも前半から相当飛ばしてたからキツそうだった。それでも90分まで替えなかったのは、二人の連携が良かったからより長い時間見てみたかったのか、横山歩夢・ルカオと他のFWメンバーの間に差が開いてきてしまっているのか。

横山歩夢は、おそらく9月にU-19日本代表の活動でチームを離れるはず。アウェイ福島戦とホーム鳥取戦にはいない可能性が高い。そうなると2トップの1席が空く。これは名波監督に活躍を見せつける絶好のチャンス!と捉えて、小松蓮・榎本樹・田中想来には頑張ってほしい。


総括

早い時間帯で高澤と前河を投入してきた北九州に対して、パウリーニョが左腿裏の違和感で途中交代。そういった逆風が吹く中で、1点リードを守りきったことは選手の自信に繋がっただろう。特に重圧もあったであろう稲福卓は大きな経験を積んだはず。

なんとか首位と勝点4差をキープしているが、昇格圏内の2チームと直接対決を終えてしまっていることは非常に痛い。松本は残り全勝の意気込みで走り続け、上位2つが少しでもコケてくれるのを祈るしかないのだから。

そういった意味では、ここから5試合中4試合がホームゲームというのはアドバンテージ。声出し応援解禁により、より熱いサポートを受けられるであろう讃岐戦で、終盤戦に向けた弾みをつけたい。

終盤戦へのブーストとしては、甲府から育成型期限付き移籍で加入した中山陸にも期待がかかる。視野の広さとスルーパスが持ち味だが、走れる司令塔というイメージ。松本の現スカッドでは、替えが効かなかった菊井悠介の役割を担うことになりそう。元々攻撃面が評価されたプロ入りしている選手。インサイドハーフ・シャドー・トップ下あたりで起用が想定されることを考えれば、球際での守備やブロックを組んだ際のポジショニングにどれだけアジャストできるかがキーになりそうだ。


俺達は常に挑戦者

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