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【ジレンマだなあ】J3第20節 松本山雅×鹿児島ユナイテッドFC

スタメン

鹿児島は継続して4-2-3-1。基本的なメンバーはホームで戦った時と同じだが、センターバックと左サイドハーフが変わっているのはポイント。この夏に栃木から期限付き移籍で加入した小野寺がいきなり先発に名を連ねたのと、チームを引っ張っていた米澤がメンバー外に。

今季初の3試合未勝利。やや停滞気味なチーム状況にある松本。そこにチームキャプテン前貴之の電撃移籍という激震が走った中で迎える一戦である。パウリーニョは累積警告での出場停止。

前貴之の移籍に関して少しだけ触れておくと、正直な気持ちとしては理解はできるが納得はいかないかなあ。プロ選手である以上、上のカテゴリーでプレーしたいと考えるのは普通のことだし、ましてや残留争いに巻き込まれている古巣からオファーをもらったら心が揺れないはずはない。限られた時間の中で様々に悩んで出した決断だと思うのでリスペクトはするつもり。ただ、いちサポーターとしては納得はいかないかなと。これは時間が解決するものでもなさそうなので、横においておくしかないのかもしれないが。


ピン留め防止策

前回対戦で鹿児島に手痛くやられたのは、3-4-2-1ウィングバックのピン留め。鹿児島の両サイドハーフが高い位置をとることで、ウィングバックが押し下げられてしまい、自陣低い位置から抜け出せなくなってしまった。サイドバックを自由にさせすぎてしまったことと、そこをケアしようとして木村と中原をフリーにするという悪循環に陥ったことが一番の敗因。
個人の質の問題ではなく構造の問題だったので、10回やっても10回やられていたであろう。

前回対戦時のレビュー記事から転用

対抗策として用意したのがシステム変更だったのかなと。4-4-2で構えることで、鹿児島サイドハーフ-松本サイドバック、鹿児島サイドバック-松本サイドハーフというマッチアップを明確にしてシステムのズレを解消しようとした狙いだと思う。結果的には、前貴之の移籍によって、3バックができなくて4バックにしたのか、もともと4バックで臨むつもりだったのかは分からなくなってしまったけど。

たしかに盤面上では上手く噛み合ってそうだったのだけども、なかなかどうしてピッチ上では違った現象が顔を見せる。顕著だったのはサイドバックが空いてしまってそこを起点に運ばれるシーン。マッチアップ明確にしたんちゃうんかい!という話なのだけど。笑

まずボランチ-ボランチ間の距離が遠かった。4-2-3-1の鹿児島に4-4-2で当てはめていくと、相手のボランチを抑えるべきは松本のボランチになる。ただ、松本の守備はブロックを敷いてのゾーン守備を志向しているので、ボランチが軽々しく持ち場を空けて出ていくのはセオリーとして御法度。安東と住田は「基本的には守備ブロックの中央を埋めるように構えているけど、相手のボランチにパスが出た瞬間に数mダッシュして寄せる」という激ムズなタスクをこなす必要があった。彼らも人間なので、パスが出てから反応して数メートルダッシュするなんて芸当はなかなか難しいもの。

ボランチが出てきては間に合わないのであれば、サイドハーフが絞ってきて管理すればヨシ!という考え。鹿児島の右サイドにボールがあるとき、佐藤和弘が木村をマークすることでカバーしていた。

ところが、ボールが左サイドに展開された時が問題。内側に絞ってきている佐藤和弘が本来マークすべきは左サイドバックの薩川。逆サイドへ展開されそうになったら「木村のマークを捨てるかどうか判断し、薩川までダッシュで寄せる」というのが佐藤和弘の仕事になっていた。ただ、人が走るよりボールが動くほうが速いので佐藤和弘は間に合わないことが多かった。2失点目も、大枠としてはこういった原因から失点している。

ここで思い出したいのは、そもそも前回は何でやられたんだっけ?という話。松本のサイドの選手を1枚ピン留めされて、相手サイドバックが構造的にフリーになってしまっていたのだった。この試合も、プロセスは違えどサイドバックが空くという結果は同じ。根本の部分で構造的に殴られている状況は解決できていなかった。

ボランチが間に合わないからサイドハーフが寄せるという解決策も、汗をかいて距離を稼ぐタスクをボランチからサイドハーフに載せ替えただけ。個人的に、誰かが頑張らないといけないという解決策は、仕組みで解決できていないので解決策と呼べないのではと思っている派だったりする。

この試合に限定すれば、頑張らなければいけない選手が佐藤和弘だったというのも松本にとっては災いした。木村→薩川へ移動を強いるタスクは、スピードに長けた選手ではない佐藤和弘には少し酷だったような気もするからだ。
もちろん、相手のサイドチェンジを予測して、1秒でも早く動き出して薩川に寄せられていれば万事解決だっただろう。ただ、それは佐藤和弘の判断力・洞察力・予測力に依存したものであり、機能するかどうかは状況次第。そして実際には機能しなかった。


悩ましい2トップの人選

4-4-2でブロックを敷く場合に悩ましいのは2トップの人選だ。ゾーン守備をする上で2トップに求められるのは相手の選択肢の制限。もう少し具体化するならば「ボランチへのパスコースを消しながら、センターバックへプレッシングをかけること」と言える。

そしてプレッシングを掛けた結果、センターバックからサイドバックにパスが出たら「センターバックへのバックパスを牽制しながら、サイドバックに寄せて、味方サイドハーフと連動して挟み込む」が仕事になる。

あと強いて言えば「ボランチにパスが通ってしまった場合に、プレスバックして味方ボランチと挟み込む」とかだろうか。

言葉にすると簡単なように見えるが、一番最初のボランチへのパスコースを消しながらプレスが一番難しい。常に動き続ける2人の間に立ち続けることをイメージしてもらうと分かるかもしれないが、背中側にいる人(ボランチ)が動いたときに自分も合わせなければいけないのが至難なのだ。常に首を振って状況を認知し、立ち位置を修正し続けなければいけない。

名波監督は「カバーシャドウ」という言葉で表現するこの守備、松本FWで一番上手いのは小松蓮だと思っている。まだまだ物足りないけど。次は榎本樹かな。小松蓮の守備時の振る舞いを注目してもらうと一目瞭然だが、彼は首を振る回数が圧倒的に多い。常に背後にいる”はず”のボランチを確認することを怠らない。ルカオや横山歩夢がマークを外しがちなのは、首振りの回数が少ないこともあるんじゃないかなと。こと守備に関しては、田中想来の方が一枚上手かもしれない。

ただ、攻撃面を考えると横山歩夢&ルカオというコンビは魅力的。カウンターに出た際のスピード、迫力、推進力は最も高いセットだろう。何よりチームトップスコアラーである横山歩夢を外すという選択肢は、今の松本にない。
守備のことを考えると横山歩夢の相棒は小松蓮だが、攻撃の破壊力を考えるとルカオを組ませたい…。そんなジレンマを抱えている。

試合に話を戻すと、5試合続けて複数得点が挙げられていないチーム状態、引き分けでは満足できない鹿児島戦といった前提条件を考えると、攻撃面を優先して久しぶりに横山歩夢とルカオを組ませてみたのだと思う。そして1ゴールずつと見事に結果を出してみせた。この観点ではアタリだったと思う。

その一方で、2トップの選択肢の限定が未熟であるがゆえに、サイドハーフとボランチがツケを払わされる格好になっていたのも否めない。特に守備を一部免除されていた横山歩夢がいた右サイド、佐藤和弘は守備に汗をかく時間が長くなってしまった。気が利く選手であるので、FWが開けた守備の穴を埋めてもらうように託していたのだと思うが、彼の特性とはアンマッチなタスクで忙殺されてしまった印象。攻撃面では存在感を示せず、ちょっとかわいそうだったかなと。

4-4-2で守備ブロックを敷きつつ、2トップの守備タスクを一部中盤に負担してもらう設計であれば、中盤で起用する選手は限られてくる。攻守に1.5人分くらい運動量豊富に動けることが第一条件になるので、パウリーニョ・住田将・安東輝・稲福卓といった面々は重宝されるだろう。逆に佐藤和弘・浜崎拓磨といった選手は限定的な起用になってしまいそう。

FWに若い選手を揃えているので、仕込みに時間がかかる守備で脆さが出てしまうのは一定数仕方ないところはある。シーズン進む中での成長を込みで考えているだろうし。しかし、目の前の結果がほしいシーズンで、終盤戦に入ろうとしている段階で数ヶ月先の伸びしろの話をするのはちょっと違う気もする。

目の前の試合で得点を奪い、かつ守備を安定させるためにどうするか。多少中盤に負担がかかってしまっても攻撃に全振りした2トップか、チーム全体の守備を安定させる2トップか。FWの人選には名波監督も頭を悩ませているに違いない。


総括

鹿児島戦のピッチで起きていた話と、シーズン通しての課題と、残り試合を見据えた話とが入り乱れてしまい読みにくかったらゴメンナサイ。

個人的にこの試合を通して、20試合を消化した上でチームが直面している課題が色々見えてきた。そして見えた課題について考えていくと、今季の編成だったり、名波監督の志向するサッカーだったり、昇格を必達目標にしている今季の立ち位置だったり、松本山雅というクラブの文脈だったり…本当に色々なことに議題が発展していく。僕自身の、チームの抱えている課題に対しての解像度が上がってきて、より根っこに近い部分を見ているのかもしれない。

立ち返ってみると、今季の名波監督へのオーダーって「なにがなんでも昇格すること」のはず。つまり、何かと勝利を天秤にかけた場合、勝利を選択するべしということ。その背景には、降格1年目の方が戦力も維持しやすいことや、クラブの財政面へのダメージを最小限で抑えたい狙いなどがあるはず。

そして、勝利から逆算したときに2トップの人選をどうするか?は非常に興味深いテーマだと思っている。名波監督の意図が出やすい部分ではないかと。もちろん選手のコンディション等で起用できる選手が限られる場合もあるだろうけど。

さて次の相手は北九州。前回対戦では、鹿児島と似たようにサイドのピン留めで痛い目にあった相手である。鹿児島戦を見ていれば構造で欠陥を抱えている部分は明らかなので、そこを上手く隠しながら振る舞えるかどうかがキーポイントになりそう。鹿児島よりもセンターバックの持ち運びが積極的なので、下手に自由にさせるとスルスルと侵入されるだろう。攻撃よりも守備が大事な試合だ。


俺達は常に挑戦者

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