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【怪我の功名】J2第30節 松本山雅×ツエーゲン金沢 マッチレビュー

スタメン

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松本は4試合勝利なし。前節からは4人変更してシステムも3-4-1-2を採用。圍・宮部・河合・伊藤をベンチに置き、村山・外山・鈴木・山口を先発で起用してきた。山口一真は長期離脱後初のスタメン、榎本樹は今季初のベンチ入りとなっている。

対する金沢は11試合勝ちなしとこちらも長いトンネルから抜け出せていない。今節はアウェイの山口戦をミッドウィークに戦って移動を込みで中4日というタイトなスケジュールで迎える一戦である。

直近5試合の成績は両チームとも同じで、1分4敗。悪い流れを断ち切って残留争いから一歩抜け出すことが出来るだろうか。


松本の誤算

ともに残留争いに身を置いていることもあり慎重な立ち上がり。リスクを負わずにシンプルに前線にボールを預けるシーンが目立ち、まずは失点しないことを頭に入れてゲームに入ったことが予想される。それでも時間を追うごとに段々と両チームともに準備してきた形が見えてきた。

松本で特徴的だったのはボランチが最終ラインに下りる動き。センターバックがボールを持つと必ず降りてくるようになっていた。最初は平川や佐藤が個人の判断で行っているのかと思ったが、飲水タイムを挟んだり後半になっても継続していたのでチーム内で決め事として統一されていたのだろう。ただ、気になったのはボランチの下りる場所がまちまちだったこと。橋内の右なのか左なのか、場合によっては常田の左だったりにポジションを取ることもあり、ここらへんは選手に任されていたよう。これから想像するに「ビルドアップの時はボランチの1枚が最終ラインに落ちてサポートする」くらいの粒度での決め事だったのではないだろうか。細部まで縛るのではなく選手の自主性を重んじる名波監督ならば有り得そうな指示だと思っている。

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個人的には、このボランチが最終ラインに下りる動きはあまり効果的ではなかったと思っている。というのも、金沢の動きが直近数試合とは異なっていたからだ。北九州戦・山口戦はともに前線から2トップが強めにプレスを掛けて、連動してサイドハーフやボランチも前に出てインターセプトを狙うのがベースの戦い方になっていた。しかし、この日は2トップは前からプレッシャーを掛けてこない。それよりも、ボールを失ったらまずは4-4-2のブロックを組むことが最優先。守るときは全体のバランスを崩さないことに重きを置くという戦い方だった。

このあたりで松本のスカウティングとピッチで起きていた事象にギャップが生まれていたかもしれない。松本は事前の対策どおりに前からプレッシングを掛けられても、最終ラインで数的優位を作って交わしていく姿勢を見せ続けていたが、金沢は一向に圧力をかけてこない。これでは中盤の人数をみすみす1枚減らしてしまっていることになり、金沢にとっては守りやすい展開だったはずだ。

ピッチ内では異変を感じていたはずだが、結局ボランチが最終ラインに落ちる形は後半10分ほどまで続くことになる。金沢の変化によってプランAが崩壊した松本だが、修正するまでに60分近くを要してしまったのは痛すぎた。遅くともハーフタイムで、欲を言えば前半の飲水タイムで修正したかったところ。

実際に後半途中からはボランチが下りる動きを止めて、逆に中央にとどまり続けることで金沢の狙いを外すことに成功している。2トップとボランチの間で平川が受けて攻撃の起点となるプレーは再現性を持って繰り返せていたし、もう少し早く手が打てていればとは悔やんでも悔やみきれない。


決まらなかったロングカウンター

ここまでは松本のビルドアップについて書いてきたが、本来の攻撃の狙いはそこにはなかったはずだと思っている。この試合に向けて松本の施した一番の変化は2トップ+トップ下の復活。そして山口・鈴木・セルジーニョという強烈な個を並べたことにある。

今までは前線3人のうち一人は良い意味で気が遣える選手を起用することが多かった。バイネームで言えば、河合や阪野、小手川あたりのことだ。彼らは味方の動きを見て瞬時にフォローに入ったり、黒子役に徹することも厭わない。翻って、先発した3人はいずれも強烈な個性を持っており、どちらかといえば王様として振る舞いたいタイプ。守備の部分でやや不安はあるが、それを補える攻撃性能を装備している。松本の本来の狙いは、前線3枚を生かしたロングカウンターにあったと思う。実際に何度か金沢ゴールを脅かす場面はあったが、決定機までは作れなかった。

うまく機能しなかった背景は、金沢のブロックを構築する早さと意識が高かったこと、松本の守備が機能していなかったことが挙げられると思う。

前者に関しては前述したとおりだが、とにかく金沢の選手は攻撃から守備に切り替わった際に帰陣するスピードが早かった。まずは自分たちの取るべきポジションを取ること、バランスを整えることを重視していて、これをなかなか上回れなかった。松本が自陣からビルドアップを試みる局面が多かったのは、カウンターを発動できずに遅攻に移行せざるを得なかったからだと思っている。

カウンターが上手く発動しなかった理由のもう一つは、松本の奪い方にあると思っている。守備時に5バックを形成するのだが、奪い取る位置が低すぎるので敵陣に入るまでにエネルギーを使い果たしているのだ。名波監督も試合前後のコメントで全体が後ろに重たくなっていると言及しているが、ボランチとウィングバックが最終ライン近くに吸収されることで実質7人が自陣に釘付けにされている。ここから40~50メートルを駆け上がっていくのはそう何度も出来ることではなく、結果的に前線にボールを放り込んで終わりになってしまうことが多い。個人ではなく全体の課題が大きく、名波監督が就任後からずーっと言い続けているのだが変わらないあたりは根が深いと思う。


5枚置くこと=5バックではない

そんなこんなで後半に入り、61分に試合は動く。センターバックからのパスを受けた渡邊がドリブルで中央左に持ち運ぶと、反応した大石がラインブレイク。ペナルティエリア左でから折り返し、大野に当たってややコースの変わったボールにニアで丹羽が合わせてネットを揺らす。

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この場面、大石にパスを供給した渡邊がフリーになっているのが個人的に一番気になった。松本は守備時には5バックで最終ラインを組んでレーンを埋めているのだが、後ろに重たくなってパスの出所を抑えられない現象がここのところ続いている。渡邊に対して誰が寄せるべきなのか明確になっておらず、鈴木・平川・下川が中途半端に位置をとってプレッシャーにならないプレッシャーを掛けるにとどまる。下川が一列上がった背後を狙って大石が走り出したので、たまらず大野がラインを下げて付いていくが、その横の橋内はオフサイドを取ろうとラインを上げており、この時点で最終ラインには凹凸ができてばらばらになっている。

そもそもボールホルダーに誰が寄せるべきかがはっきりしていれば、最終ラインは連動して動くことが出来る。しかし、中盤から前の動きが定まらないので、一列後ろのDFの判断も遅れ、個人の判断でバラバラに動かざるを得ない状況になっているのだ。今の松本はただ最終ラインにDFを5人並べているだけで、本質的には5バックになっていない。それが故に少し工夫をつけて攻撃してくる相手には、あっさりと守備陣が崩壊してしまう。

今のチームの守備原則ならば、ボランチが多少無理をしてでも出てくべきだと思うが、平川も佐藤も中盤の掃除屋というタイプではない。もう一度チーム内でルールを徹底すると同時に、人で解決せざるを得ない部分も出てくるだろう。泥臭く黒子役に徹することが出来る選手がほしいところ。その点で京都戦の安東は良いパフォーマンスを見せており、同じくカバー範囲が広い前の復帰も待たれるところだ。


退場の功罪

先制を許した松本は田中パウロ、河合を投入してシステムを3-1-4-2に変更。平川をアンカーに置く攻撃的な形に舵を切る。しかしその数分後に下川がラフプレーで一発退場となり10人での戦いを余儀なくされることに。下川はこれがプロでは初のレッドカード。停滞感の漂うチームにフラストレーションを溜めていたのかもしれないが、あまりにも軽率なプレーだったし、退場は妥当な結果だろう。多少リスクを負ってでも攻めようとしていた名波監督にとっては青天の霹靂で、ゲームプランの修正を求められることに。

ところが、突然の退場劇は金沢の歯車を狂わせることになる。ここまで4-4-2のシステムでバランスを崩さないように戦ってきた金沢だが、松本が10人になったことでややシステムを度外視した攻撃に出てきたからだ。特に厄介だったのは河合と田中パウロだろう。河合は金沢のボランチ周辺で動き回って戦局をかき回すことにより、時に金沢のボランチが持ち場を離れる事が出てくるように。田中パウロはボールを持てばドリブルを仕掛けて一人交わすことが出来るので、金沢は2人・3人とDFを割かざるを得なくなり、右サイドはカオスに陥っていた。

やりづらさを感じていた金沢に対して松本は、カウンター対策で宮部、セットプレーの高さとして榎本を投入してさらに攻勢を強める。

そしてドラマは後半アディショナルタイムに待っていた。右サイドからのフリーキック。セルジーニョが速いボールを入れると、駆け引きでDFの前に入った榎本が頭で合わせて同点に追いつく。榎本はプロ4年目にして記念すべき初ゴール。同時に崖っぷちに追い詰められていたチームを救う値千金のゴールとなった。

直後に緩い守備から金沢に決定機を作られるもポストに救われると、逆に松本もセルジーニョがチャンスを迎えるが決めきれず。残留争いを占う直接対決は痛み分けという結果になった。


総括

よく勝点1を拾ったという内容だった。1点ビハインドで退場者を出した時には、正直心が折れかけたサポーターも多かったはずだ。勝点1を積み上げたことも大きいが、直接対決で金沢に勝点3を渡さなかったという点も大きい。

加えて、ただの引き分けではなく、若手のプロ初ゴールが終了間際に飛び出すというおまけ付きである。ここのところ重苦しい空気が漂っていた松本にとっては、なにか起爆剤となるような出来事が欲しかったはず。その点で退場からの劇的同点弾というのはややマッチポンプな感も否めないが、特大の刺激になることは間違いない。もやもやしていた空気を一掃し、これまた残留争いを演じるライバルである北九州を迎え撃ちたいところだ。


One Sou1


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