【お手本はすぐ隣に】J3 第17節 松本山雅×福島ユナイテッド マッチレビュー
スタメン
松本は3連勝中。唯一の変更は前節ベンチ外となっていた住田将。スタンドから見つめた富山戦でどんな気づきを得て、何を自身のプレーにフィードバックし、ピッチでどんなプレーを見せてくれるのか。休息十分でコンディション的にも整っている彼に期待したい。
対する福島は7試合勝利から見放されている状況。藤枝に6失点を喫した試合はあったものの、相変わらず失点数はリーグでも優秀な部類にある。ただ得点数が伸び悩んでおり、試合内容の割に結果が付いてきていないという流れである。
福島が堅守である理由
16試合を終えた段階で失点15。藤枝に6失点していることを差し引いても、1試合あたり1失点以下という数字で、守備が堅いと言っていいだろう。
なぜこれほどまでに堅い守備を誇っているのか、その理由を紐解くにはボール保持に注目する必要がある。
福島のボール保持における鉄則はトライアングルを作ること。ピッチ上あらゆる場所でトライアングルを形成することで、ボールホルダーに対して常に複数のパスコースを提供する。場合によっては4人目が絡んでくることで、三角形を2つ合わせてひし形に近くなることも可能。自陣でも敵陣でも、右でも左でも同じような局面を再現できていたのでトレーニングから相当仕込んでいるはず。ウィングバックの選手が斜めに裏抜けをして内側に入れば、シャドーの選手が大外に流れてきてポジション被りを見せない。ボール保持の局面でチームとしての狙いがはっきりと現れていた。
もうひとつ特徴として、福島はパスを繋ぐサッカーだが、積極的にリスクを負うサッカーではない。例えば同じくパスサッカーを標榜する藤枝は、スイッチを入れる縦パスをどんどん入れてくるし、ウィングバックがペナルティエリア内まで侵入してきたりする。対して福島は、無理な縦パスを入れようとはしない。あくまでパスを出すのはフリーの選手へ。前を向いてボールを受けても、パスコースがなければ迷いなくバックパスをして攻撃をやり直す。
ビルドアップの局面でリスクを背負わない分、嫌な奪われ方をしない。五分五分の縦パスをインターセプトされたり、ロングボールを蹴り込んで弾き返されるのは御法度だ。悪い奪われ方をしないので、決定的なピンチにつながるカウンターを受ける場面も少ない。そして、自分たちがボールを保持するということは、相手の攻撃時間を削っていることと同義。かつての松本のように打たれ強い堅守ではなく、極力相手に攻撃の機会を与えない(=自分たちの守備の機会を極力減らす)ことが、失点数が少ない要因だと思っている。
課題を見せた2トップ
福島がボールを大事にするスタイルであることは松本も織り込み済み。プレッシングで自由を奪えるかがキーポイントだった。
いつものように横山歩夢と小松蓮がプレッシングを先導し、インサイドハーフの菊井悠介と住田将があとに続くのだが、どうにも連動性に欠ける。プレッシングの練度が低いのは今季ずっと抱えている課題であったのだけど、相手のビルドアップの完成度に助けられて何とかなってしまっていた。ところが福島のビルドアップは非常に整理されており、プレッシングを外すのはお手の物。
よく見られたのは上のような場面。雪江に横山歩夢が寄せて、田中に菊井悠介が連動して寄せる。相手の右サイドでビルドアップを詰まらせているのだが、ボランチの樋口へのパスコースが空いてしまう。福島のトライアングルの2点は抑えられているのだが、3人目が空いたままの状態。
チームとして福島の右サイドで攻撃を封じ込めたいのならば、小松蓮は大武ではなく樋口をマークしていなければならない。なぜなら横山歩夢が内から外へ誘導した時点で大武へのバックパスを制限しており、仮に小松蓮が大武をマークしているとなれば、2トップが同じパスコースを警戒していることになるから。並のチームならばボランチのポジショニングが微妙で、右センターバックと右ウィングバックを抑えておけばOKだったりする。福島の練度が高いがゆえに、2トップの連動が悪いという課題が露呈してしまっていた。
ではどういったプレッシングが理想なのだろう。個人的には、25:25~のシーンは手応えを感じるに十分だったと思う。
横山歩夢が雪江に寄せて、菊井悠介は田中への縦パスを牽制する。雪江は守備ブロックの間に顔を見せた樋口へのパスを選択するが、しっかりと寄せてきた小松蓮がインターセプト。敵陣でショートカウンターが発動し、フィニッシュまで持ち込むことに成功した。大武ではなく樋口へ寄せた小松蓮はナイス判断。
ボランチへのパスコースを常に消せていれば、福島に残された選択肢はGKを使って逆サイドへ逃げるか、前線へのロングボール。前者は攻撃のやり直しで時間がかかるので守備を立て直せるし、後者のように「ボールを捨てさせる」選択は福島が一番嫌がるプレーだったはず。ロングボールを弾き返されて、こぼれ球が松本に渡ったらカウンターを食らってしまうのだから。だからこそ、2トップが連動してボランチへのパスを制限できるかどうか、これが試合の行方を左右したと言っても過言ではない。
前半は樋口・諸岡を捕まえきれず、2トップがプレスに出ればひっくり返される場面が続いてしまい、自陣まで押し込まれる時間帯が長かった。それでも無失点で終えられたのは、パウリーニョ+3バックの面々が中央を固めていたから。オフサイドラインで駆け引きする長野や新井を逃さなかった3バック、中央への縦パスを回収したパウリーニョは盤石で、ボールポゼッションされた割に決定機は少なかった。
良きお手本としてのルカオ
最終ラインの頑張りに応えられなかった2トップに対して、名波監督は辛口。ハーフタイムに雷が落ちたようで、小松蓮は交代を命じられた。代わって出てきたのはルカオ。
まあカウンターの局面はまだしも、前半の守備は相当に酷かった。そして守備で課題を見せるのは今季初めてではなく、トレーニングでも修正を施していたからこそ名波監督の落胆は大きかったのかもしれない。名波監督が選手を怒る時って、トレーニングで仕込んだことが試合で発揮できていなかったり、本来できるはずの頑張りを見せなかった時が多い気がする。
代わって出てきたルカオは、非常に質の高いプレーを見せてくれた。後半のはじめ3分間で2回、横山歩夢にボランチをマークするように指示を出していたので、何を求められているかは理解していたっぽい。そしてルカオ自身も、センターバックに無理に寄せるのではなく、ボランチを監視するポジショニングを徹底。ルカオがボランチへのパスコースを制限してくれていたので、福島左サイドのビルドアップはノッキングするようになった。攻撃のタクトを振るう樋口を抑えてくれていたのは大きかったと思う。
福島がビルドアップでトライアングルを形成する際に生命線となる、樋口と諸岡を抑えたことで試合は膠着状態に。やや福島に焦りが見えはじめ、リスクのあるパスを選択するようになると、ルカオを活かしたカウンターが威力を増していく。DFを2人~3人引きずりながらコーナーキックをゲットしてくれる彼はチームとしてめっちゃありがたい存在。1点差でリードしている試合展開で求められていたプレーを遵守し、守備もサボらない。ルカオは本当に真面目な選手だなと思う。
住田将
ここまでずーっと守備のことを書けているのは、前半3分に先制できていたから。守備に対してあーだこーだ言えるだけの余裕があった。
ビクトルのゴールキックを小松蓮が競り勝ち、前貴之から住田将へ繋いで、ボールは右サイドに流れていた横山歩夢へ。ここで横山歩夢と対峙していたのは3バック中央の大武。守備の要である大武をサイドに引っ張り出せていた時点で、得点が生まれる可能性は高くなったと思う。横山歩夢は縦に仕掛けて右足でクロスを上げると、住田将が左足で合わせて先制点をゲット。
実は横山歩夢にパスを出したのも住田将。パスを出した後にすぐさまペナルティエリア内に突っ込んできた動きこそ、彼が富山戦をスタンドで見つめて学んだことかもしれない。
前への意識、フィニッシュの局面まで絡む意欲。失われつつあったものを取り戻し、選手として1ステージ上がったことを”結果で”証明してみせた。
得点を決めた後の力強いガッツポーズそして大きく吠えた。淡々とプレーする印象があった彼が、身体全体で歓びを表現した。それだけこの試合に懸ける想いが強かったのだろう。
学芸大学時代も中盤の底で司令塔としてプレーすることが多く、攻守に動き回るようなスタイルではなかった。プロに入ってサイドハーフ・ウィングバック・ボランチ・インサイドハーフ・シャドーと様々なポジションやタスクを任されながら、プレーの引き出しを増やしてきた。だが、真面目で責任感の強い性格ゆえに、色々な経験をして考えすぎてしまった部分があるのかもれない。
もっとシンプルに、ダイナミックに。
スケールの大きな選手に成長してほしい。
今後彼が大きく飛躍する分岐点となるゴールかもしれない。
総括
リーグ戦4連勝は、2018年J2第25節~28節以来。実に4年ぶり。しかも上位につけるチームを多く相手にしながらの連勝で、チームとして自信を深めるきっかけになるだろう。
ただ、4試合とも1点差のゲームで、試合内容も圧倒していたわけではない。宮部大己・橋内優也を途中投入して逃げ切るゲームプランが確立されつつあるのは好材料だが、毎試合課題は出ているし、名波監督の要求する基準にはほど遠いだろう。
特に2トップの守備面に関しては、大きな伸びしろを残している。チームとしての仕組みというよりは、個人戦術の範囲内の話なので、小松蓮と横山歩夢の成長を待つのが基本方針となりそう。ただ、今日のような守備を見せているとルカオにスタメンの座を譲る試合も出てきそうだ。
忘れちゃならいないのは、2トップの守備練度が粗い!という話ができているのは、最終ラインが安定してきているから。昨季は前線からのプレッシングどうこうを言えるような状態ではなかった。そこから比べればチームとしては成長しているし、ようやく次のフェーズに入ったとも捉えられる。
これでシーズンは折り返し。
チームの基盤は固まった。メンバーの大枠も見えてきた。より完成度を高めていくために、細部にこだわっていく必要がある。
まだまだ伸びしろしかない。
俺達は常に挑戦者
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