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【思い通りのストーリーとはいかないけれど】J3第19節 松本山雅×いわきFC マッチレビュー

スタメン

ホームのいわきはリーグ戦4試合負けなし。直近の敗戦がアルウィンでの松本戦で、今季はその試合を含めて2敗しかしていない。得点37・失点14はともにリーグベストの数字で、結果だけではなく内容面でも充実したシーズンを送っていることが見えてくる。

リーグ全体の流れを見ていると、いわき自身は相当なスピードで首位を走っているものの、思ったより後続が付いてきているという感じ。頭一つ抜け出せていない要因のひとつは、勝点が近い松本・藤枝・鹿児島・富山といったチームとの直接対決で勝てていないことだろう。富山とは2周目の対戦も終えていて、計5試合で4分1敗。最大15ポイント稼げるところを4ポイントしか積めていないのは痛い。ホームに松本を迎える今節は、ライバルを直接叩く絶好の機会である。

対する松本は、コロナ陽性者が多く出てしまってチームが活動停止になるなど苦しい台所事情。前節はリーグデビューとなる神田渉馬と田中想来を起用しなければいけないほどだった。それと比べれば1週間で主力が戻ってきたのは朗報。ただ、コンディション面は万全とはほど遠いはず。リーグ屈指のプレー強度を誇るいわき相手にどこまで渡り合えるかは不安が残る。

選手は戻ってきたものの、名波監督がコロナ陽性反応となってしまい療養中。この試合は三浦コーチが代行監督として指揮を執る。ただ、名波監督自身は体調を崩していないようで、連日練習映像をチェックしたり、電話でコーチ陣とコミュニケーションはとっていたらしい。


意図が明確だった選手起用

松本のスタメンの選手起用からはゲームプランが透けて見えた。まず大胆に替えたのは3バック。野々村鷹人を今季リーグ戦初のスタメンに抜擢して右センターバックに。

野々村のコンディションが良かったということもあるだろうが、何より下川陽太を右ウィングバックで起用したかったというのが大きいはず。前回対戦時も苦しめられた、嵯峨・日高の両サイドバック。ここを抑えなければ松本に勝機が巡ってくることはまずないと言っていい。そのために、スピードがあり、対人守備で計算できる下川陽太・外山凌を両翼に置きたいと思うのは妥当な判断。右センターバックが定位置になっていた下川を一列前に押し出す代わりに、野々村をチョイスしたという人選だと思っている。

右センターバックであれば、宮部大己の起用もあったのではないか?と思ったりもするがどうだろうか。ベンチ外となっていることから宮部自身の状態が優れていなかった可能性はある。と同時に、高さ対策という点で野々村を起用したくなったのではないかと思う。岩渕・日高という優秀なキッカーを擁し、家泉・江川というターゲットマンがいるのだからセットプレーは要警戒。しかも1点の持つ意味が重い痺れるゲーム展開を予想していたならば、慎重な起用をとなったのも納得がいく。


横山歩夢のオフサイドから見えるもの

この日の松本は非常に割り切った戦い方をしていた。基本スタンスとして自陣に5-3-2のブロックを敷いていわきを受け止め、ロングカウンターとセットプレーでワンチャンスを狙うというもの。こう書くとアルウィンでの戦い方と似ているように感じるが、実態は少し異なるものだった。

個人的に気になったのは、横山歩夢がオフサイドに掛かる位置。前回も今日もオフサイドにめちゃくちゃ引っかかっていたのは変わらない。ただ、ホームで対戦したときのほうが、よりハーフラインに近い位置でオフサイドになっていた。言い換えれば、この日は敵陣深い位置でのオフサイドが目立ったということでもある。

ここから推測することは2つ。ひとつは、いわきのライン設定が前回より低かったのではないか?ということ。違いはどこかと言われたら星キョーワァンの存在なのだが、前回対戦時の方が強気なライン設定だった気はしている。最終ライン裏を広くカバーできる存在がいるかどうかは大きいのでは、という予想だ。

もうひとつは、松本がビルドアップを放棄していたという点。特に常田克人が顕著だったと思っている。相手の最終ライン裏へロングボールを蹴り込むスタンスは変わらないのだが、蹴り込むまでのプロセスが省略されていたなと。今季の松本は、3バック+ボランチで数本パスを繋いで相手を引き出し、局面をひっくり返して相手を背走させるようなロングボールが原則だったはず。ところが今日は、マイボールになったら簡単に前線へめがけてロングボールを蹴り込み、小松蓮と横山歩夢に行って来い。いわきの最終ラインが押し上げられるより前にロングボールを蹴り込んでいたので、結果的にオフサイドに引っかかる位置も敵陣深くなったのでは?という推測。

さすがにオフサイドに引っかかり過ぎだろ、という文句は横に置いておくとして。自陣でのビルドアップを放棄したことによって割りを食ったのは菊井悠介。彼の頭上をボールが通過することが多く、ロングボールのこぼれ球に走り込む→奪われて守備に戻る→ロングボールのこぼれ球に走り込む→守備に戻るというループになっており、ずっと一人シャトルラン状態。

中盤のスペースに顔を出してパスを受け、前を向いて仕掛けてナンボの選手にとって、中盤が省略されるのは半ば業務終了のお知らせ。
ただ、僕は菊井悠介を活かせなかったチームがイケてない、とは思っていない。むしろ菊井悠介が試合展開に適応できていなかったという見方をしている。今季の松本が強いて言えば誰のチームかと問われれば、横山歩夢だと即答する。まだ菊井悠介は彼中心のチーム作りを強いるほど絶対的な存在にはなりきれていない。それであれば、チームの枠組みの中に溶け込んだ上で自分の個性を発揮できるように柔軟に変化する必要がある。

縦横の圧縮が強くてスペースを消され、球際に激しく寄せてくるチーム相手だと彼は消えがち。ホームのいわき戦での80分と合わせて計140分近くプレーしていながら、ほとんど存在感を出せなかったのは相当悔しいだろう。彼を推しているサポーターとして僕もめちゃくちゃ悔しい。

どうしても降りてきてボールを触りたがる癖があり、相手に背を向けた状態で身体を当てられて潰されがちな現状。裏抜けだったりでプレーの幅を広げるか、そもそも相手に身体を当てさせないくらい認知・判断のスピードを研ぎ澄ませていくか。いずれにしても伸びしろしかないのである。


小松蓮の成長

2試合前の福島戦、名波監督は2トップの守備にブチ切れていた。逆鱗に触れた小松蓮は前半でルカオと交代。横山歩夢も普段より早い時間帯に交代を命じられた。

この試合で課題となったのは、プレスに出たときの2トップの関係性。一方がセンターバックへ寄せてサイドに追い込んでいるのにボランチへのパスコースを消せていないので、簡単に囲い込みから脱出されていた。

その点、この試合では小松蓮に確かな成長の跡が見て取れたと思う。横山歩夢がプレスに出ていくとボールサイドのボランチを消す動きを徹底。ここをサボらなかったことで逆サイドに展開されることは少なく、いわきの攻撃を縦方向に限定できていた。そしていわきがFWに放り込んだロングボールに対しては、常田克人が空中戦でほぼ完勝だったこともあり封殺に成功。

こぼれ球を拾われて二次攻撃を受けていたのは課題だが、ホームで散々やられたような、ボランチを経由した横への揺さぶりを未然に防げていたのは無失点に抑えたことと無関係ではない。


1つの大きな誤算

自陣に守備ブロックを敷いてロングカウンターを狙う戦い方の生命線は、FWの陣地回復。松本にとっては、横山歩夢のドリブルが試合を左右するカギだった。

いわきの両サイドバックが高い位置を取るのはデフォルトで、時にはペナルティエリア内まで侵入してくる。松本がそこを狙わないわけもなく、試合後のコメントでも三浦コーチはこう話していた。

準備してきたようにもう少し幅を使ったりとか、当然前に圧力が強いいわきさんのディフェンスラインの背中にしっかりボールを送り込んでキープする、もしくはセンターバックの脇で時間を作るところをもう少しできたらよかったんですけれど、なかなか選手のコンディションを含めてそこが試合の中で出ませんでした。

ヤマガプレミアム 試合後コメントより

センターバックの脇、すなわちサイドバックの背後へボールを運んで攻撃の起点を作りたかった狙いだ。選手のコンディションが…という文脈は複数の選手に当てはまると思うが、あえてバイネームで挙げるとすれば横山歩夢を指しているはず。

先に述べたようにチームとしての狙いを実現するには、”いつものように”横山歩夢がドリブルで勝負してくれることが前提だった。ところが、この日の横山はいつも通りの横山ではなかった。ベンチスタートだった前節も、戦術的な理由というよりはコンディションが優れなかったのだろう。いつもならDF1枚くらい剥がしてしまうのだが、ボールが足についていない場面が散見。本人の中でイメージは出来ているが、身体が付いてこない感じに見えた。

こればかりは実際にプレーしてみないと分からないので本人を責めるのは酷な話。一番近くで見ていた三浦コーチが誤算だったと言うのだから、本当に想定外だったのだろう。

前半はカウンターの起点が作れなかったことで、マイボールにして休む時間を作れずサンドバック状態。そんな状況を重く捉えたベンチが、横山の負担を分散するためにルカオを投入したのも分かる気がする。現に、1人で敵陣までボールを運んでくれるルカオはチームの助けになっていた。

チームとして呼吸を入れる時間が欲しかったならば、自陣でのビルドアップを放棄した点と矛盾するのでは?という意見を目にしたので、僕の考えを少しだけ。
あくまで結果論になってしまうが、ビルドアップを捨てたことは正解だったと思う。この試合いわきに冷や汗をかかされたのは、押し込まれた展開というよりは自陣でボールを失ってのショートカウンター。多少耐える展開になったとしても、ビルドアップからピンチを招くリスクに比べたら軽いという決断だったのだと思う。それよか、一刻も早く自陣から遠くへボールを蹴っ飛ばして、失点のリスクを減らしたほうが良いよねという考え方。

シュートに対して身体を投げ出ことを厭わなかった守備陣、もはや通常営業になりつつあるスーパーセーブでチームを救ったビクトル、素晴らしかった。割り切った戦い方を貫き通し、アウェイでしぶとく勝点1をもぎ取った。


総括

両チームの置かれている立場を考えれば、負けなかったことが何よりの収穫と言えるだろう。いわきに勝点3を献上していれば勝点差は4ポイント。1試合でひっくり返せる勝点差かどうかは、いわきへ与えるプレッシャーを考えても非常に大きい。

一方で、改めて攻撃面は横山歩夢に依存しているチームだということが明るみに出た試合でもある。横山歩夢のコンディションにゲームプラン自体が左右されるレベルには頼り切っている。
J3に降格したクラブ事情を鑑みれば贅沢なことは言えないのだが、裏抜け一本槍なのはシーズン序盤から変わっていない課題。考えたくもないが、彼にもしものことがあった場合の、二の矢・三の矢は持っているに越したことはない。

さて、アウェイ3連戦の真ん中となる次節も大一番。加えてパウリーニョを出場停止で欠くという非常事態である。鹿児島の強力な前線を抑えられるかどうかも大切だが、個人的に注目したいのは、前回対戦時にこっぴどくやられたウィングバックのピン留めに解を出せるか。チームの成熟を示すにはまたとないチャンス。今季まだ上回れていない松本対策を克服できるか、上位戦線生き残りへ真価を見せるときだ。


俺達は常に挑戦者


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