見出し画像

【やっぱシンプルでしょ】J3 第12節 松本山雅×藤枝MYFC マッチレビュー

スタメン

好調なチーム同士がぶつかった一戦。松本はリーグ戦8試合負けなし。直近5試合で1失点と守備の安定が安定感を生んでいる。反面、得点力は課題となっており、横山歩夢をU-19日本代表で欠く状況で攻撃陣の奮起が求められる。

一方の藤枝も序盤戦こそ躓いたが直近5試合で4勝1分、16得点6失点と派手な試合と続けている。中でも前節堅守がウリの福島を6得点で粉砕したのは衝撃的で、元々のってくると手がつけられないチームだったが、ちょうど良い波が来ている段階。正直、この状態の藤枝とは当たりたくないと思っていた。

メンバーを見ていくと、松本は前節メンバー外だった住田将と常田克人が復帰。そして何と言ってもサプライズは田中パウロ淳一のスタメン起用だろう。天皇杯で3ゴールを挙げて好調ぶりを見せつけていたので、いつかベンチには入ってくるだろうと思っていたが、いきなりスタメンで使ってくるとは驚いた。
鳥取戦で停滞感が否めなかった中、チームで最も調子の良いアタッカーを使わない手はない。今季彼が一番活きた天皇杯と同じ4-4-2の2トップに配置。出番に飢えていた選手がどんなプレーを見せてくれるのか本当に楽しみだった。


かみ合わせの悪い守備

この日の松本の姿勢は試合開始の笛と同時に体現されていた。キックオフ直後、小松蓮と田中パウロ淳一が全力でプレッシングをかけに行く。それに呼応するように中盤以下も前がかりに。全体的に前からチャレンジするんだという意気込みと、前節の不甲斐ない戦いからメンタル面もリセットしてきたのだと感じさせた。

ただ、気持ちだけで対抗できるほどヤワな相手ではないのが藤枝。ボール保持に徹底的に尖らせたチーム相手の前プレは、ハマれば大チャンスだが、外されれば相手の思う壺となる諸刃の剣だ。立ち上がりこそ勢いに任せて藤枝からボールを取り上げることに成功していたが、10分を過ぎたあたりから試合のテンポが落ち着いてしまい主導権は相手へ。どちらかと言えば、藤枝に落ち着かされたと表現したほうが正しいかもしれないけど。

藤枝のビルドアップの原則は、レーンを被らないというポジショナルプレーの概念に忠実なもの。大外レーン・ハーフレーンを使い分けて、常に三角形を作るように選手を配置していく。この三角形の頂点に入る選手が毎回決まっているわけではないのが厄介な点で、前節福島の堅い守備ブロックを破壊したのも、人が入れ替わり立ち替わりする三角形による崩しによるものだった。
例えば、以下のような形。

藤枝の変則ビルドアップ

右ウィングバックの久保がハーフレーンに入ってきて大外を右センターバックの小笠原が取る。小笠原が空けた最終ラインにボランチの水野が落ちてきて、擬似的に3バックを形成するという流れである。
このように丁寧に順を追って説明されれば理解できるが、これを同時発生的にピッチ上で行われたらたまったもんじゃない。前半10分~30分くらいまでの時間帯、松本は4-4-2システムでの守備と藤枝の変則ビルドアップのかみ合わせの悪さに苦しむこととなる。

かみ合わせの悪い守備

4-4-2できれいな3ラインを作ってプレッシングをする松本が、擬似的に3バックを形成する藤枝のビルドアップに対峙すると、2トップは常に3人を監視しなければいけなくなる。そして内側に入ってくるウィングバックと大外に張り出すセンターバックの対応で板挟みになるのが、サイドハーフの住田将と菊井悠介。

特にボランチの鈴木淳が左利きで左センターバックの位置に降りてきた時、住田将はかなり苦労していたように見えた。大外のセンターバックに寄せれば、一番危険な中央への縦パスを通されてしまうし、かといって内側を締めていると外から侵攻を許してしまう。「じゃあ結局どうすればええねん!」というジレンマを抱えながらのプレーは窮屈そうだった。


藤枝ゆえの解決策

そこに助け舟を出したのはボランチの前貴之と安東輝。内側に入ってくるウィングバックのマークを引き受けることで、サイドハーフには大外の藤枝センターバックへ寄せるように押し出す。これで迷いがなくなった松本のプレッシングは狙い通りにはめていき、左の大外に張り出した秋山の所で囲い込みに成功。後は苦し紛れのパスをインターセプトしてショートカウンターを完結すればOK、今治戦の再現である。

ところが、藤枝が藤枝である由縁を見せつけられることになる。囲い込んだはずの秋山にパスコースを作り出したのはGKの内山。鈴木淳を飛ばしてGKへバックパスを通し、内山を経由して逆サイドの小笠原や川島へ展開されてしまう。J3でGKを使ったプレス回避を何事もなく実行してくるあたり、さすが藤枝である。J2でも苦労しているチームがあるのに。

藤枝のGK使ったプレス回避

GKがビルドアップに加われるということは、実質11対10でプレッシングを仕掛けるようなもので、常にどこかで数的不利になってしまう。つまり、松本が狙っていたサイドに追い込んで、高い位置で奪ってのショートカウンターが発動する可能性が非常に低くなってしまったということである。

こうなってしまうとピッチ内だけでは解決策は見つからず。ベンチから手を打たなければ、藤枝に気持ちよくポゼッションをさせるだけという状況だった。


一発回答のシステム変更

名波監督の動きは早かった。

25〜26分くらいでしたが、きょうは早く判断しようと自分で決めていたので、迷いなく変えられました。
ヤマガプレミアム 試合後監督コメントより

今日”は”早く判断しようと決めていたということは、判断が遅くて後悔した経験が直近であるということを示唆している。思うに、前節4-3-3で臨んだものの、うまく守備がハマらないままハーフタイムまで引っ張ってしまったのを相当悔いているのではないかと。それもあって、早い時間帯でのシステム変更というドラスティックな決断を後押ししたのではないかと思っている。

松本が選択したのは、下川陽太を3バックの右に配置して前貴之を右ウィングバックへ出した3-4-2-1。疑似3バックでのビルドアップをする相手に、1トップ+2シャドーで枚数を合わせたプレッシングを当てる構えだ。

システム変更後の並び

結果的にシステム変更は当たり。藤枝3バック×松本2トップというかみ合わせの悪さを解消し、藤枝が優位性を保っていたポイントを封じることに成功する。もちろん、GKを使ったプレス回避までは対応できていないけれども、GKを使って逆サイドのセンターバックへ回避しても、松本の選手が待ち構えているので効果は半減。前半30分~は藤枝のビルドアップはノッキングをみせはじめ、後は藤枝がどういった手を打ってくるか次第、という展開であった。


原点回帰の先制点

藤枝から再びボールを取り上げられるようになった松本に決定機が訪れたのは前半32分。外山凌のクロスを田中パウロ淳一がゴールエリアで競り合うと、こぼれ球が小松蓮の足元へ。迷わずに左足を強振すると、シュートがDFの手にあたってPKゲット。これを小松蓮が自ら決めて先制に成功する。

一連の流れで個人的に取り上げたいのは、2つ。

まずはシンプルに小松蓮を使った攻撃の組み立て方。この日の松本は、最終ラインでボールを持つと迷わずに2トップへ蹴り込むことを徹底していた。前節、監督に「色気」を出しすぎていたと酷評された攻撃において、できるだけシンプルに組み立てるという原点回帰を見せてくれたと思っている。
主に起点となっていたのは小松蓮で、常田克人からの正確なロングフィードを彼が収めることが攻撃の第一歩。うまく手を使いながらの巧みなポストプレーは見事で、縦への推進力を持つ外山凌とのコラボレーションは破壊力抜群。この場面でも小松蓮へロングフィードが蹴られた時点で、外山凌が走り出せていたので、彼が味方にもたらす時間と安心感は絶大だった。

もうひとつのポイントも小松蓮。田中パウロ淳一が競り合ったこぼれ球をシュートに持ち込んだ姿勢である。試合後の小松蓮のコメントで、今日は積極的に足を振りに行くつもりだったと述べていたが、まさにその姿勢が功を奏したと言える。
これは僕の持論だが、どれだけフィジカルが強くても足が速くても身長が大きくても、結局のところ迷わずシュートを打ってくるFWが一番怖い。一瞬の油断も許されないからだ。足を振る姿勢を見せておくからシュートフェイントが効くし、今回のPKゲットのような事故も起こるのである。

FWにシンプルに放り込む方法で成功体験を積んだわけだが、サッカーは相手あってのスポーツであることを忘れてはいけない。藤枝のセンターバックがビルドアップに振り切った人選で、元々空中戦の競り合いだったりを重視しているわけではない。それこそ、いわきのようなフィジカル全振りみたいなチーム相手にも同じ手が通じると考えるのは短絡的すぎる。
とはいえ、変にこねなくても、シンプルな攻め方でゴールを奪えるという気づきを得られたのはポジティブだったはず。今後あえて「色気」を出しにいく試合もでてくると思うが、その時に立ち戻れる形があれば同じ轍を踏むことはないだろう。


ユニットによる崩しの真骨頂

雷による予想外の試合中断もあったが、1時間30分空いて後半がキックオフ。

基本的な構図は同じで、5-4-1で構える松本の守備ブロックを藤枝がどう攻略するか。それに加えて、前半から飛ばしていた松本がガス欠するタイミングも勝負の分かれ目になりそうだと思ってみていた。

ところが、藤枝が巻き返すより早く2点目が松本に入る。
外山凌が左サイドの菊井悠介へボールを預けるも、小笠原と久保に挟まれてしまい万事休すかと思われた。しかし、ここでトリックスターの本領発揮。相手が2枚寄せてきた間を浮かせてスペースにボールを落とすと、呼応して走っていた外山凌が拾って敵陣深くまで侵入。最後は小松蓮が合わせて貴重な追加点を手に入れた。

試合後に思わずツイートしてしまったのだけど、菊井悠介と外山凌の信頼関係が本当に素晴らしかった。お互いがお互いを信じていないと成立しないプレーで、「ああ、チームが成熟してきているんだな」としみじみと。


さらにもうひとつ。小松蓮のオフザボールの動きに注目してほしい。クロスが入ってくる前、彼はあえてファーサイドに逃げるような動きを見せる。当然マークに付いていた秋山は釣られてファーサイドへ移動していくわけだが、小松蓮が照準を合わせていたエリアはニアサイド。
自分が最終的にシュートを打てるようなスペースを作り出す、ファーサイドへ逃げるプルアウェイの動き、最高。これだけで白飯2杯は食える。

秀逸だったオフザボールの動き

小松蓮のゴールで2点先行したは良いものの、65分~85分までの20分間は本当に苦しかった。明らかに小松蓮は疲労困憊で前線からのプレッシングが機能不全に。3バックに落ちるボランチを捕まえきれなくなり、鈴木淳から良いボールがバスバス入ってくる。

それでも守備が崩壊しなかったのは、松本のウィングバックとセンターバックのコミュニケーションが良かったからだと思っている。内側に入ってくる藤枝ウィングバックへの対応策は2パターンあったと思っていて、ウィングバックが付いていくかセンターバックへマークを受け渡すか。
松本は後者を選択したのだけど、一歩間違えばマークが外れたままでフリーの選手を作り出しかねない。結果的にマークの受け渡しが問題なくできたことが、勝因だったのかなと。

疲れが見えていた中めちゃくちゃ引っ張ったけど、85分に前線を3枚替え。フレッシュな選手を入れて相手ボランチへのプレッシャーを取り戻し、サンドバック状態から抜け出したことで勝負あり。そのまま試合を締めくくって2試合ぶりの勝利。リーグ戦9試合負け無しとなった。


総括

攻撃陣が好調だった藤枝を相手にクリーンシートは大いに評価して良い結果だ。構造的な欠陥を見逃さずに早い段階で手を入れたベンチワークも見事だったし、1時間半という中断を経ても集中を切らさなかった選手もさすが。

何よりサプライズだったのは、田中パウロ淳一だろう。昨季のやや独善的なプレートは打って変わって、チームのために献身的に守備に走って身体を張る姿は、少なくないサポーターの心を掴んだはずだ。

これもチームのマネジメントが上手くいっている結果だと受け止めている。控え組だった田中パウロ淳一がモチベーションを落とすことなく天皇杯で溌剌としたプレーを見せ、リーグ戦でもチームに貢献した。貴重な出場機会をもらった選手が、個人のアピールの場にするのではなく、チームの勝利のためにプレーできていることが何よりの証拠かと。

また、これは完全に僕の邪推だが、昨季は途中出場でしかチャンスをもらえず結果に飢えていたが、今季は天皇杯で目に見える結果を手にしておりメンタル的に余裕があったのかもしれない。もし仮に当たっているとしたら、横山歩夢がチームを離れている期間ということも含めて、めぐり合わせの妙でもある。

さて、あえて最後に名前を出したように、次節からは横山歩夢が帰ってくる。熾烈なポジション争い再びである。
そして代表活動に行っている間にライバルは結果を出した。横山歩夢の立場も決して安泰ではないはず。何なら次節はベンチスタートもあると思っている。

結果を出した選手、良いパフォーマンスを見せている選手が正当に評価され、出場機会を掴んでいく。健全な競争をベースにした良いサイクルが回っていると思うし、チーム全体の底上げが進んでいるはず。消耗の激しい夏場だったり、負傷離脱のリスクを考えても、長いシーズンを考えると後々で効いてくる。

試合で出てきた課題を明確にし、トレーニングで補強して、次節にテーマを持って臨む。テーマに対してどれくらいの達成度だったかを確認し、また課題抽出をするという繰り返し。

地味だが、この繰り返しこそがチームを成長させていく。

僕らは毎試合、チームの選手の僅かな成長を見逃さないように。


俺達は常に挑戦者


Twitterはこちら




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?