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【抱えた膿を出し尽くす】J2第41節 松本山雅×SC相模原 マッチレビュー

スタメン

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松本は前節引き分けたことで本当に後がない状況に追い込まれた。自分たちが2連勝+他力本願。引き分け以下に終わった場合、19位以下が確定し、J3の宮崎が昇格枠のひとつに入って降格が3チームに減ることを祈るしかない。他チームの状況次第では今節にも降格が決まる可能性がある。

勝利しか許されない試合に臨むスタメンに、名波監督は秘密兵器を持ってきた。期待を背負って加入したものの今季わずか2試合の出場に終わっていた9番、ルカオである。負傷から復帰してコンディションを上げている最中だとは知っていたが、まさかここで起用してくるとは思わなかった。そのあおりを受けて鈴木国友がベンチ外に。FWの序列では伊藤翔と榎本樹が最上位にいるのだと改めて感じさせるメンバー構成となった。

対する相模原も負けられない試合が続く。前節の劇的な勝利で残留圏に浮上。ホーム最終戦となるこの試合で勝利をつかめればグッと残留を手繰り寄せることができる。スタメンは見慣れた11人。愛媛戦でヒーローとなった梅井と中山もベンチに控えている。


抱えた課題は変わらない

この日は珍しく松本がボールを握る展開でスタート。3-5-2をベース布陣にしてからは、ボール保持を半ば諦めてブロックを組むことが多かったので、久しぶりにビルドアップしているのを見た気がする。

相模原は3-4-2-1でスタートしながらも、守備時は両ウィングバックが最終ラインに吸収されて5-4-1に近い並び。シャドーも松本の人を捕まえるというよりは、スペースを埋める意識が強かったので、佐藤和弘と安東輝が前向きでボールを持てていた。前半通してずっとボールを持つ時間が確保できていたのは、相模原の守り方に依存していた部分が大きい。決して松本のビルドアップが上手く行っていたわけではない。そんなに急激に改善できるならば、とっくの昔に良くなって、ボールを握り倒していたはず。名波監督の志向がポゼッション寄りで平川怜を重用していたことからも本来やりたいサッカーはそちらなのだろう。

それでも、選手の意識が変わったな~と感じた部分があるとすれば、縦への意識。特にダブルボランチを組む佐藤と安東から強く感じることができた。この試合ではダイレクトで縦パスを入れたり、相手DFの背後へボールを供給するプレーが多く見られ、より直線的にゴールへ向かう選択を意識的にしていたと思う。ボールをこねてしまう場面が多い印象だったので、変化を感じた部分だった。ここらへんも、本来名波監督がやりたいサッカーとは違うのかもしれないが。

ただし、ボールを握っていたら判定勝ちできるとかいうルールはサッカーに存在しない。最終ラインやボランチで比較的余裕を持ってパスを繋いでいたものの、アタッキングサード(ピッチを3分割したときに、敵陣に近い1/3のことを指す)での崩しには課題を抱えたまま。むしろ直近の試合の中ではボールを持てていたがゆえに、効果的な崩しができない問題がより浮き彫りになってしまった感もあった。


似た者同士の両チーム

やられっぱなしでは終われない相模原は、前半の飲水タイム明けから修正を加えてくる。奪った後にボールを落ち着けることができず、自分たちの時間を作れないことに苦労していたので、ビルドアップに手を加えた格好だ。

序盤に起きていた事象としては、こんな感じ。相模原の3バックに対して松本が2トップ+トップ下をぶつけてきたので、数的同数となってしまい、仕方なく前線に放り込むしかなかった。相模原のトップは平松で、シャドーは藤本と松橋。スペースでボールを受けるには長けているが、フィジカル勝負でロングボールを収めて...というには分が悪い。逆に松本は、競り勝った後のセカンドボールを回収できていたので、割と優位に立てていた。

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そこで、相模原が施した修正は至ってシンプル。最終ラインで3対3になっているから苦しいのであって、数的優位を作ればラクになれるという発想。ダブルボランチの成岡と川上のどちらかが最終ラインのフォローに回り、ビルドアップを助けることで松本のプレスを無効化。成岡がフォローする際は、全体を左に傾けて右サイドで起点を作るイメージ。

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川上がフォローに入るときは、木村と川崎の間に落ちて藤原をやや上げるようなイメージ。いずれの場合でも、4バックのような形を作って数的優位を確保するという考え方は共通している。

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この修正はクリティカルで、飲水タイム明けからは相模原もボールを持つ時間が増えていく。松本のファーストプレッシャーをいなせるようになったことで敵陣に侵入できるようになったところまではOK。

しかし、ここで相模原も松本と同じような課題に直面する。ボールを持ったはいいものの、その後の崩しが上手くいかない。思えば、互いに前半の決定機はカウンターからだったのは象徴的。お互いにスペースを与えられて生きる選手を並べているので、むしろ持たされると苦しくなる。人間、身の丈にあった生活が一番である。


ルカオの正体

おそらく今季最も良いコンディションで試合に臨んだであろうルカオ。彼に関してはっきりしたことがいくつかある。来年も松本にいるかどうかは定かではないが、備忘録としてまとめておく。

まず、前線で電柱役をやらせるのには不向きだということ。ひときわ厚い胸板に惑わされ、ロングボールを放り込んだとしても彼の良さを引き出すことはできない。とはいえ身長が高く、フィジカルにも恵まれているので、並のDFには競り勝ててしまう。この試合でも川崎と競って五分くらいの確率で競り勝っていた。ただ、競った後にボールがどこへ溢れるかは運次第。頑張って競り合っていたものの....を感じた部分。

次に、彼の最も得意とするのはゴリゴリ突き進むドリブル。いわゆるゴリブルである。彼は見た目よりも速い。サイドに流れて対面するDFを弾き飛ばすドリブル突破は迫力満点で、2人くらいは軽く相手にできそうだった。フィジカルに優れたFWにありがちな、足元の技術がおぼつかないといったこともないので、グラウンダーのパスを供給するほうが喜ばれる。

たしか今季出場した2試合では、いずれもロングボールをひたすらに放り込んでいた気がするので、そもそも活かし方が微妙だったのかもしれない。チーム内のタイプだと、阪野豊史や榎本樹よりも、鈴木国友に近い。

立ち上がりはルカオに蹴り込むシーンが多かったものの、うまく収まらず、逆にロストしてカウンターを食らっていた場面もあった。それを踏まえてか、前半30分過ぎくらいから一切ロングボールを放り込まなくなったのは印象的。まさに重戦車のようなプレーを見せていた彼が、本当の崖っぷちに追い込まれるまで戦力として計算できなかったのは非常に悔やまれるところである。


今季のすべてが詰まっていた選手交代

後半に入っても我慢比べの構図は変わらない。ややボールを持てるようになった相模原と、序盤からボールを持たされていた松本。互いに決め手に欠く両チームが試合を動かすには選手交代しかなかった。

先に動いたのは松本。ハーフタイムに伊藤を下げて榎本を投入。ルカオはターゲットにするより走らせたほうが良いとわかったので、相棒に競り合いに強い榎本をチョイスしたのだろう。最近の榎本は空中戦ではほぼ無双状態。まず競り勝てるし、加えて確実に味方に落とす技術がある。最高到達点でボールを捉えるジャンプのタイミング、落下地点の正確な予測力を兼ね備えているからこそ成し得る。本当に成長したんだなあ。

続けて、70分に田中パウロ淳一・阪野豊史・河合秀人を投入するのだが、ここで今季松本が抱える一番の問題点が出たと思う。攻撃的なカードを切りたいが、セルジーニョはセットプレーのキッカーとして残したい。そうすると、攻守に効いていた安東を下げて中盤を逆三角形に変更せざるを得ない。4バックにしてCBを削ろうとしても、サイドバックの適任者がいないので厳しい。

全体的にスカッドが偏っており、似たような前線の選手が多くいるかと思いきや、リードした試合の逃げ切りカードとなる守備的なボランチが不足していたり。シーズン当初からシステムも監督も変わっているので、スカッドが合わないのは当然といえば当然なのだが、それにしてもいびつすぎる。

これは今季何回かレビューに書いているが、抱えている選手の数に対して、戦術の幅が狭いスカッドになってしまっている。その弊害として、選手交代で切れるカードが似通っていたり、主力級の選手が1人欠けると、システムそのものを変更せざるを得なかったり。書き始めたら止まらないのでここらへんにしておくが、手段が目的化してしまい、手段のためにシステム変更をしてカオスになるという事象は象徴的だったなと。

逆に交代カードが的中したのは相模原。安藤蹴ったフリーキックに梅井が競り勝ち、こぼれ球を児玉が押し込んで先制。交代で入った選手だけで奪ったと言っていい得点で、アディショナルタイムを残してリードに成功する。逆に松本は絶体絶命。6分間で2点を奪わないと詰みという状況に。

ここからは相模原のシメ方にも不慣れさが出てしまっていたことも幸いし、セルジーニョが敵陣深くで倒されてセットプレーを獲得。ニアに速いボールを蹴り込むと、オウンゴールを誘発して意地の同点。終了間際に児玉が迎えた決定機を圍謙太朗がビックセーブでしのぎ、なんとかドローで試合を終えた。

試合終了時点で勝てなかったので19位以下が確定。しかし1時間遅れで行われていた試合で、金沢が劇的な勝利を掴んだことで最終節の勝利をもってしても上回ることができなくなり、降格が決定。来季をクラブ史上初のJ3で迎えることとなってしまった。


総括

今季の不振を象徴するような試合だった。ボールを持った際の崩しのアイデア不足、セットプレーの弱さ、スカッドの偏りから来る選手起用の幅の狭さ....。どれも見飽きた光景だ。ピッチ上での問題は名波監督だから起きているのではなく、シーズンを通してずっと解決できなかったものが多いということでもある。

試合後のコメントで名波監督は「クラブのフロント、選手に責任は一切無い」と断言したという。個人的には責任感の強い名波監督が、関係者を庇い、自分に批判の矛先を向けさせようとしているのではないかと思っている。すべてを背負い込んで辞してしまうのではないかと。

今季の成績を招いた原因は特定の誰かではない。ピッチ内外でいくつもの原因が絡み合って、そして長い間抱えていた課題が表面化したに過ぎない。

誰かに責任を押し付けるのではなく、しっかりと課題と向き合い、敗因を分析すべきだ。そしてクラブ・サポーターが一体となって、再び上昇スパイラルに乗れるよう、一歩ずつ進んでいくしかない。

まだシーズンは終わっていない。次節、ホーム最終戦。アルウィンは絶望的な雰囲気となるかもしれない。ため息に包まれてしまうかもしれない。それでも、最後まで諦めずに走り続ける選手たちを目に焼き付けたい。

この選手・スタッフと戦えるのは、泣いても笑っても1試合しか残されていないのだから。


One Sou1



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