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【諦めるにはまだ早い】J3 第27節 松本山雅×アスルクラロ沼津 マッチレビュー

スタメン

前節YS横浜に敗戦を喫し、連勝が5でストップした松本。昇格を争っていた鹿児島が敗れていたこと、下位に沈むYS横浜が相手だったことも相まってショックは大きかったはず。名波監督が試合後の48時間がメンタルのリカバリーに大事だと言っていたが、サポーターも含めて気持ちを立て直せるかが重要な一戦。

そんな試合にスタメンを2枚変更。前節復帰したばかりの横山歩夢をスタメンで起用し、途中出場ながら不可欠な存在であることを印象付けた佐藤和弘が再び起用されている。また、ベンチには20節の鹿児島戦以来となる山田真夏斗、讃岐戦以来となる稲福卓が抜擢された。そろそろ怪我から復帰するかと思っていた安東輝は引き続きメンバー外。

横山歩夢・ルカオという前重心な2トップを据えていることからも、この試合では先制点が非常に大事であると考えられる。リードしたあと守備固めもできるし、中盤を総入れ替えして強度を維持しながら逃げ切るカードを豊富に用意していることからも、先制点を早い時間帯に奪えるかが注目ポイントである。

対する沼津は、前節から3名交代。瓜生・徳永・ブラウンノアが外れて、染矢・佐藤・藤嵜がスタメンに名を連ねている。今季ここまで挙げた8つの勝利のうち、実に7つがホーム。アウェイでは勝点4しか稼ぐことができておらず、典型的なホームに強いチームであると言える。


苦しむ松本

立ち上がりから試合を支配しきれず、もどかしい展開が続く。そこそこシュートも打っているのだが、自分たちの思った通りに試合が進んでいるとは思えない。ただ、沼津に決定機を作られているわけでもない。という不思議な感覚を持っていた。

なぜ苦しむことになったのか?
個人的には、3つポイントがあったと思う。

沼津の徹底した裏抜け対策

まず1つ目は、沼津の守備対応だ。今季の松本が最も得意としている攻撃パターンは、常田克人の正確なロングフィードを左サイド深くに落とし、横山歩夢が走り込んで起点となるという形。横山歩夢がいようがいまいが対策はしてくるだろうし、彼がスタメン起用されたのであればなおさら警戒度は上がってくる。沼津の守備はある意味割り切った守り方だった。

ボールの出どころである常田克人を抑えるのではなく、ロングフィードが落ちてくる左サイド深くのスペースを重点的にケアしようというものだ。沼津の1トップ+2シャドーは松本最終ラインに厳しくプレッシングを掛けるシーンは稀で、基本的なプレッシングラインとしては松本のボランチあたりだった。無理にプレスに出て行って中盤にスペースを空けてしまったり、ロングフィードのこぼれ球を回収できる可能性を下げるくらいなら、という割切りだろう。

加えて、沼津の最終ラインが下がるタイミングも非常に早かった。それこそ常田克人がボールを持っただけでラインを下げようとしていたくらい。自分たちの背後にスペースを作らないこと、もっと言えば横山歩夢に前を向いて仕掛ける余裕を与えないことを最重要ミッションにしていたと思う。

割り切った沼津の守備

この守備対応に、松本は案の定捕まった。何度も左サイド深くへボールを届けることはできていたのだが、スペースを消された状態で攻撃をスタートしているので、どうしても手詰り感は否めない。スピードに乗りたい横山歩夢も窮屈そうだった。

分断された前線と最終ライン、間延びした中盤

2つ目の要因は、染矢の裏抜けである。沼津の1トップに入ったのはベテランの染矢。岡山にいた頃から運動量が豊富で、とにかく泥臭いタスクを忠実にこなせる選手だと思っていた。この試合でも良さを随所に発揮していた。

常に松本の最終ライン、主に大野佑哉と駆け引きをしながら裏抜けを狙い続ける。彼が裏に抜けて、そのままゴールを脅かすような場面は少なかったが、それも沼津は想定の範囲内だったようだ。試合後の公式コメントで染矢が語っていたが、真の狙いは執拗な裏抜けで松本の最終ラインを押し下げ、それによって生まれたボランチの背後のスペースをシャドーの選手が活用することだった。残念ながら、シャドーの選手がスペースを活かしきれなかったことでフィニッシュまで至らなかったが、狙いを忠実に実行し続けられた点に一定の手応えを感じているようだった。

そして問題なのは松本の最終ラインが後ろに引っ張られてしまうことだ。YS横浜戦でも同じ現象があったように、前線がプレッシングに出ていこうとしている中で最終ラインが下がってしまうと、陣形が間延びして中盤に広大なスペースが生まれてしまう。

中盤の間延びによって引き起こされていたのは、3つ目の要因であるプレッシングの空振り。これこそYS横浜戦で起こっていた事象そのままであるが。

前線の3枚(横山歩夢、ルカオ、菊井悠介)は猛烈にプレッシングに出ていく、それこそ相手GKにさえも。しかし沼津は自陣低いところでビルドアップを行うため、松本のプレッシングも自然と”深追い”になっていく。
”深追い”していても、ボランチや最終ラインなど後続が付いてきていれば、相手を敵陣深くに押し込んで窒息させることも出来る。しかし、実際にピッチで起っていたのは前線と中盤以降の分断だった。

間延びにより空振りするプレッシング

前線はプレッシングに出て行くのに、最終ラインは染矢の裏抜けによって押し下げられてしまう。となれば中盤には広大なスペースが。そこを佐藤和弘とパウリーニョの2人でカバーするのは、あまりにも非現実的な話である。
前線がプレッシングに出ていったのに、沼津のボランチを経由してあっさりプレス回避されてしまった場面も一度や二度ではなかった。本来は、沼津のボランチのところに佐藤和弘やパウリーニョが寄せてこいや!というのが前線の主張なのだろうだけど。


本当にまずいと思ったこと

色々とピッチ上で不具合が発生していたわけだが、それに対して全くの無反応だったわけではない。

裏抜けを徹底して消しに来た守備対応に対しては、佐藤和弘がいち早く気づき、解決策を思いついていた。

相手もだいぶ研究してくる中で、ウチがそこに落としてくるのは分かっているので、ラインが早く下がる相手もいます。そのときに足元でもう1人のクサビが入ってきたり、違うプランも必要なのかなと。中でやっている11人が「いまは裏に行っても厳しいから足元で起点を作ろう」という考えがあってもいいと思いながらプレーしていました。
Jリーグ公式サイト 試合後コメント

以上は佐藤和弘のコメントの抜粋だが、彼は裏抜け一本では沼津の守備を崩せないと分かっていたようだ。そして「裏抜けを警戒して下がった沼津の最終ラインとボランチの間にできたスペースが狙い目で、そこで菊井悠介とかが足元で楔のパスを受けたらいいんじゃん?」という具体的な解決策まで思い付いていたという。ここまではさすが佐藤和弘。という話なのだが、問題は最後の一文だ。


~という考えがあってもいいと思いながらプレーしていました。


え。思ってただけなの・・・?
試合中、飲水タイムとかでチーム全体で共有したりはしてないの・・・?
そんな素朴な疑問を感じてしまったのである。

思い返してみると、YS横浜戦も同じだった。
この試合で気づいていたのはパウリーニョで、「自分がプレッシングに加勢すると中盤を空けすぎてしまい、かえってカウンターを受けた際のリスクが大きい」と判断していた。

佐藤和弘は最終ラインがボールを持った時に楔のパスを受けれる位置取りをしていたし、菊井悠介に楔のパスが入ったら誰よりも先にフォローに走っていた。
YS横浜戦のパウリーニョも、リスクが大きいと判断してからは中盤底のポジションに留まることが多くなり、カウンターの目を摘んでいた。

一方で、佐藤和弘やパウリーニョの気づきがチーム全体に共有されていたか?となると微妙だ。
YS横浜戦では終始無謀なプレッシングを続けていたし、この試合でも空振りのプレッシングを外れる場面があった。

僕自身が考えるここ2試合の根本の課題は、『ピッチ内にリーダー/意思決定者がいないこと』である。

ピッチ上で起こっている不具合、修正すべきポイントについて、選手各々は解決策を持っている。しかし、散らばっている意見を集約し「ではこうするべき」と意思決定してチームを統一する選手がいない。

これこそが一番の課題なのではないか。
5連勝中は先制点を取れていたので、何か上手くいかないという課題に直面することはなかった。だからこそ露呈しながった組織課題が、想定外が続いたYS横浜戦と沼津戦では顕になってしまったのではないか。
思い返してみると、0-0で引き分けたアウェイ鳥取戦、2-3で敗戦したアウェイ愛媛戦も同じような原因で勝点を失っている。

一方で、この課題は残り数試合でも劇的に改善できると思っている。
まずピッチ内での意思決定者については決めの問題だ。個人的にはピッチ全体を俯瞰して見えて、かつ全員とコミュニケーションが取りやすいボランチの選手が適していると思う。具体的にはパウリーニョとか。

残り7試合とシーズン佳境を迎え、ここから大きくサッカーを変えることは不可能だ。2トップの質で殴り勝つと腹を括ったのであれば、美しくなくともやりきらねば。
戦術的ではないとか、将来の積み上げがない、とか前提条件がズレている外野の声に耳を傾けている暇はない。

そして残りシーズンでも同じ戦い方をするのであれば、ピッチ上での意思決定者/リーダーを明確化するのは大事。想定外のことなど起こるに決まっているので、ベンチに頼り切るのではなく、ピッチ上で起きている事象を観察し、適切な修正を加えていけるようになりたい。選手の個性を重視するマネジメントを採用している以上、余計に選手が物事を決められるようになることは重要だ。


選手起用についてのぼやき

ここからは試合の本筋とは少し離れて、選手起用について少しぼやいてみる。

まずは横山歩夢。

ぶっちゃけ言わせてもらうが、フィジカルコンディションは50%未満だろう。負傷した左肩をかばっているのか、左腕を振ることができていない。両腕を振れないとスプリントにも影響が出るだろう。また、恐怖心が抜けていないのか、接触プレーを極度に避けている。相手と競り合うことは皆無で、ドリブル時も相手と接触しない上体フェイントとキレでかわそうというプレーが多い。
好調時に見せていた、左手でDFを押さえつけながら(ハンドオフとも言う)エリア内をゴリゴリ進んでいき、クロスやシュートに持ち込む場面は殆ど見られない。
肩の怪我は長引く人は長いと聞くし、何より再発が怖い怪我であることは間違いない。

そうなってくると、彼をスタメンで起用するべきなのか?と疑問が浮かんでくる。むしろDFの体力が削られてきた、後半からの方がスピードやキレで蹂躙できるかもしれない。
一般人の僕がこう思うのに、横山歩夢がスタメンということは何かしら他の理由があるのだろう。ポジティブではない理由が。榎本樹が負傷してしまったとか、小松蓮の調子が上がらないとか。うーんどうしたもんか。

あともうひとり、住田将を。

前半戦はMVP級の活躍だった。17試合出場、1134分プレーして3得点。ルーキーとは思えない存在感で、ボランチ・左IH・左WB・左サイドハーフ・シャドーなど様々なポジションでフィットした。何よりも、菊井悠介との相性は抜群。菊井悠介が気持ちよくプレーできていたのは、住田将の気遣いがあったことは間違いない。

そんな彼だが、正直に言うと、前貴之の移籍後から試合に絡めなくなってしまった。色々悩んだのだが、主な理由は3つくらいに分けられそう。

1つは前貴之の移籍。彼を失ったことで、3バックと4バックの試合中の可変を行わなくなり、3バックに固定すると覚悟を決めた名波監督。すると、住田将の複数ポジションをこなせるという特性は、選手選考において優先度が下がってしまう。

2つ目は、横山歩夢&ルカオの2トップが定着したこと。このレビューでは何度も取り上げているけど、彼らを2トップに据えると松本山雅の戦い方はロングカウンターに振れていく。ボールを奪ったら縦に早いサッカーでフィニッシュまで持ち込むことが優先されるので、中盤の選手に求められるのは、快速2トップに付いて行けるだけの単純な足の速さ、ボックスtoボックスを行き来できるスタミナと運動量になる。
住田将は決して足が速いとはいえず、どちらかと言えばポジショニングで位置的優位を確保したり、的確な予測で勝負する選手。中盤の選手に求められるタスクが大きく変わったことで、住田将の特徴とフィットしなくなってしまった。

そして追い打ちをかけたのが中山陸の加入と即フィットだ。彼のデビュー戦のマッチレビューで「動ける司令塔」と表現したが、まさに松本が最も欲していたタイプの選手。

こういった背景から住田将は苦境に立たされている。
しかし、二度と松本でチャンスがないわけではない。横山歩夢&ルカオのどちらかが欠けた場合の次なる手がないし、フィジカル的な部分はまだまだ伸びていくだろう。腐らずに数段パワーアップした住田将が見たいなあ。


総括

評価が難しい試合である。
沼津に決定機を多く作られたわけでもないし、シュートも14本打った。
ただ、結果はスコアレスドロー。

やっぱり個人的に気がかりなのは、YS横浜戦と似たようなパターンで勝点を落としてしまったこと。チーム内のコミュニケーション、プランAがハマらなかったときの修正を牽引するリーダーシップ。短期的にも改善できそうな部分でもあるので、ぜひとも次節までに改善の兆しが見えると良いなと。

残り7試合という試合数を考えると、戦術を叩き込んだり、大きく戦い方を変えるのは不可能。今の戦い方を磨きつつ、プランAがハマらなかった時に対応できるような準備を進められるかだろう。

まずはメンタルの回復が最優先。とは言っても、試合後の選手コメントを見ている限り、ショックで落ち込んでしまっている選手はいなかった。どの選手も冷静に敗因を振り返り、次に向けてどんな準備をするのか、という部分にフォーカスを当てて考えられていたので少し安心した。チームの心はまだ折れていないようだ。

次節藤枝を直接対決でたたき、ラストスパートのきっかけになるように。

さあ良い準備をしよう

俺達は常に挑戦者


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