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監督交代によせて

「柴田監督が解任されたな」

「だな。松本は昨季の布監督に続いて2年連続での監督解任となる。まあ、ここまでリーグ戦は4勝7分8敗で17位と成績が振るわなかっただけに致し方ない部分もある」

「目下リーグ戦7試合勝ち星がなく、7試合で2得点12失点と内容もよろしくなかった」

「新潟戦、長崎戦、そして直近の大宮戦は内容は悪くなかったが勝点が拾えないという戦いが多かったのも事実だ。ここから改善していけば上向く可能性もあると思わせてくれていただけに、解任報道はショッキングだった」

「同時に、名波浩氏の新監督就任も発表された」

「日曜日にお膝元である信濃毎日新聞で報道があってから翌日での正式リリースと、相変わらずうちは裏切らない」

「正直驚きのほうが大きかったんじゃないか」

「それは間違いない。僕も柴田監督続投説を唱え続けてきたが、その背景には次の監督候補が見当たらないという理由があったからな」

「まだ落ち着かない中ではあるが、柴田監督の振り返りと名波監督就任に向けた展望をしてもらいたい」

「OK。じゃあ早速行ってみよう」


ぶっちゃけ柴田監督どうだった?

「いきなり本題から入ろう。柴田監督の手腕をどう評価する?」

「ストレートだな。まず最初にクラブの難しい時期に監督に就任し、火中の栗を拾ってくれたことには本当に感謝しかない。これは声を大にして言いたい。成績だけを見れば厳しい評価にならざるを得ないが、大前提としてクラブが過渡期にあった難しい中での就任だった」

「ほう、というと」

「ざっくりとした経緯としては、J2昇格初年度から率いてきた反町監督に2019シーズンで別れを告げ、新たに布監督を招聘した。しかしなかなか結果が付いてこず、9月に布監督を解任。内部昇格で誕生したのが柴田監督である」

「なるほど。長期政権に幕を閉じた後というのがポイントになりそうだな」

「そのとおり。世界中を見渡しても、サー・アレックス・ファーガソン後のマンチェスター・ユナイテッドやアーセン・ヴェンゲル後のアーセナルなど、長期政権を築き上げた後任というのは難しい仕事だ。さらに松本においてはJ2昇格してからずっと同じ監督で、2度の昇格を経験するなどクラブ史上に残る結果を出した。なかには反町監督しか知らないというサポーターも多いはずだ」

「それはたしかにやりづらい部分はあるな。ただ、柴田監督はクラブに長年在籍しているだろう?」

「それはそうだ。だからこそ布監督の後任を託されたという見方もできる。結果的にはチームを立て直して2020シーズンを終えた」

「そして迎えた今季はチームの3分の2近くを入れ替えるレボリューションを実行し、勝点84得点84という高い目標を掲げて臨んでいたよな」

「そうだ。キャンプから4-4-2に挑戦して、自分たちでボールを保持して能動的に相手を崩すサッカーを標榜していた。しかし序盤から躓くことになる」

「時代にマッチしたサッカーな気もするがなぜ躓いた?」

「まず4-4-2については、4-4のブロック守備を仕込めず、ビルドアップの仕組みづくりにも苦戦したのでキャンプ時点で諦めている。開幕まで残りわずかとなったところで昨季ベースにしていた3-5-2に戻し、その後は3-4-2-1と併用して使っている」

「昨季から慣れ親しんだシステムならうまくいきそうだがな」

「ところがそうもいかなかった。これは昨季から継続して抱えていた課題だったのだが、最終ラインからのビルドアップがうまくいかない。前からプレスを掛けて相手陣地で引っ掛けてショートカウンターというのは十八番なのだが、それ以外の攻め手を増やせなかったことが致命的だった。あえて松本にボールを持たせるチームも出てきて、その試合は手も足も出なかった」

「攻撃面に課題が残ったのか。守備の部分はどうだ」

「守備では一定の成果は残したと思う。昨季ボロボロだった守備を立て直した実績があるし、今季も全体をコンパクトに保ててプレスがハマると強かった。プレスの練度不足を露呈したり設計をミスる時もあったけども、北九州戦、新潟戦なんかはベストゲームに近い。基本的に守備からリズムを作るチームなので、相手がボール保持に振り切っている試合の方がむしろ選手はやりやすそうだったな」


柴田監督を一言で表すと

「なんとなくの流れはわかった。で、柴田監督を一言で表すとどんな監督だ?」

「この手の質問の中で一番ざっくりして難しいやつだ。一言で表現するならば、プランAを構築するのは上手いが相手に変化されると対応できないタイプというところだろうか」

「なんかよくわからないな。もうちょっと詳しく教えてくれ」

「まずプランAを構築するのは上手いという点だが、これは読んで字の如く。試合までの準備期間で対戦相手を分析して、相手のストロングポイントを消したり、弱点を突くプランを練ってチームに落とし込むまでは一定数できていた。一方で、相手に変化されると対応できないというのは、当然サッカーは相手がいるスポーツなのでプランAに対して試合中に修正を施してくる。その修正に対して対応できずに崩れることが多かった印象だ」

「なるほど。でもプランAだけでも押し切れる場合もあるんじゃないのか」

「もちろんあるだろう。ただ、今季の松本はプランAで押し切るには火力不足だった。押し込んでも得点が取れないという展開は何度も見たし、攻撃に関しては個人依存の部分が大きかったので、理不尽に殴れるハンマーみたいな選手がいないときつかったかもしれない。その点では、金沢から獲得したルカオが負傷でほぼ稼働できなかったのは痛かった」

「そういえば今季の松本は負傷者が多い印象はあるな」

「ルカオや山口一真はもともと負傷している状態で加入しているから仕方ないが、田中隼磨・橋内優也・篠原弘次郎・野々村鷹人・佐藤和弘・安東輝・平川怜・阪野豊史と現在離脱している選手だけでもこんなにいる。後は常田克人や浜崎拓磨も合流は遅れていた」

「こう見るとめちゃくちゃ多いな。チームの半分くらい離脱していることになる」

「そうだな。主力が負傷離脱してベストメンバーが組めなかったことは不振に関してのエクスキューズになりうるだろう。とはいえ、個人的には負傷離脱の一因には標榜していたサッカーのスタイルが影響しているとも思う」

「それは興味深い、どういうことだ?」

「柴田監督のスタイルは、前線から積極的にプレスを掛けて人を捕まえに行く。全体的にかなり運動量が多くタフな戦いだった。それだけに怪我がちだった橋内優也や、ベテランの阪野豊史・篠原弘次郎あたりが限界を迎えてしまった感もあった」

「なるほどな。そろそろ読者も飽きてくるころだろう。名波監督の話をしたいな。まとめてくれ」

「メタ的な発言はやめろ。ではまとめると、柴田監督は守備では一定の評価はできるものの攻撃面の構築では厳しい部分があった。また、試合中の柔軟な対応にも課題を感じた。とはいえ、繰り返しになってしまうが、今は感謝の気持ちしかないし、本当にお疲れさまでした。また何かしらの形で松本に関わってくれたらいいなと心から思っている」


監督交代について思うこと

「まったく喋りすぎだ。柴田監督だけでこの記事を終わらせるつもりか。ここからは未来の話をしよう。名波監督の就任を率直にどう思う」

「正直かなり驚いている。それはクラブの決断もそうだが、名波監督ほどの知名度とキャリアのある人物が松本の、しかも今の状況のチームの監督に来てくれるということにだ。ここにも感謝しかない」

「感謝の言葉を並べて好感度をあげようとするな。松本が招聘できた理由はどう考える?」

「これはあくまで憶測の話になってしまうが、タイミングが良かったのかもしれない。名波監督は最後に指揮を執ってから2年ほど経過して、再び現場に立ちたいと発言もしていた。そこへ松本からオファーが届いたとなれば、多少条件面が希望に沿わなくてもチャレンジしようと思ってくれたのかもしれない」

「就任のタイミングについては?」

「今季のここまでの成績を考えると、水面下ではリストアップや調査はしていたはずだ。おそらく後任との交渉が本格化したのはホーム町田戦後ではないかと思う。1-5というスコアもそうだったが、何もできないまま失点を重ねる姿には見ている側もショックは大きかった」

「ふむ。そうすると町田戦以降はいつトリガーが引かれるか、という状態だったわけか」

「まあ全て憶測でしかないけどな。今年はオリンピックの中断期間があることを考えると、監督交代に踏み切るには今がギリギリのタイミングだったと思う」


名波監督に期待すること

「せっかく未来の話をするのだからポジティブな話題にしよう。名波監督就任にあたって期待することはなにがある?」

「まずは圧倒的なカリスマ性・求心力だろう。勝点84を目指す!と豪語しておきながら、降格争いに身をおいているチーム状況を考えると、内部崩壊してもおかしくはない。その点、選手をひとつにまとめる手腕は磐田でも発揮していたので、今の松本にはうってつけの人材といえる」

「たしかに磐田でも降格争いの渦中にいながら、選手から不満の声が一切聞こえなかったのは驚きだった」

「元日本代表の10番という実績もあるだろうが、単純にコミュニケーションが上手いのだろう。コメンテーターとしてサッカー番組やバラエティに出ている様子を見ても、わかりやすくかつユーモアを交えながらの話にはつい引き込まれてしまう。チームに一体感をもたらしてくれるのではないかと思っている」

「それ以外に期待する部分はあるか?」

「あと大きな部分では、人脈だろう。様々な活動を通じて築き上げたネットワークは幅広く、表に出ていない交友関係もあるだろうことを考えると、ある種全クラブにコネがあるのではと思ってしまうくらいだ。その人物が監督になったことは、補強戦略において間違いなくプラスになる。今までの松本では考えられないような大胆な補強が見られるかもしれない」

「磐田時代に中村俊輔を呼び寄せたりと実績もあるからな」

「きっと名波監督が声をかければ動くという選手も出てくるだろうから、その点では期待が膨らむな。それこそ磐田時代の教え子を夏の補強で引っ張ってくるとか」

「案外楽しみな夏になりそうだな。でも松本はシーズン前にレボリューションして余力はあるのか?」

「正直言えばカツカツだろう。そもそもA契約の枠が空いてないはずなので、補強するならば誰かを放出する必要がある。もしかすると名波浩というネームバリューを使って新規スポンサーの開拓ができたりすると、補強資金が捻出できるかもしれない」

「超甘々なストーリーだな。ちなみに補強ポイントがあるとしたらどこになる?」

「理想を言うなら、戦術兵器になり得るアタッカーと守備陣を統率できるセンターバックだろう。前者は磐田時代のアダイウトンみたいなイメージだ。名波監督は良くも悪くも選手の個を最大限引き出すことがベースなので、理不尽に殴れる選手がいないと手詰まりになる可能性はある。後者に関しては、センターバックが単純に不足しているということもあるが、チーム全体を鼓舞してピッチ内の指揮官となれるような選手が望ましい。ベテランで出場機会を失っている選手がいればレンタルなどで借り受けたいところだ」

「そう考えるとポイントは明確だな。既存のメンバーについてはどうだ」

「監督交代すると競争は横一線になるので、序列が一気に入れ替わる可能性もある。期待したいのは田中パウロ淳一。うまくチームにはめ込むことができれば戦術兵器になれるポテンシャルを持っており、オフザピッチのキャラクター的にも名波監督と合いそうだ」

「他に期待するポイントはあるか?」

「個人的にメリットに感じているのは、名波監督がJ1で降格争いを経験していることだ。足元に目をやると松本は17位で、降格圏とは勝点わずかに2差。今季のJ2は中位以下が詰まっていることを考えても、シーズン後半戦に降格争いに巻き込まれる可能性は大いにある。そうなったときに、松本はクラブとして熾烈な残留争いを経験していないのは不安要素だった。名波監督の経験は生きてくるはずだ」

「だいぶ長く話してもうお腹いっぱいになってきたな。あえて聞くが、名波監督について不安点があれば教えてくれ」

「磐田での指揮を見る限りだと、組織として戦術を落とし込むことはあまりできていなかった印象だ。あくまで選手の個を尊重して、持っているポテンシャルを最大限発揮させる、個人にフォーカスしたマネジメントだと思う。その点、柴田監督のもとでも火力不足を露呈したスカッドには不安が残る。もちろん、この2年間で名波監督自身が監督としての幅を広げている可能性は十分にあるし、夏の補強で足りない部分を補う前提ではあるが。」

「磐田の監督を退任した後に、札幌のペトロヴィッチ監督に話を聞きに行ったりと熱心に学んでいたようだから期待したい部分ではあるな」

「あとは、今季の目標設定だろう。シーズン前に高い目標を掲げて大型補強をしている手前、表立って残留という目標は掲げづらい。スポンサーへの見せ方も考慮して、フロントはあくまで上位進出と言うだろう。今季残り半分を戦うにあたり、どういった目標設定をするかによって戦い方は大きく変わってくる。そのあたりの舵取りを誤らないでほしいものだ」

「よくわかった。最後になにか言い残したことがあれば言ってくれ」

「松本山雅というクラブにとって久しぶりに来たビッグネーム。これから数試合はメディアからの注目も集めるだろう。ただ、変に浮かれることなく一試合一試合、目の前の試合に集中して臨みたいところだな」


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柴田監督、西ケ谷コーチ本当にありがとうございました。
そしてお疲れ様でした。非常にストレスフルな1年間だったと思います。まずはゆっくり休んでください。
またいつか、松本山雅というクラブに力を貸してくれる日を待ち望んでいます。

名波浩監督、大変な状況にあるチームの監督を引き受けてくださり本当にありがとうございます。
残り23試合、全力で応援しますのでよろしくお願いします。



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