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【ヒーローは遅れてやってくる】J3 第29節 松本山雅×FC岐阜 マッチレビュー

スタメン


3試合勝利から見放されている松本。昇格争いから脱落しないためには残り6試合すべて勝利する心構えが必要である。

今季最終ラインの柱だった大野佑哉が負傷離脱してしまい、3バックの中央には野々村鷹人が入る。右センターバックには篠原弘次郎が初スタメン。約8ヶ月ぶりのリーグ戦出場となる。さらに右ウィングバックには宮部大己を抜擢。宮部大己の調子が良かったことが決断の決め手だろうが、もしかするとサブ組としてトレーニングマッチなどで篠原弘次郎-宮部大己の右サイドは慣れ親しんでいて、セットで起用したのかもしれない。
ベンチには出場機会に飢えた田中パウロ淳一が控えている。

対する岐阜は苦しい台所事情。どれだけ苦しいかはベンチにGKを2名帯同させていることからも伺い知れる。柏木・庄司・石津・船津・宇賀神・菊池・山内彰と主力級の選手が多数抜けており、前回対戦時とも違ったチームだと考えるべきかもしれない。警戒すべきは右サイドハーフの窪田。前半戦に戦った際は、対面した下川陽太が散々にやられてしまい外山凌との交代を余儀なくさせられた嫌な思い出がある選手だ。


篠原弘次郎と常田克人

大怪我から復帰した篠原弘次郎、率直にめちゃ頼もしかった。177cmと決して大柄ではないが、跳躍力に優れていて空中戦でも競り負けない。アジリティも兼ね備えており、走りやステップも軽やかな選手だ。そして違いを見せていたのは、止める・蹴るといった足元の技術の高さとビルドアップにおいてのセンスの良さ。後者をもう少し具体化すると、楔のパスを付ける位置やタイミング、味方がボールを持った際のサポートのポジショニングだったり。もはや個人戦術の領域ではあるが、現在の守備陣では頭ひとつ抜けていると感じた。

彼のビルドアップの貢献は直接的なものに限らない。足元の技術に自信があるためボールを受けることを怖がらないし、積極的に高い位置に上がっていく。彼がボランチの高さくらいまで上がってビルドアップに参加することで、右ウィングバックの宮部大己をより高い位置に押し上げることに成功していた。その結果、宮部大己がペナルティエリア内に侵入する回数は多くなっていたし、決めきれなかったが決定機にも絡んだ。こうした副次的な効果も含めると、篠原弘次郎の起用はチームの流れを変えるだけのインパクトがあったし、バランスを取ることに苦心していた下川陽太を攻撃面で開放するキーマンになるかもしれない。

この試合、常田克人も確かな成長の跡を見せた。前半●分、カウンターから窪田と1対1の局面を迎えた常田克人は、スライディングでボールを絡め取ったのだ。これまでの彼は、スピードのある選手やドリブラーを苦手としていた。相手の懐に突っ込みすぎて入れ替わられてしまったり、距離を取りすぎてかわされてしまったり。しかし今日は窪田と正対して適切な距離を取り続け、窪田に仕掛ける選択肢を十分に与えなかった。何なら窪田のドリブルを縦に誘導して、仕掛けてきたところへ足を出したようにすら見えた。受動的になりがちな守備対応で、自分から罠を張って能動的に対応することができていたと思う。

こういった守備を毎試合できるのであればドリブラーとて怖くわない。元来スピードがない選手ではないので、自分に有利な状況を常に作れていればそう簡単には1対1で負けないはずだ。差し引くべきことがあるとすれば、窪田との対戦は2周目であること。前回対戦でこっぴどくやられているので、松本側も相当研究しているはず。窪田のドリブルの癖を把握できていたからこその完璧な対応だったのかもしれない。初見のドリブラー相手にもプレーのリズムや癖を見抜いて、試合中にアジャストすることができるか。彼が1ステージ上がるための肝かもしれない。


もったいない失点

岐阜に決定機らしい決定機を作らせず迎えた前半25分。もったいない形でボールを失い、与えたコーナキックから失点してしまう。コーナーキックの守り方うんぬんではなく、コーナーキックを与えてしまった一連のプレーの方に問題があり検証すべきだと思っている。

場面は敵陣深くでの松本のプレッシングから。松本の右サイドでうまくプレッシングをハメてボールを奪い、小松蓮が粘ってパウリーニョへ繋ぐ。パウリーニョはバイタルエリア中央にいた佐藤和弘へパス。受ける前に首を振って周囲を確認した佐藤和弘だったが、トラップがやや左に流れてしまい、そこをDFに突かれてボールロスト。こぼれ球を拾った窪田が慌てて突っ込んできたパウリーニョを交わして一気に中央を持ち運ぶ。窪田からパスを受けた藤岡のクロスは、辛うじてパウリーニョがブロックしてコーナーキックとなったという流れである。

一番いただけなかったのはボールの失い方。敵陣深くでボールを奪い、チーム全体が攻撃に出ていこうとしている状態で安易にロストしてしまったのは少し軽率だった。佐藤和弘は直前に背後から近づく選手がいないことを確認していたが、DFが狙っていたのはトラップ際。彼の技術レベルであれば足元にピタッと止めてほしいし、もっと言えば利き足である右足でワンステップでシュートを打てるような位置にトラップしてほしかったなーと思う。

まずい失い方から生まれた傷を深くしてしまったのはパウリーニョの対応。スピードに乗った相手に対して一発で突っ込んでしまうのはタブー中のタブー。厳しいことを言えば、アンカーを任されている選手がやっていいプレーではなかったかなと。こういった場面ではできるだけ相手のカウンターを遅らせて味方の戻る時間を稼ぐのが定石。パウリーニョなら出来るはずという期待を込めても少し残念なプレーだった。

ボールロスト・カウンター対応・セットプレー守備と失点に繋がるまでに3つ分岐点があったわけだが、いずれも悪手を踏んでしまっての先制点献上。どこかで止められていれば…と悔やまれる。

個人的に好きじゃないのは、チームとして良い流れだったのを自分たちで手放してしまったこと。主力を欠いた岐阜は明らかにうまくいってなかったし、松本は今季一番自由を与えてもらっていた。決定機も作っていたし、完全に流れを掌握していたはずなのに、1プレーでスコアを動かされてしまったのは脇が甘いというかなんというか。押し込まれる側としての振る舞いが染み付きすぎていて、一方的に押し込んだ展開で焦れて安い失点を喫する展開がちょっと続いているのは悩みどころ。松本山雅というクラブが挑戦者という立場に慣れすぎてしまっているのかもしれない。今はちょっと違うからね。


供給過多なビルドアップ

岐阜のゲームプランを組み立てるにあたって重要なピースになっていたのは柏木と庄司。絶対的な司令塔を2枚並べることで、自分たちが主体的にボールを動かしながら相手の陣形を崩していく。シーズン途中の監督交代でやや色に変化はあったものの、存在そのものが戦術になりうる両選手が命運を握っていたのは間違いない。

この試合では2人共に欠いていたわけだから当然戦い方の変更を余儀なくされる。代わりにボランチに入ったヘニキは、ボール扱いに優れる訳では無いが強靭なフィジカルでバイタルエリアを固めつつ前線にも飛び出していける選手。限られた戦力とヘニキの特徴を活かす上では、ガッチリを守備ブロックを組んでカウンターを狙うのは正しい選択だったと思う。2トップも松本の最終ラインにプレッシングを掛けることは諦めていて、まず4-4-2のブロックを組むことを徹底していた。

岐阜の2トップがプレッシングを掛けてこないので、松本の最終ラインは比較的余裕を持ってボールを運べる状態。そもそも2トップに対して3バックなので数的優位なのだが。それなのに松本はパウリーニョがビルドアップのサポートに入る事が多かった。時には佐藤和弘も下がってきて絡もうとしていて、最終ラインとしては別に困ってないのになーという感じ。せっかく下がってきたパウリーニョも、ビルドアップに参加させてもらえずスルーされる状態が前半ずっと続いていた。

供給過多なビルドアップ

ボランチの片方が最終ラインに落ちるのが決まりごとになっていたのかもしれないが、状況を考えると頑なすぎた気もする。野々村鷹人が「下がってこなくても大丈夫!」と声をかけるでも良かったし、パウリーニョが「枚数足りてそうだから俺上がるね!」と言うでも良かったし、何でもいいのだけどコミュニケーションで解決できたんじゃないかな?と思ったり。オートマチックなボランチ下ろしによって、後ろに重たくなってしまう典型のような状態だったので、45分間修正できなかったのは残念。


ヒーローは遅れてやってくる

試合展開を鑑みた際に、1点ビハインドなのに後ろに重たくなっているのはイケてないので名波監督はハーフタイムで早々に手を打ってきた。佐藤和弘を下げて田中パウロ淳一を投入し、展開によってダブルボランチのようになることもあった布陣を中盤逆三角形の3-5-2に明確にシフト。

この交代によってチーム全体の重心が明らかに前がかりになったと思う。菊井悠介と田中パウロ淳一という攻撃的な選手をインサイドハーフに置いていることも一端にあると思うが、やはり純粋に初期配置を前に寄せたのが大きいかなと。

同点ゴールも交代出場の2人の連携から。右サイドで田中パウロ淳一からボールを受けたルカオがドリブルで突進し、内側を並走した田中パウロ淳一へラストパス。鋭い切り返しでDFを置き去りにすると左足を振り抜いてネットを揺らした。

前半は2トップ+トップ下の3人でカウンターを完結させる必要があったので、2トップの片方がサイドに流れると菊井悠介は中央でフィニッシャーとして振る舞って、サイドに流れた横山歩夢は独力で局面を突破するしかなかった。ところが後半は、2トップ+インサイドハーフの4枚で攻撃を繰り出せるようになったので、サイドに流れたFWにフォローが1枚入れるように。得点シーンだと、ルカオが流れた際に田中パウロ淳一がサポートに入れている状況。この形を作れている時点で選手交代が当たったと言えるだろうし、最初の決定機を沈めた田中パウロ淳一もさすが。
シュートブロックに入ったヘニキは、ファーのコース(田中パウロ淳一から見てゴール左隅)を消しにきていた。そこを逆手に取ってニアに蹴り込んだ判断は見事だったし、GKはヘニキがブラインドになって反応が遅れたのかもしれない。

IHがいることのメリット

2点目は左サイドのユニットでの崩しから。大外でボールを持った外山凌は、中央の安東輝へ戻す。パスを出した外山凌はすぐさまハーフスペースへ斜めのランニングをして裏のスペースを狙い、これに窪田が引っ張られる。ぽっかり空いた大外のスペースで常田克人が受けて正確なクロスを上げると、ファーで待っていた田中パウロ淳一がボレーで合わせてドッピエッタ。

安東輝への食いつき
トライアングルでの良い崩し

左サイドで外山凌・常田克人・安東輝がトライアングルを形成し、その形を維持しながらも立ち位置を変えたことで岐阜の守備を撹乱することに成功した良い崩し。まあ外山凌は純粋に裏でスルーパスを受けたがっていた気もするので偶然の一致なのかもしれないが、外山凌のランニングしたコースが良かったし咄嗟に機転を利かせた安東輝と常田克人の判断もGood。これを再現性をもって今後も出せるといいけどもねぇ。



総括

これまでの鬱憤を晴らすような田中パウロ淳一の2ゴールで逆転勝利。鹿児島が敗れたため昇格圏内との勝点差は4に縮まった。

再び上昇気流の乗れるような好材料が多い試合だった。得点という目に見える結果を出した田中パウロ淳一はもちろんのこと、宮部大己は課題だった攻撃面で存在感を出したし、篠原弘次郎は他の選手にない特徴を出して存在感を強烈にアピールした。最終盤にきて選手間の競争が熾烈になっているのは良いことだ。健全な競争は主力選手に刺激と緊張感を与え、高パフォーマンスを引き出す。

大野佑哉が離脱するという緊急事態で橋内優也をスタメンで使わずにベンチに置いた決断は、名波監督の賭けでもあったと思う。その期待に応えた野々村鷹人のプレーは称賛されるべきだし、やはりゲームプランニングを考えるとクローザーとして橋内優也は取っておきたいものである。

さて次節はアウェイで今治との一戦。田中パウロ淳一の光によって若干陰ってしまっているが、横山歩夢のコンディションも確実に上がってきている。そして今治戦は否が応でも肩に力が入るはず。
その背景は、世代別代表の直接的なライバルである千葉寛汰の存在だ。横山歩夢が代表に入るまでは彼が世代別代表のエースであり、横山歩夢と入れ替わるように落選。出場機会を求めて今治へ移籍し、横山歩夢が負傷で辞退したアジアカップ予選ではU-19グアム代表相手に衝撃の6得点。そして代表から帰ってきてからリーグ戦4試合で5得点。意識するなという方が無理だろう。

相当気合が入った横山歩夢を見れると思うとワクワクすると同時に、空回りしないように周りが気遣ってほしい感もある。

一戦必勝の試合はまだまだ続く。。。


俺達は常に挑戦者


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