【もぎとった未来への光】J2第25節 松本山雅×京都サンガFC マッチレビュー
スタメン
狙い通りの先制点
序盤からテンション高く入った松本。磐田戦から中2日ということもあって、多少様子見ではいるかなと思っていた僕の予想を良い意味で裏切ってくれた。ボランチの安東を中心に前からプレッシングを掛けつつ、中盤で奪ってショートカウンターという狙いを徹底していく。
前半11分の先制点は京都のストロングポイントを逆手に取った形から。先程松本がハイテンションで試合に入ったと書いたが、京都は毎試合ハイインテンシティで入ってくるチーム。その肝となっているのは、縦に圧縮されたコンパクトな陣形で、ボールを失った後のネガティブトランジションの早さと相まって、即時奪回を実現している。
最終ラインを高く設定して全体を圧縮しようとするチームは多いが、どうしても穴になってしまいがちなのはセンターバック。DFの背後に広がる広大なスペースを突こうとするのは、こういったチームに対しては定石で、センターバックには高さ・強さそして何よりスピードが求められる。そんな三拍子揃ったハイレベルな選手は当然引っ張りだこで、移籍金や年俸も高くつく。結果的に選手の質がものを言うセンターバックに、ある程度の金をかけて選手を撮ってこれるかどうかが成功の鍵になる。
少し話はそれてしまったが、京都にはスペシャルな選手がいた。ヨルディ・バイスである。J2では無双といってもいい、対人の強さ・スピード・足元の上手さを兼ね備えており、現在の京都のサッカーには欠かせないピースのひとつだ。松本は彼のストロングな部分を逆手に取る。
カバー範囲の広さと対人の強さ故に、時に本来のポジションを捨てて飛び出てくることがあるバイス。ボールを奪い切れれば一気にショートカウンターのチャンスとなるのだが、裏を返せば元々広かったスペースをさらに広げていることにもなる。松本の先制点はセルジーニョに食いついたバイスの背後に河合がランニングし、ラインブレイクに成功してもたらしたもの。一度使えば警戒されてしまうので、そうそう何度も使える手ではないが、一撃で仕留めきったのはさすが。
とはいえ、京都もこれくらいは想定内だったはず。バイスを起用することのデメリットよりも、メリットのほうが遥かに大きいからこそ継続して起用しているのであるし。唯一、普段との違いがあるとすれば、バイスとセンターバックのコンビを組んだのが麻田ではなかったということか。バイスが上がるスペースを管理するのは麻田の役割で、スピードのある彼だからこそ務めっていた部分がある。少し属人的になっていた守備組織の綻びを突いた、名波監督としても会心の一撃だったのではないか。
相手を見て変える
先制した松本の選手たちは明らかに動きがよくなった。今まで足に10kgの重りでもつけていたのかと思わされるくらい、プレーが軽快でアグレッシブさを取り戻していく。
特に目立っていたのは復帰戦になった安東。平川と佐藤でボランチを組ませると、ボール保持のクオリティは上がる反面、ボール奪取やセカンドボール回収という面で不安を抱えていたのは事実。そんな不安に対して彼は一発回答を出した。読みの鋭さと一歩目の早さという特徴を発揮していたし(もちろん離脱していたので他の選手より疲労が軽かったという背景もあるだろう)、攻撃時にも積極的に前線3枚と絡んで、時にはハーフスペースに突撃するなど違いを作ってくれた。もしかすると、相手のタイプによって平川と使い分けていくような起用になっていくかもしれない。
守備の局面で面白かったのは松本の試合中の変化。京都はヨルディ・バイスを起点に、ボランチと最終ラインの間でふらふらしていたウタカに鋭い縦パスが何本か入る。松本のボランチをインサイドハーフでピンドメしておきながら、背後のスペースにウタカが落ちてきてポストになり、高精度のクロッサーが揃うサイドの選手から再び中央でウタカが合わせるというのは京都の十八番。30分前後くらいまではこの形に苦しめられ、同点に追いつかれたシーンも巻き戻すと、この流れからセットプレーを与えてしまっている。
そこで松本が打った手は、多少バランスを崩してもバイスを抑えるというもの。ボールの出所をまずは抑えて、京都のビルドアップを機能不全にしようとする。具体的には、セルジーニョがバイスの監視役となって、彼にボールが渡るタイミングで素早く寄せる。セルジーニョが間に合いそうになければ、伊藤翔が寄せるというもの。伊藤翔とセルジーニョが一人に食いつくような構図になるので、全体のバランスは偏ってしまっているのだが、それはOK。結果的に修正を施してから前半終了まで、バイスから効果的な楔のパスが入ることはなかった。
京都のやりたいことを抑えながら、前半のうちに勝ち越せたのも非常に大きかった。セットプレーの流れから偶然にも、左→右→左と左右に揺さぶりながらクロスを上げる格好になり、ややボールウォッチャーになった京都DFの隙を伊藤が突いた。リプレイを見るとよく分かるのだが、伊藤はDFの死角にポジションを取ってセルジーニョがクロスを上げると同時に一気にスピードアップしてDFの前に飛び込んできている。エリア内のどこで合わせれば点が取れるのか、伊藤だけが知っているポイントが有るのだろう。ストライカーの嗅覚のようなものを感じさせる、実に”伊藤翔らしい”ゴールだったと思う。
拾い上げた勝点1
少し長くなってしまったので、後半はサクッと。
ハーフタイムコメントでも「後半の立ち上がりに気をつけよう」と指示していて、ここ数試合やられている課題でもあったのだが、失点。バイスの縦パスのシーンで書いたように、中央のウタカに預けてサイドに展開し、高精度クロスにエリア内で合わせるというのは京都の形。得意とする形に持ち込まれたら、一発で仕留めてくるだけのクオリティがあった。自分たちの形に持ち込んだら仕留めきれる、だからこそ首位争いをしているというのは前節の磐田と同じである。個人的には、ウタカが左サイドへ展開した後に、黒木がダイレクトでクロスを入れたのが勝負の分かれ目だったと思う。あそこでトラップしていたら中央の松本守備陣は対応する余裕が持てていたはずなのだが、そこはさすが黒木。ダイレクトであのピンポイントクロスを供給されたらDFはノーチャンスだ。
時間経過とともに、両チームとも中2日の影響が色濃く出始める。全体的に運動量が低下し、最終ラインを押し上げられなくなったことで試合自体はオープンな展開に。ただ、前線の選手も単独で突破できるほどの勢いは持っておらず、お互いに決定機を作るまでは行かない時間帯が続く。京都はイスマイラ、松本は山口一真を投入して前線を活性化しようと試みるが、ネットを揺らすことはできず。
そのまま2-2で試合終了。
総括
残留争いの直接対決に敗れ、前節は磐田に0-4とショッキングな敗戦が続いていたチーム事情を考えると、2-2のドローはポジティブに受け止めたい。ましてや、中2日で迎えた試合であり、肉体的な疲労以上に精神的なショックを振り払って切り替えるほうが難しかったはずだ。そういった状況下で、立ち上がりからアグレッシブなプレーを披露した選手たちは称賛されるべきで、首位争いをしているチームから勝点1をもぎとったと評するべきだ。
安東、橋内、大野と離脱していた選手の起用にある程度の目処が立ったのも大きい。特に安東はボランチの中では少しタイプが異なる選手なので、選手の個性で変化をつけていく名波監督にとっては貴重な戦力となる。
目の前の勝点を拾っていかなければいけない状況下においては、どうしても属人的な改善になってしまうのは一定仕方ない部分はあるだろう。逆に、選手個々の特徴を見極めて最適解を探っていくようなチーム作りは名波監督が得意とするところでもある。この試合の勝点1を活かすも殺すも自分たち次第。前を向いて歩き続けよう。
One Sou1
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