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【大人の振る舞いだってできるもん】J3第6節 松本山雅×FC岐阜 マッチレビュー

スタメン

この日の松本は4-4-2を採用。開幕戦で見せたサイドハーフが内側に入ってくる変則的なシステムである。それを踏まえて、前節からは2枚変更。宮部大己が今季初めてメンバー外となり、浜崎拓磨もベンチ外。代わってボランチにパウリーニョが復帰し、小松蓮が2トップの1角に据えられた。

後日、浜崎は宮崎戦で負傷し、6週間の離脱となったことが発表された。(推しがいなくなるよりツライ事などあるだろうか)

対する岐阜もやりくりには苦労している印象。コロナによって一時チーム活動すらままならず、ヘニキ・田中順也・藤岡浩介・ンドカチャールスといった主力選手が離脱を余儀なくされている。


飲み込まずに受け止める

J3では、片方のチームがボールを奪ってカウンター発動→奪われたチームが奪い返す(もしくはカウンター発動中のミス)→カウンターのカウンターが発動。みたいなボールが激しく行き来するような場面がよくある。ところが、岐阜はボールを奪うとテンポを落とし、庄司・柏木を中心にゆったりとボールを回しつつ狭い局面を苦にしない技術で打開していくことが多い。

試合前の僕が考えていた岐阜戦のテーマは、試合のテンポを落としてくる相手に対して、松本が相手を飲み込むような勢いを見せることができるかどうか。J3屈指の試合巧者を松本が得意とする土俵に引きずり出して戦うことができれば、間違いなく今後の自信につながるだろうと思っていた。

ところがどっこい、松本は全然違う入り方を見せる。岐阜のボール回しに対して過度にプレッシングをかけることなく、自分たちが守備陣形を整えることを最優先。基本的に自陣で4-4-2の守備ブロックを組んで、岐阜のポゼッションを受け止める選択をしていた。

この戦い方を選んだ背景には、ポジティブな理由とネガティブな理由があると思っている。

ポジティブな理由は、名波監督が試合後のコメントで語っていたように、岐阜を松本陣地に引き込みたかったということ。引き込む、つまり岐阜が松本を押し込む形になるが、そうすると必然的に空いてくるのは岐阜の最終ラインの背後。横山歩夢・菊井悠介・小松蓮といったフレッシュな選手たちでロングカウンターを仕掛け、この広大なスペースを狙いたかったのだろう。

一方のネガティブな理由はなんだろうか。一番に思い当たるのは失点リスクを許容できなかったということだ。カウンターの打ち合いになるような試合展開に持ち込めば、松本の得点機会も増えるが、一方でミスからカウンターを受けるなど失点リスクは上がっていく。得点機会と失点リスクを天秤にかけた際に収支が合わなかったと考えたかもしれない。
また、前節の宮崎戦で顕在化した課題として、気温上昇と高強度の戦い方の相性が悪いことがある。ぶっちゃけ分かっていたことではあるが、前節のガス欠具合を見ていると、インテンシティの高い戦い方は選択しにくかったか。
そして最後に、岐阜のプレッシング耐性が高いこと。センターバックの岡村・フレイレに庄司を加えて3枚でビルドアップすることが多いが、いずれの選手もボール扱いには長けており、リーグ屈指のプレス耐性を持ったビルドアップ隊だと思う。もちろん松本のプレッシングの練度は上がっているが、百戦錬磨の選手にいなされてしまう姿が頭をよぎったか。

そんなこんなで岐阜の攻撃を受け止める選択をした松本。具体的な試合の中身を見ていこう。


左右非対称のサイド攻略

テンポを落とした後の岐阜の戦い方はシンプル。ポイントになっていたのは、左右非対称なタスクを任されているサイドハーフである。

右の窪田は常にサイドライン際に張ってボールを受け、快足活かしたドリブルで縦へと仕掛ける。窪田の後方に位置する右サイドバックの船津は、あくまでもサポート役で、オーバーラップする際も窪田を活かすための囮のフリーランが目立っていた。元々攻撃的なサイドバックだったが、歳を重ねてドリブラーを活かすような渋いプレーをしているのは興味深い。

逆に左サイドハーフの菊池は内側に入ってくるのが通常運転。菊池が内側に入ったことで空いた大外のラインは左サイドバック宇賀神の持ち場である。無尽蔵のスタミナでアップダウンを繰り返し、松本右サイドバックの前貴之に対して、常に菊池・宇賀神という2択を突き付けていた。

とはいえ、前貴之が1対2の数的不利を強いられるのは想定内だったようで、周りの選手のフォローも早く、特に問題にはなっていなかった。どちらかと言えば厄介だったのは右サイドである。

前半の試合展開を決定づけてしまったのは、3:49~のシーン。窪田と下川の初めてのマッチアップである。名波監督もコメントしていたが、ここで窪田に縦突破を許したことで、前半通してずっと狙われ続けることになってしまう。
快足ドリブラーの窪田に対して、松本で最も対人守備がうまい下川陽太をぶつけていることから、ここの1対1は下川に託したということだったはず。下川も悪くなかったと思うが、それ以上に窪田の調子が良すぎた気もする。縦への突破力ならばJ3では屈指で、J2でも戦術兵器としてプレーできると思う。縦への突破を封じられた時にどんなプレーができるか、選択肢を持てるかどうかが彼の命運を左右しそう。もし縦以外の選択肢も提示できるならば、泉澤のようなレベルに到達できるはずだ。


幅と深さが噛み合えば

自陣に引き込んで発動するはずだったロングカウンターは2トップが孤立気味になっていたこともあり、それほど機能しなかった。しかし、相手のお株を奪うような美しい崩しから先制に成功する。

パウリーニョがサイドライン際に張った前貴之へパス。前は寄ってきた菊井悠介へ戻す。先程パスを出したパウリーニョの動き直しが秀逸で、菊池・宇賀神・庄司・山内彰の間にできたエアポケットのようなスペースを見逃さず、フリーでボールを要求。それを見た菊井がパウリーニョにボールを預けてワンツーで山内彰を剥がす。顔を上げた菊井悠介は、宇賀神と岡村の間のわずかなスペースでボールを要求する横山に縦パスを入れ、ボールを受けた横山は強引に反転して中へ折り返す。ここに走り込んでいたのは、横山に縦パスを出したはずの菊井。シュートフェイントは船津に潰されてしまったが、ファーサイドでフリーになっていた小松が押し込んでネットを揺らした。

注目したいのは、一連の発端となったパウリーニョから前貴之への横パス。大外の前貴之へパスを出したことで、岐阜の守備ブロックを横へ広げる。それによって生まれた選手間のギャップにパウリーニョが入り込み、菊井からのくさびのパス。
そして、ワンツーを受けた菊井は横山への縦パスを選択。横山が受けた位置も、最初に岐阜の守備ブロックを横に揺さぶったことで生まれたギャップである。そして菊井の縦パスは、深さを取ろうとするプレー。

つまり、パウリーニョ→前貴之の横パスで幅を取り、菊井悠介→横山歩夢の縦パスで深さを取る。相手の守備ブロックを広げて揺さぶり、縦パスで攻撃のスイッチを入れて打開する。

松本山雅を見てきたが、これほど計算された美しい崩しを見たことがあっただろうか。いや、ない。
選手それぞれの動き・パスから意図を感じ、相手をどう動かして、どこにギャップを生んで、どう崩すのかのビジョンが共有されている状態。最高だ。

そして一連の流れの主役となっているのは菊井悠介。
パスの出し手にも受け手にもなれる柔軟性、二手三手先をイメージしてプレーできる創造性とビジョン、スイッチを入れるパスを出しておきながらゴール前に詰めている動きの連続性、イメージを具現化する技術。
エグい。エグすぎるぜ。


ブラインドケアは慎重に

失点リスクを抑える方向性で試合に入り、先制点まで奪えた。このまま試合を折り返せたら最高だと思っていた前半アディショナルタイム。
散々狙われていた窪田のところで1対1の局面を作り出されると、抜き切る前に上げた低いクロスがファーへ流れ、詰めていた菊池に押し込まれて同点とされてしまう。

この場面、個人的には岐阜の攻撃の組み立てが良かったなと。窪田のドリブル突破が効いていたのは誰の目にも明らかだったので、彼にどれだけスペースと時間を与えられるかがポイントだった。岐阜は左サイドでパスを繋ぎつつ、宇賀神が大きなサイドチェンジで窪田へ展開。松本のスライドも間に合っていたが、1対1の局面を作れていたことには変わりない。松本の守備を全体的に窪田とは逆サイドに寄せておきながら、窪田に仕掛ける場面を作り出す。そんな意図が見えた崩しだった。

窪田は抜き切る前にクロスを上げているので、下川に加えて佐藤和が付いていたとしても止めるのは難しかっただろう。かといって、ファーサイドにいた前貴之を責めるのも厳しい。前貴之はクロスが上るまでに3回首を振って菊池の位置を確認している。菊池が突っ込んでくるのは分かっていたはずだし、それでも遅れを取ってしまったのは、コンディション的な問題もあるのかもしれない。

個人的に一番気になったのは、センターバック2枚がどちらもニアに釣られてしまっていること。本来、ボランチの住田将やパウリーニョに1枚を任せて、クロスを弾き返す役割を任せたいところである。と思っていたが、住田が足を痛めて満足にプレーできない状態だったので、これも仕方なさそう。

いろいろな要素が重なってしまっての失点で、誰か一人を責めることは難しい。
前半終了間際に同点に追いつかれてしまったことは、岐阜に反撃の勇気を与え、松本の勢いを削ぐものだったはずだ。不幸中の幸いだったのは、ハーフタイムを挟んで気持ちを切り替えられたことだろうか。


武器を封じて反撃開始

後半から、コンディションにやや不安を抱えていた前貴之を下げ、外山凌を投入。外山は左サイドバックに入り、下川陽太が右サイドバックに回った。
これは明確な窪田対策でもある。

前半最初のマッチアップで遅れを取ったことで窪田を乗せてしまったように、外山もまた最初のマッチアップが大事になるだろうと思ってみていた。
果たして50:17~にその時は訪れる。窪田は縦への突破を狙うが、外山はあからさまに縦を切って中へ誘導。痺れを切らした窪田は切り替えして左足でクロスを入れるも、味方のいない方角へ飛んでしまった。
このプレーがターニングポイント。これ以降、窪田は存在感を失っていき、逆に外山は生き生きとオーバラップを繰り返すようになる。
たったひとつのプレーが試合を左右してしまうのだからサッカーは面白いし怖くもある。

この日、松本が素直にセットプレーを行った場面は少なかったと思う。ショートコーナーを交えていたり、少しデザインされた形を披露したり。セットプレーの高さの面で岐阜と正面からやり合うのは勝てないと判断して用意していたんだろうし、前半最初のフリーキックで常田克人がフレイレに競り負けていたのを見て確信したかもしれない。

勝ち越し点につながったコーナーキックは、名波イズムをビンビンに感じるデザインされた形。日本代表で見せた伝説のボレーシュートを彷彿とさせる。さあ打ってくださいと言わんばかりの佐藤和弘のボールも優しかったし、しっかりと抑えて枠に飛ばす菊井悠介のシュート技術もすごい。たぶん名波監督からは「俺は直接ゴール決めたけどな」とか言われてそうだけど。

そして試合を決定づける追加点もセットプレーから。個人的には、コーナーキックを得るきっかけとなった左サイドの崩しが見事だったなと。住田から外山へ渡り、大外の佐藤和へ預けると外山はインナーラップ。クロスは弾かれてしまったが、大外・ハーフスペースといったレーンの使い分けが整理されていて、とてもスムーズな攻撃であった。

岐阜もスピードのある村田を投入するなどして反撃を試みるが、橋内優也を入れて3バックにした松本が逃げ切って勝利。昨季7勝しかできなかったチームが、早くも今季6勝目をゲットした。


総括

会心の勝利と言っていいだろう。やや消極的に見えた前半45分も、あえて相手を引き込んでカウンターを狙っていたり、後半ギアを上げて勝負を決めることを想定していたなら合点がいく。

そして、局所的ではあるが、今まで見たことないような連動性や創造性を見せてくれた攻撃陣は称賛されるべきだ。チームの輪郭がぼんやりと見えつつあり、スタメンも見慣れたメンバーになってきたので、連携面は今後さらに成熟されていくだろう。
一方で守備面にはまだ課題が残る。たしかに守備ブロックを完全に崩されたような失点は少ないが、昨年から継続して抱えている課題が露見する場面は多い。

とはいえ、今年の戦い方は失点数を抑えて手堅く勝つようなチームではない。若い選手に経験を積ませながら、時にはノリや勢いで圧倒していくこともあるだろうし、派手な打ち合いをすることもあるだろう。今まで「失点しないこと」にこだわったチームカラーだったことも影響して、無失点で終えることにこだわりすぎている気もする。
リードしているにも関わらず失点後に選手が肩を落としてしまう姿が象徴的だ。もちろん無失点で終わるに越したことはないのだが、目的を見失ってはいけない。あくまで目的は勝利することであり、無失点は勝利するための手段でしかない。
もし無失点にこだわることが過度なプレッシャーに繋がったり、足かせになっているようならば、一度見直してもいいのではないかと思う。僕を含めてサポーターもね。

さて長くなってしまったが、今年のチームは試合を重ねるごとに違った顔を見せてくれる。できることが増えていったり、日替わりヒーローが誕生したり。急激に成長しているチームに期待しつつ、温かい目で見守っていこう。


One Sou1


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