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【ジレンマ】J2第29節 松本山雅×東京ヴェルディ マッチレビュー

スタメン

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松本は直近リーグ戦4試合勝ちがない。そして4試合中3試合で無得点と攻撃が機能せず、逆に11失点と守備が崩壊している。前節は京都相手に互角の戦いを見せて引き分け。トンネルの出口が薄っすらと見えたような気もしているが、そこから移動込みで中3日というタイトなスケジュールがどう影響するか。

対するヴェルディも調子が良いとは言えない。アウェイ8連戦を4分4敗と未勝利で終えると、9月1日に永井監督が成績不振という名目で退任。堀ヘッドコーチが暫定監督として指揮をしている。8連戦では全試合で得点を取れているものの、クリーンシートに抑えた試合はなし。こちらも守備面に課題を抱えている印象だ。


十八番にやられる

監督が変わったとはいえ、東京Vのやり方は大きくは変わらない。自分たちでボールを握って敵陣に押し込み、楔のパスで相手を食いつかせて背後を狙うというのが大まかな流れだ。戦術のキーマンになっているのは、中盤の佐藤優平と両ウィングに入る小池と山下。佐藤優平は視野が広く、左右両足で正確なパスが出せるため守備側としてはタイミングが取りづらい。両ウィングは相手の背後を突くランニングが上手く、ペナルティエリア内に侵入してからの決定力も備えている。

この試合で松本は分かっていたはずの東京Vの十八番に何度もやられている。ウィングの小池が大外に開いてウィングバックに入る宮部をピン留めし、インサイドハーフの梶川が楔を受けようとする。3バックの右に入る大野が梶川を潰そうと釣り出されて、大野が空けたスペースに小池が斜めのランニングをして背後を取る。釣り出される選手がボランチの佐藤和弘だったり平川だったりに変わることもあるが、最終的な狙いは小池に最終ラインの背後を取らせることだった。この流れから得点には至らなかったが少なくとも3回は決定機を作られている。

相手の最も得意とする形を抑えられなければ失点するのは時間の問題だろう。


星キョーワァン不在の影響

この試合で色濃く感じたのは星キョーワァン不在による穴の大きさである。まずはセットプレーでの単純な高さ。ゾーンで守る松本に取っては純粋に高さや跳ね返す力が必要となってくるが、チーム内で最も頼りになる選手は星だった。実際に2失点目はコーナキックからンドカボニフェイスにドンピシャ合わされて失点しているわけだが、本来彼にマークに付くのは星だったと思う。マークを外してしまった常田にも少し非はあるが、事前のスカウティングと違った動きをしてきたとも語っていたので、仕方ない部分もあるか。

もうひとつは、無理が効く選手が居なくなってしまったということ。星は高さも魅力だが、スピードもある。背後を取られたとしても追いついて潰せるだけの脚力があり、何度も松本のピンチを救っている。そして松本の守備は彼に依存していたことも明らかになってきている。前線からのプレッシングがハマらず、中途半端にラインを上げた背後を突かれることが多い今年の松本。星がいれば、自慢の脚力で追いついてなんとかしてくれていた。小池に裏抜けされた後にペナルティエリア内までドリブルで持ち込まれてしまった場面を見て、星不在の大きさを感じてしまった。

要はチーム全体で守備が機能していないことが問題なのだが、そのツケを最終ラインの選手が払わされているケースが多い。そして星は普通の選手だったら難しい場面に遭遇しても、無理が効く選手なので、身体能力でなんとかしてしまっていた。守備戦術=星キョーワァンみたいなものだ。彼が居なくなった今、元々抱えていたチームとしての課題が露呈している。


名波監督が抱えるジレンマ

じゃあ東京V相手にどう戦うべきだったのか?と問われれば、自陣で5-4-1のブロックを敷いてスペースを消し、カウンターを狙う。もしくは試合終盤にクロス爆撃から物理で殴るということになるだろう。東京VのようにDFを動かしてスペースを作り出すことに長けているチームに対しては、そもそもブロックを敷いて動かないというのが定石だ。

だが、今の松本にブロックを敷いて守り切ることができるか?と言われれば、NOだろう。明確な課題になるのはボランチとシャドーだ。

まずボランチには一枚は守備範囲が広くてボール奪取能力に長けた”ルンバ”のような選手がほしい。平川・佐藤和のコンビだとやや守備面で物足りなさが残る。また、カウンター時には相手ゴール前まで攻撃参加することが求められる。1トップにオルンガみたいなボールを預けておけば一人で点が取れる選手を置ければ攻撃に出なくてもよいのだが、それは非現実的な話。それこそ安東や前がハマりそうだが、ふたりとも戦列にに復帰できていない。

また、5-4-1のブロックを組むにあたってシャドーは2列目の4枚に含まれる。つまり守備時は一列下がってサイドのスペースを埋める役割が求められるということだ。気がかりなのはシャドーの人選。攻撃の核であるセルジーニョは代えがたいが、守備ブロックに組み込むには不安が残る。山口一真や田中パウロ淳一、鈴木国友を起用してもクリティカルな課題解決には至らなそう。阪野豊史と河合秀人をシャドーで使えたらベストなのだが、そうするとセルジーニョ・山口一真あたりをベンチに置くことになる。以前も書いたが、セルジーニョと山口一真は好むプレーエリアがペナルティエリア手前の左と被っており、同時起用はなかなかに難しそうである。また、チーム内のパワーバランスを考えても、セルジーニョをベンチ外とするのはマネジメントが難しくなりそうだ。

逆に前からガンガンプレッシングを掛けようとした場合に、不安要素となってくるのはボランチと最終ライン。ボランチは先程と同じく守備面で、前線が前から追うのと連動して中盤でボールを刈り取る役割が求められる。全体が前がかりになるということは背後に広大なスペースが生まれるということであり、最終ラインへの負担は大きくなる。プレスを嫌った相手がロングボールを蹴ってきた時に、跳ね返しつつ背後のスペースのケアもするという感じだ。ツケを払えるタイプの星キョーワァンが適役だが、10月まで帰ってこれそうにない。

こう考えてみるとA契約枠をいっぱいにするくらいには選手は揃っているのだが、タイプが被っていたり、一番欲しいポジションに人が居なかったりという現象が起きている。選手の数の割に、戦える戦術の幅が狭いというのは名波監督が抱えているジレンマだろう。


総括

試合を通してチームとしての戦い方が定まらなかったように見えた。相手のどこを弱点と見て、一点突破するのかが決まらず、逆に東京Vは松本の弱点を再現性を持って攻め続けた。

タイトなスケジュールだったり、負傷離脱やコンディション不良の選手を多く抱えていて、ベストメンバーが組めないという点で名波監督は擁護されるべきだろう。事あるごとにコンディションの良い選手を起用すると言及しているように、まずは連携面よりも個々の質を重視しているように見える。

とはいえ、最低限の約束事がないとピッチ上は無法地帯になってしまう。今の松本は、そのチーム内での決め事を徹底できていない。名波監督が就任してから2ヶ月半ほど、トレーニングでずっとやり続けていることが継続してピッチで表現できていないのだ。

シーズンも残り3分の1となった段階で降格圏に沈んでいるので、選手にも当然焦りが出てくるだろう。それでもどうか冷静に、基本に立ち返ってほしい。本領を発揮すればもっともっとやれる選手たちであることはサポーターが知っている。どうかチームがバラバラにならずに、最後まで戦ってくれることを願っている。


One Sou1


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