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2022松本山雅FC中間報告vol.1

「早いものでシーズンも4分の1が終わろうとしているな」

「そうだな。8試合を終えたので、ここらで今季の松本について振り返りつつ備忘録として残しておこうか」

「シーズン半ばやオフ期間に向けた布石だな。それでは頼む」


生まれ変わろうとするチーム

「率直に言って今季の松本の感想はどうだろう?」

変わろうともがいている最中というところだな。もともと名波監督はシーズン途中での就任で、じっくり戦術を落とし込む余裕がなかった。加えて最下位でJ3降格の憂き目にあって、クラブ全体が『何かを変えなければいけない』という空気感だったことも追い風になっているはずだ」

「なるほど。変わろうとしているというと、具体的にどのあたりで変化が見られる?」

「ピッチ内の具体的な戦術については後で詳しく話すとして、少し抽象的な部分だと『コミュニケーション』と『前選択の意識』だろうな。前者のコミュニケーションに関しては、昨季就任した段階で静か過ぎると指摘されていたし、選手同士の声かけがあれば防げた失点も多かった。さらに言えば基本スタンスがベンチからの指示待ちで、想定と異なる状況に遭遇したとき、ピッチ内の選手だけで解決策を見出だせず崩れていく試合を何回も経験している。最終的にはベンチが統率を取るべきだと思うが、90分内でベンチから全体へ向けて指示を出せる機会は限られているので、一時的にでも選手同士で話し合って解を出せてほしかったよな」

「たしかに一度歯車が狂ってしまうと、ハーフタイムを挟むまで修正が効かないことは多かったな。その観点では、ピッチ内のリーダーが不在だったことも嘆いていた」

「その通り。シーズンオフの監督インタビューやサポーターミーティングでも話題に挙がっていたので、フロント含めて課題感は強かっただろうな。昨季も橋内優也に期待されていたが、負傷離脱が多くてトレーニングにすら参加できなかったことを本人が後悔していた。今年、橋内優也・安田理大といったベテラン選手を慎重に起用しているのは、とにかく負傷離脱せずチームにいてくれるだけでも貴重な存在だからだろう。特に橋内優也は試合中やハーフタイムに、大野佑哉・宮部大己・常田克人といった若いDFへ積極的に声掛けしている姿が印象的だ

「でも、いつまでもベテランに頼っているわけにもいかんよな?」

「もちろん。特にリーダーシップを発揮しているのは常田克人かな。セットプレーでキッカーと頻繁に意見交換したり、自ら名波監督へ話しかけに行くなんて姿は昨季見られなかった光景だ」

「前選択の意識についてはどう見ている?」

「これもコミュニケーション同様に、昨季から名波監督が口酸っぱく言い続けているキーワードだな。J2参入時から失点を極力少なくする守備に重きをおいたサッカーをしていた癖なのか、ボールを奪うと一度落ち着かせてしまう事が多かったと思う。それを名波監督は良しとしていなくて、ボールを奪ったらまず前を見ろ、と。縦に付けられるならチャレンジするべきだし、相手の守備が整う前に攻めきってしまおうという狙いが見える」

「チーム全体の意識が変わってきているということか?」

「そうだな。鹿児島・和歌山キャンプで1ヶ月間みっちり仕込んだ効果が出てきていると思う。あとは、菊井悠介の存在が何より大きいな。彼こそが『前選択の体現者」だ。YS横浜戦のゴールなんかは象徴的で、名波監督が最も称賛していたのは得点を決めた小松蓮でもアシストした佐藤和弘でもなく、攻撃のスイッチとなる縦パスを入れた菊井悠介だった」

「本当に菊井悠介に惚れているんだな」

「YS横浜戦のウォーミングアップも20分間ずっと彼を見続けていたからな。いや、そんな話はいいんだ。何が言いたいかというと、菊井悠介がチームの意識を変えるだけのエネルギーを持ったプレーを披露していて、それに引っ張られるように全体のパフォーマンスが向上しているということだ。試合中にシステム変更の提言を名波監督へしてみたり、ベンチから指示を出す時の伝達役に彼が指名されていたり、ルーキーとは思えない存在感を発揮している。つくづく、スカウトはよく見つけてきたと思うな」

「なるほどな。今年の変わろうとするチームの象徴になりつつあるということか」


カメレオンでも軸はブレない

「いつだったかのインタビューで、名波監督が『カメレオンのようなチーム』と表現したことで、あちこちで今年の松本を表する言葉として聞かれるようになったな」

「たしかに、相手によって4-4-2、3-4-2-1、3-4-1-2と複数のシステムを使い分けているし、メンバーも固定せずに使っているので余計に印象が強いかもしれないな」

「相手に応じて戦い方を変えるというと聞こえは良いが、それはつまり自分たちの軸がないということではないのか?」

「勘違いされやすい部分だが、それは違う。様々なシステムを使い、毎試合狙いが違っていたりするが、軸はブレていない。まず頭に入れて置かなければいけないのは、名波監督はゲームプランを考える際に守備から入るということだ。現役時代の華やかなプレースタイルも相まってか、攻撃的な監督だと思われがちだが実情はちょっと違う」

「守備から入るということは、守備的ということか?」

「それも違うな。”守備から考える”ことと”守備的”は全く別物だ。”攻撃的or守備的"×”攻撃から考えるor守備から考える”という掛け合わせで、4パターン存在していると思っている。その点、名波監督は『攻撃的な思考の持ち主だが、ゲームプランは守備から構築するタイプ』だと言える」

「なんだか少しむずかしい話になったな。もう少し具体的な話に戻してくれ」

「すまない、頭の中で浮かんだ言葉をそのまま文字起こししているので、話が抽象論に偏ってしまった」

「うるさい、早く先に進めるんだ」

「具体的な話に落とすと、相手に合わせてシステムを変えたり選手の起用を考える際に必ず守備が機能するかどうかを軸にしているな。試合後のコメントでも守備について言及されることが多い。例えば、相模原戦は前線からのプレッシングがきれいにハマったので主導権を握ることが出来た。逆に、鹿児島戦や北九州戦は守備が全くと言っていいほどハマらなかったので、自分たちで難しいゲームにしてしまったと思う」

「なるほどな。常に得点を奪うことから逆算しつつ、守備をどう機能させるかに軸足を置いているということか」

「その通り。守備はある程度自分たちでコントロールできるし、場面を切り出したトレーニングで鍛えることもできる。その一方で、攻撃は水物と言われるように、うまくいかない時は仕方ない。ここまで名波監督は守備面に手を入れているが、攻撃は個人のアイデアに任せていることが多いと思っている」

「話は戻るが、名波監督の考える軸とはつまりなんだ?」

いかに自分たちが前向きな状態でボールを奪い、相手の守備が整う前に攻め切れるか。これに尽きる。ボールを奪おうとする位置は、相模原戦のように敵陣深くに設定する場合もあるし、岐阜戦のように自陣に設定している場合もある。どちらにも共通しているのは、自分たちが前向きで守れているかどうか。前向きでボールを奪えれば、そのままの勢いでカウンターに移れるし、相手に後手を踏ませることができる。沼津戦の横山歩夢のゴールなんかは良い例だったな」

「なるほど、だいぶ分かってきた気もするし、分からない気もするな」

「どっちやねん」


松本対策をかいくぐれるか?

「シーズン序盤で見えてきた好材料はよく分かった。それとは反対に、課題があれば教えてくれ」

8試合を終えた時点で既に松本対策が講じられていることだろうな。鹿児島と北九州が代表例だが、どちらも大枠としてやっていることは同じだった。詳しくは北九州戦のマッチレビュー記事で書いているので、こちらを見てくれ」

「わざわざ長い記事を読むのはだるいぜ。ざっくりまとめてくれ」

「かいつまんで説明するぞ。2試合ともに共通しているのは、松本が3バックで臨んでいることだ。そして、3バックで臨んだ時のキーポイントになるのは『縦ズレ』だ。ウィングバックとセンターバックが、それぞれ縦にズレることで相手選手を捕まえる守備を指している」

鹿児島戦のマッチレビューより

「これが上手くいかなかったんだっけな」

「そうなんだ。どちらの試合もウィングバックの近くに相手選手を立たされて”ピン留め”されてしまい、縦ズレを機能不全にされてしまった。こうなると空いてくるのは、相手のサイドバックで、そこを起点にサンドバック状態にされている」

北九州戦のマッチレビューより

「現時点での対策はないのか?」

「正直、クリティカルな解決策は見つかっていない。どちらの試合も力技で解決しようとしたが上手くいかなかった。ウィングやサイドハーフに高い位置で大外に張らせていればOKなので、他のチームも模倣しやすく、今後も継続して狙われる可能性が高い。特に4バックを基本布陣としているチームならばやりやすいだろうな」

「早急に解決策を見出さないとだな、、、。他に見えてきている課題はあるか?」

「もうひとつ、大きな壁になりそうなのは夏の暑さだ。今季の松本の軸は『いかに自分たちが前向きで守備できるか』だと言ったが、気温の上昇がチームを狂わせるかもしれない。既に北九州戦や宮崎戦で垣間見えているが、守備がハマらず走らされる場面が増えてくると、60分くらいでガス欠してしまうのが実情だ。高温多湿な夏場に向けて、いかにエネルギーをコントロールしながら戦うすべを身につけるかは大事になりそうだな」

「いっそのこと振り切って、60分でガス欠する前提で飛ばすってのも一手に思えてくるな」

「そのとおりで、北九州戦なんかは典型だったと思う。前半からガンガンに飛ばして先行しつつ、後半は選手交代で強度を維持しながら逃げ切るという戦い方だ。まあ、北九州戦では先制点が取れなかったのでジリ貧になったわけだが」

「先制点を奪うことを前提におくゲームプランってことか。それはそれでチャレンジングな気もするな」

「先行しないと厳しいという観点からは、横山歩夢以外の得点源が欲しくなってくるな。世代別代表に呼ばれたらチームを離れる期間もあるし、今のコンディションを維持できるとも限らない。それこそ、FWのセカンドチョイスになっている小松蓮や目に見えた結果がほしい菊井悠介とかな。あとは榎本樹の状態が上がってきて、昨季終盤のようなパフォーマンスに戻ってくれれば一気にチームの攻撃力は数段アップする」

「榎本樹は負傷離脱していた期間もあったらしいから、その影響も大きいかもな」


まとめ

「なんだかんだ長くなっているじゃないか。もっと簡潔にまとめておかないと、シーズン折り返しの中間報告とシーズンクライマックスで書くであろう記事でネタ切れになるぞ」

「まあまあ先のことはその時考えるさ。それに、8試合終えた段階でこれだけネタが豊富なわけだし、若い選手が多いチームだから見違える姿になっている可能性も大いにある

「たしかに。先日の天皇杯ではアカデミー所属の田中想来がゴール決めたくらいだもんな」

「ここまで名前が出ていない選手でも、住田将・稲福卓・米原秀亮・村越凱光・山本龍平・吉田将也・濱名真央…と若くて生きのいい選手が多い。チームとしての伸びしろは十分で、昨季の榎本樹のように、きっかけひとつで化ける選手が出てきてもおかしくはない」

「若手がグイッと伸びる瞬間を目にすると一番興奮するよな。歴史の生き証人になったような」

「分かる。それを見逃さないためにも、毎試合ちゃんと追っていきたいな。若手の話ばかりしてしまったが、彼らが生き生きプレーできるのは、下川陽太・パウリーニョ・佐藤和弘・外山凌のような経験ある選手が締めるところを締めているからだ。これは忘れちゃいけない。特に佐藤和弘は4-4-2へのシステム変更でサイドハーフのポジションを任され、水を得た魚のように渋いプレーを連発している。要チェックだ」

「ふむ、間違いないな。これからも継続してチームを観察していってくれ」

「ではまた別の記事で会おう」



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