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【僕はアドリブが効かないタイプ】J3 第32節 松本山雅×カターレ富山 マッチレビュー

スタメン

信州ダービーを劇的ゴールで制して3連勝と波に乗っている松本。ただ、前節の勝利の代償として、佐藤和弘・菊井悠介という中盤で絶対的な存在だった2名を累積警告で欠くことになってしまった。
代わって安東輝と住田将がメンバー入り。住田将は出場自体7試合ぶり、スタメンとなると8月14日の鹿児島戦以来と久々の出番が巡ってきた。

対する富山はリーグ戦3連敗中。しかも3試合で9失点と守備が課題となってしまっている。監督交代に踏み切ったあとは3連勝もあったが、ここ数試合は調子を落としている格好だ。戦い方自体も、川西を中心としたボール保持から、FWタイプではない選手を2トップに配置してハイプレスを掛けることが多くなった。現に川西はベンチ外となっている。絶対に落とせない一戦でくみするには不気味な相手だ。


機能不全のプレッシング

立ち上がりこそ松本が押し込んでいた時間もあったが、富山が落ち着いてボール保持をするようになると、この試合における松本の不具合が明るみになっていく。

目立ったのは選手間でテンションに差があったこと。横山歩夢、下川陽太、外山凌といった面々は信州ダービーさながらにハイテンションで試合に入っていた。特に下川陽太はボール非保持では縦ズレして左サイドバック神山のところまでプレスに出ていく姿勢を見せた。
ところが、小松蓮、パウリーニョ、住田将、安東輝といった中盤中央の選手はかなり慎重な立ち上がり。前線からプレスに行くというよりは持ち場を離れてスペースを空けることを警戒しているように見えた。

温度感の差によってピッチ上で不具合が。相手のダブルボランチ佐々木と姫野が常に浮いた状態になっていた。チーム全体がミドルブロックを敷いて富山の攻撃を待ち構えるなら良かったのだが、一部の選手は前線からプレッシングに出ているので、中盤と前線で間延びしてしまっていたのだ。

横山歩夢や下川陽太が懸命にプレッシングをかけても、佐々木や姫野を経由してあっさりとプレス回避されてしまい、中央のスペースを悠々と持ち運ばれるシーンがしばしば。

本来どうしたかったのか?を考えてみる。ヒントにしたのは小松蓮の身振り手振り。小松蓮は前からガンガンプレスに行くのではなく、横山歩夢の背後でスペースを埋めるような動きを見せていた。ただ、ボランチを明確に監視するわけではなかったので、何が目的なんだろう?と不思議に思って観察していた。彼の動きを見ていると、佐々木と姫野二人を自分一人で観なければいけないので中途半端なプレーになっていたようだった。そして、何度もインサイドハーフに対して前に出てきてくれ!と要求していたのが印象的。

つまりは、本来やりたかったこととしては、相手のダブルボランチを小松蓮+ボールサイドのインサイドハーフ(富山が左に展開しようとするなら住田将)で監視するというもの。サイドバックにボールを逃したら下川陽太が縦ズレして寄せていき、サイドで相手のビルドアップを窒息させてしまおうという狙いだ。苦しくなった富山がロングボールを蹴ってきたとしても、松本のセンターバックであれば空中戦には分があるので問題なし。敵陣高い位置で引っ掛けられればショートカウンターから得点のチャンスも転がり込んでくるというものだ。

しかし、既に書いたようにこの日のインサイドハーフは慎重だった。いや、慎重過ぎたと言うべきだろう。失点したくないという気持ちが強すぎたのか、思い切りに欠けていた。

チーム全体が前がかりにプレスをかけようとしている中で、中盤が付いてこないとなると陣形が間延びして、奪えるべきところで奪えなくなる。前線は無駄走りになってしまうし、相手に前を向かれて自陣への侵入を許すので中盤より後ろも結果的に苦しい対応になる。

あ、でも断っておきたいのは住田将や安東輝が悪いということではない。根本の問題は、チーム全体で意思統一ができていなかったことである。正直この日の富山相手であれば、前線からプレッシングに行くもよし、ミドルブロックで構えるのもよしだったと思う。もはや決めの問題で、11人全員が同じ方向を向いてプレーできていれば守備が崩壊することもなかったように思う。

前提として、試合前のMTGで今日は前からアグレッシブに行こうと決めていたのであれば、決めたことを遂行できない選手がいるのは健全ではない。やると決めたならちゃんとやろうぜ、というシンプルな話。

その上で、サッカーは相手がいるスポーツなので、実際に試合が始まったら思ってたんと違う!という展開もある。今日もまさにそう。
で、問題だと思っているのは試合中に修正が必要そうな事態に遭遇したとき、各選手が持っている意見を集約して意思統一をする役割って誰だっけ?という話。ピッチ内で旗振り役になって、こうしよう!とチームをまとめる選手って誰なんだっけ。

別にキャプテンマークを巻いてる選手がやらなければいけないとか固定概念は持ってなくて、刻一刻と試合時間は進んでいて、修正しないと失点を重ねてしまう!という状況にあって誰が声を上げてもOKだと思う。プロ年数とかも関係ない。リーダーシップを発揮して引っ張っていく選手がいない、それゆえにベンチから指示があるまで修正ができず、取り返しのつかない致命傷を負ってしまう試合が多すぎやしないかと。

そんなことを思ったのでした。


固執しすぎた成功体験

翻って攻撃面に関しても思ってたんと違う現象が起こっていた。
安東輝の試合後のコメントを引用する。

でも小松選手はポストプレーが上手で起点を作れて、紅白戦でも小松の起点からサイドまで侵入して得点という形が作れていました。僕としてはその小松の良さを生かして、攻撃の時に相手が前から来たところを裏返せればと思っていました。でも結果的にそれがうまくいかなくて、後半のようにシンプルにやったほうがうまくいっていたので、反省しています。

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GKからロングフィードを蹴らずに丁寧にビルドアップを試みてみていたのが象徴的。自陣深くでボールを繋ぎ、富山を全体的に引き出してから中盤に生まれたスペースで小松蓮に起点になってもらいたかったのだろう。

ただ、結果的には小松蓮のポストプレーを軸にした戦い方に固執しすぎたことが裏目となる。監督が変わってからの富山は、前線から精力的にプレッシングに出ていくスタイル。この日も松本の最終ラインに容赦なく襲いかかってきた。

プレスに出てくること自体は直近数試合をスカウディングしていれば明らかなので分かっていただろうが、この試合ではシステムのかみ合わせも逆風となった。

実質4-2-3-1のような配置となる富山と、逆三角形の松本の中盤はガッチリ噛み合ってしまう。それ以外にもサイドハーフ+1トップで3バックを監視することは可能で、配置の問題でプレッシャーを受けやすかったと言えるだろう。

富山のプレスを正面から受けることになってしまい、松本のビルドアップではミスが多発。試合後のコメントで名波監督も近しいことを言っていたが、松本のスタイルはパスを何本も繋いでプレスをかいくぐっていくようなものではない。なのに、トレーニングの中でつかんだ成功体験にすがって、なんとか地上戦を挑もうとしていた松本の前半は少し柔軟性に欠けたように思う。

もうひとつ小松蓮のポストプレーが機能しなかった理由として、富山が小松蓮を無視し続けたことがある。
2トップの位置から中盤に降りてくる動きを頻繁に行っていたが、富山のセンターバックは釣られなかった。たしかに小松蓮はフリーになっていることもあったが、富山の守備に迷いやズレを生じさせるまでには至らず。純粋に前線の枚数が一枚減って富山の最終ラインが守りやすくなっただけという状態になってしまった。さながら、アルウィンでの富山戦のよう。あのときは川西の降りる動きを松本側が無視することで効果半減させていたけど、同じことをやり返されてしまった。

小松蓮がセンターバックを引き付けられなかったことで、横山歩夢が常に複数のマークを受けることになるという二次的な影響も。何度か彼にボールが入っても潰されてしまう場面が多かった。

試合後に各選手や監督が口々に言っていたが、小松蓮のポストプレーに拘る必要はなかった。もっとシンプルに横山歩夢の裏へのランニングを生かしてよかったと思う。富山が前線からハイプレスを掛けてくるということは、必然的に背後のスペースが空いているということ。今季の松本からしたら大好物なシチュエーションだったはずなのに。

ここでも守備のところで触れたように、思ってたんと違う!に対して修正できなかったない懸念点が露呈してしまった。

試合展開を見て、相手を見て、自分たちの振る舞いを変えることができる。そんなチームこそ”カメレオン”なんじゃないかと思ったりもするが、監督の指示待ち状態では理想からはほど遠い。試合中に変化することが必ずしも正解とは思わないし、変わることによるリスクがあることは理解するが、それでもチャレンジする姿勢は見てみたかったところ。このままじゃダメなのにな・・・と思ったまま、ズルズルと状況を悪化させていく姿はもう十分なのだよ。


反撃の狼煙も時すでに遅く

前半の出来栄えを見て、名波監督はハーフタイムに2枚交代。ルカオと田中パウロ淳一を投入し、あまりにも後ろ向きだったチームのベクトルを前に向けようとした。

この投入は当たりで、インサイドハーフに田中パウロ淳一が入ったことで中盤のバランスが丁度よいくらいに中和されたし、ルカオをシンプルに走らせて起点を作ろうという意図を明確にすることができた。

それだけに3失点目・4失点目は本当に余計だった。

3失点目はここから行くぞ!と仕切り直した直後でタイミングも最悪。4失点目に関しては奪われ方が軽率すぎた。
そしてどちらも富山の松岡の突破から切り崩されているのも気がかりなところ。おそらく左足でカットインされてシュートに持ち込まれるのを警戒していたのだと思うけど、今治戦でインディオにやられたのと同じ形なので正直よろしくはない。仮に縦に突破させてもOKという建付けにするのであれば、ニアサイドのケアが緩すぎる問題が浮上してくる。深くえぐられて折り返される形への対応ミスで失点を重ねているので、早急に対策しないと残り試合でも狙われることになりそうだ。

唯一の救いだったのは、0-4という絶望的なスコアになって心が折れなかったこと。そこから3点返してあと一歩というところまで詰め寄ったのは素晴らしいリバウンドメンタリティだった。

特筆する選手としては榎本樹かなと。彼のニアサイドに突っ込んでくる動き秀逸で、田中パウロ淳一と狙いが一致していたので1回くらい合ってもおかしくなかった。1点目のオウンゴールも榎本樹がニアで競ったことで誘発したようなものだし。ペナルティエリア内で点が取れるポイントを嗅ぎ分ける能力はストライカーとして彼が持つ資質だし、もっともっと伸ばしてほしい部分。横山歩夢がもうFWとしてステージを上げるためには、榎本樹のボックス内での動きは学べるものが多いのではないかと思っている。

3点を返したものの、今季最多4失点が響き、痛すぎる敗戦となった。


総括

結果的に3-4と撃ち合いになったが、内容的には完敗だったと言える。しかも自分たちで試合を難しくしてしまった感が強い。

やるべきことをやれていない点もそうだし、プランAが崩れた際に思考停止になってしまう点もそう。最終盤に入って名波監督の選手交代を始めとした采配が冴えてきているだけに、今日の修正が効かない様子は余計に悪目立ちしてしまった気がしている。

そうは言っても、残り2週間で各選手に相手を見て試合の流れを読めるようになれ!自分で考えてプレーできるようになれ!と要求することはできても現実的ではない。
実際の着地点としては、「プランAがハマらなかったらハーフタイムに修正するから、それまでは何が何でも無失点で耐えること」かなと。この試合のように前半で2点ビハインドを背負ってしまうと、ゲームプランを修正したところで負債を返しきれないことが多い。

先制したら強いチームであるので、前半からリードできる展開が最高なのだが、なかなかそう簡単にはいかなかったりもする。試合前に描いた脚本とは少し違ったとしてもアドリブが効くような戦い方を残り2試合で見たいものである。


俺達は常に挑戦者


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