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#053 プロマネのお仕事(本編3) - ステークホルダー・マネジメント(偉い人の本音を聞き出そう)

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こんにちは。中小企業診断士の多田と申します。

本編3回目は、人に関するマネジメントの最後の1つ、「ステークホルダー・マネジメント」について。

# 051: 資源マネジメント
# 052: コミュニケーション・マネジメント
# 053: ステークホルダー・マネジメント ← 今回
# 054: リスク・マネジメント
# 055: スケジュール・マネジメント
# 056: コスト・マネジメント
# 057: 品質マネジメント
# 058: 調達マネジメント
# 059: 統合マネジメント
# 060: スコープ・マネジメント

大規模なITシステム開発のようなプロジェクトの場合、システムを納入する顧客企業の人間関係を把握することがこの知識エリアの主な目的になりますが、小規模な社内プロジェクトの場合、社内の影響力の強い人(偉い人)を味方につけることがこの活動の主な目的になります。

「ステークホルダー・マネジメント」とは

今回扱うのは、表の一番下の「ステークホルダー・マネジメント」。

PMBOK_ステークホルダーマネジメント

PMBOKでの定義は以下のとおりです。
「プロジェクトに影響を与えたりプロジェクトによって影響を受けたりする可能性がある個人やグループまたは組織を特定し、ステークホルダーの期待とプロジェクトへの影響力を分析し、ステークホルダーがプロジェクトの意志決定や実行に効果的に関与できるような適切なマネジメント戦略を策定するために必要なプロセスからなる。」
(PMBOK 第6版 p.24)

ちょっと長くてわかりにくいかもしれませんので、以下、この知識エリアのプロセスを1つづつ順番に見ていこうと思います。

PMBOK に書かれているプロセス

この知識エリアのプロセス(やること)は4つ。

1. 「ステークホルダーの特定」
→ プロジェクトに影響を与えるステークホルダー(プロジェクトに影響を与える関係者)をリストアップし、リストアップした方々の関心事やプロジェクトへの関与の度合い、人間関係、影響の大きさ、等について調査します。
→ アウトプット文書: ステークホルダー登録簿

2. 「ステークホルダー・エンゲージメントの計画」
→ ステークホルダーに効果的にプロジェクトに関わってもらうための作戦を考えます。

3. 「ステークホルダー・エンゲージメントのマネジメント」
→ 上で考えた作戦を実行します。

4. 「ステークホルダー・エンゲージメントの監視」
→ 作戦がうまくいっているかをチェックし、まずいようであれば調査・作戦立案をやり直します。

「エンゲージメント」とは

上ででてきた「エンゲージメント」という言葉、普段余り使わないような気がしますので、ちょっと補足しておきます。
エンゲージメントとは、日本語だと「自発的な貢献意欲」、つまりどれくらいそのプロジェクトに愛情をもって協力してくれるかを表現した言葉です。
婚約の際に取り交わす「エンゲージリング」も語源は同じではないかと。

この「貢献意欲」をどうやって強めていくか、また、逆のパターンとして、ネガティブな「非貢献意欲」をどうやって減らしていくか、がポイントになってきます。

「ステークホルダーの特定」 → 偉い人の一覧表を作ってみよう!

では、以下、小〜中規模のプロジェクトで取り組むと役に立つノウハウをまとめていきましょう。

例によって、「中小企業が自社のWebサイトを作る」というプロジェクトを例に、そのプロジェクトの人間関係をみていきたいと思います。
まずはステークホルダーの洗い出しから。

PMBOKでは、「ステークホルダーの特定」プロセスで、「ステークホルダー登録簿」という文書を作ることを勧めています。
「ステークホルダー登録簿」とは、プロジェクトに影響を与えそうな関係者をリストアップして、それぞれのプロジェクトに対する想いや関係性をまとめた表のことです。

以下、家族経営の中小企業でありそうな「ステークホルダー登録書」の例を考えてみました。
専務は社長の奥さん、常務は社長の息子さん(次期社長)。営業部長は社長とは古くからの付き合いで、これまでこの営業部長さんが会社の営業を1人で担当してきた、という設定です。

ステークホルダー登録簿

「ステークホルダーの特定」 → 偉い人から話を聞いてみよう!

上の図で重要なのは、「プロジェクトに対する姿勢」「補足事項」のところ。
プロマネは、これらステークホルダーの方々と直接会話したり、ステークホルダーの周辺の人たちに「そういえばさぁ、社長ってこのプロジェクトのことどう思ってるのかねぇ」などとそれとなく話をしたりして、本音のところを聞き出していきます。
本音を聞き出すのはなかなか難しのですが、それでも粘りづよく聞いてみると、例えば
「自分はこのプロジェクトを成功させて周りから認められたい」
とか、
「会社紹介のWebページなんかはさっさと終わらせて、このプロジェクトを足がかりにネット販売始めたい」
とか、プロジェクト本来の目的以外に様々な想いを持っていらっしゃることがよくあります。

特に重要なのがプロジェクトにネガティブな印象を持っている人の話を傾聴すること。
「あいつがリーダーなのは気に入らない」とか、「営業は足で稼ぐもので、インターネットなんかけしからん」などといった感情をそのままにしておくと、後々プロジェクトの足を引っ張ることになりかねません。

「ステークホルダー・エンゲージメントのマネジメント」 → ネガティブな人に対応しよう!

さて、ステークホルダーの特定ができたら、それぞれの想いに働きかけることで、プロジェクトが上手く進むようにコントロールしていきます。
(エンゲージメントをマネジメントする、などと言います。)

経験上、ポジティブな人は後回しでもよいので、まずはネガティブな人をどうしたら良いかを優先的に考える方がいいのではないかと思います。

ネガティブな人への対応としては、大きく以下の2つのやり方があります。

1. その人のプロジェクトへの関与を下げる。
→ 比較的効果の高いやり方です。その人をプロジェクトから遠ざけたり、プロジェクトのネガティブな要素を減らしたりします。
→ 今回の例だと、営業部長さんをプロジェクトに参加させないのが最も簡単な方法です。
→ また、ネガティブ要素を減らすアプローチとしては、例えば、これまで営業部長さんがやってこられた足で稼ぐ営業を尊重し、Webサイトの構築と足で稼ぐ営業活動は相反するものではないということをきちんと伝えてあげることで、営業部長さんの不安を減らしてあげることができるように思います。

2. その人に対して、別の目標設定をしてあげることでポジティブな関与を強める。
→ ちょっと難しくなりますが、ネガティブな人に対して、ポジティブになれるような別の目標設定を与えてあげられると良いと思います。
→ 例えば、今回のWebサイトの構築をきっかけに、ネット販売による新しい販路立ち上げという新しいミッションを作り、その責任者を営業部長さんにする、というようなやり方です。このプロジェクトの成功と自分自身の個人的な目標とがリンクすると、プロジェクトに前向きに関与してくれるようになります。

「ステークホルダー・エンゲージメントのマネジメント」 → ポジティブな人をもっとやる気にさせよう!

次に、プロジェクトに対してもともとポジティブな感情をもっている人に対して、さらにやる気が高まるような心配りができないか考えていきましょう。

例えば今回のプロジェクトでは、プロジェクトリーダーである社長の息子さんは、プロジェクトの成功を通じて社長である父親にもっと認められたい、という想いがあるようです。
その気持ちを知っているプロマネとしては、例えば、プロジェクトの社長報告の機会をこれまでの月に1回から週に1回に増やすよう進言したり、社長に対して「このプロジェクトに関しては、息子さんのことをもうちょっと褒めてあげて下さい」と裏でお願いしておくなどの作戦を立てることができると思います。

ステークホルダー・マネジメントは、こうした小さな心配りの積み重ねのように思います。

まとめ。

(1) 「ステークホルダー・マネジメント」とは、プロジェクトに大きな影響を与える関係者をリストアップし、そうした方々のプロジェクトに対する前向きな気持ち(エンゲージメント)を育てていく活動のことです。

(2) 各ステークホルダーの方々は、プロジェクト本来の目的とは別に、そのプロジェクトに対するそれぞれの想いを持っていることが多いです。そうした想いには、ポジティブな感情もあればネガティブな感情もあります。それぞれの感情に働きかけることで、ネガティブな想いを消し、ポジティブな想いを強めていくことが大切です。

(3) 働きかけに際しては、各ステークホルダーの方の本音を引き出し、小さな心配りを積み重ねていくことが必要です。ステークホルダー間の人間関係も上手に利用して、プロジェクトへのポジティブな関与を引き出していきましょう。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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