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#052 プロマネのお仕事(本編2) - コミュニケーション・マネジメント(チャットツールを導入しよう)

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こんにちは。中小企業診断士の多田と申します。

本編2回目は「コミュニケーション・マネジメント」について。

# 051: 資源マネジメント
# 052: コミュニケーション・マネジメント ← 今回
# 053: ステークホルダー・マネジメント
# 054: リスク・マネジメント
# 055: スケジュール・マネジメント
# 056: コスト・マネジメント
# 057: 品質マネジメント
# 058: 調達マネジメント
# 059: 統合マネジメント
# 060: スコープ・マネジメント

コミュニケーションマネジメントにおいて大切なことは、「言った」と「伝わった」の違いをきちんと認識しておくことです。
プロマネがこの違いを認識できていないと、プロジェクト全体の雰囲気がだんだん悪くなっていきます。

「コミュニケーション・マネジメント」とは

今回扱うのは、表の上から7番目の「コミュニケーション・マネジメント」

PMBOK_コミュニケーションマネジメント

PMBOKでは、
「プロジェクト情報の計画、収集、作成、配布、保管、検索、マネジメント、コントロール、監視、そして最終的な廃棄を適時かつ適切な形で確実に行うために必要なプロセスからなる。」
と定義されています。(PMBOK 第6版 p.24)

…わかりにくいですね。

簡単に言うと、
「プロジェクトに関係する人たちの間で適切なコミュニケーションができるようにする」
こと。

(ここで、「プロジェクトに関係する人たち」には、プロジェクト内部のメンバーだけではなく、プロジェクト外部の関係者も含まれますが、今回は「プロジェクト内部のメンバー間でのコミュニケーション」に絞って解説したいと思います。)

PMBOK に書かれているプロセス

まずは、PMBOK に書かれているプロセス(やること)の内容を整理しておきましょう。
「コミュニケーション・マネジメント」の知識エリアでは、以下の3つを行うのが良いとされています。

(例によって、この章では教科書通りのことしか書かないので、読むのがめんどくさかったら次の章まで読み飛ばしていただいてOKです。)

1. 「コミュニケーション・マネジメントの計画」
→ コミュニケーションニーズ(どういう情報を、どれくらいの頻度でやりとりするか)を明確にした上で、具体的な会議の進め方や、使用するツールなどを決めます。
→ アウトプット文書: コミュニケーションマネジメント計画書

2. 「コミュニケーションのマネジメント」
→ 実際に会議を開催したり、メールや社内 Web サイト、チャットツールなどを使ったコミュニケーションを行います。
→ アウトプット文書: プロジェクト伝達事項

3. 「コミュニケーションの監視」
→ コミュニケーションが適切に行われているかを監視し、改善すべき点を改善していきます。
→ アウトプット文書: 作業パフォーマンス情報

では、以下、これだけはやっておいた方が良いと思うお仕事についてまとめます。

この知識エリアでは、会議のやり方を改善したり、使用するツールを適切に選んだりすることで、劇的にプロジェクトのパフォーマンスを上げることができます。
プロマネとしては取り組みがいのある分野だと思います。

「コミュニケーション・マネジメントの計画」 → チャットツールを導入しよう!

普段のメンバー間の連絡に電子メールを使用している職場は多いと思いますが、最近はメールに変わって Slack や Teams のような「チャットツール」を導入する会社が増えてきました。
今回のタイトルにも入れておきましたが、このチャットツール、コミュニケーションの量と質をかなり向上させてくれる、素晴らしいツールだと感じています。
もしまだ使っていないようでしたら、ぜひ導入を検討すると良いと思います。

代表的なチャットツールとしては以下があります。
それぞれの詳細な使い方についてはここでは触れませんが、どれも有名なツールなので、ネットで検索すれば使い方を説明したWebサイトがたくさん見つかるかと思います。

1. Slack
  https://slack.com/intl/ja-jp/

世界中で使われているチャットツール。迷ったらこれで。

2. Microsoft Teams
  https://products.office.com/ja-jp/microsoft-teams/group-chat-software

マイクロソフトさんが提供しているチャットツール。Slack より後発ですが、マイクロソフトさんらしく Slack の良いところを取り入れてどんどん進化しており、最近では Slack と同等の使い勝手になってきました。
既に会社で Office365 を使っている場合は、そのアカウントがそのまま使えるので導入の手間がかからないと思います。

3. Line
上の2つとは毛色が違うので同じ並びにおくのは適切ではないかもしれませんが、上2つのチャットツールが難しくて使いにくい場合には候補に入れて良いと思います。

チャットツールがメールよりも優れているところ

以下、チャットツールがメールよりも優れていると思うポイント。

・全員に情報を届けることができる。
→ メールだと特定のメンバーのみにしか情報が行かないことがあり、コミュニケーションのヌケ・モレが発生しますが、チャットツールであれば全員に情報が届きます。
→ 「メンション」という機能を使えば、全員に情報を届けつつ、特定の人へ指示することも可能です。

・途中から参加したメンバーとの情報共有が可能。
→ メールだと自分がそのプロジェクトに参加する以前の情報を得ることができず、引継ぎなどに余計な手間がかかります。

・チャンネルを分けることであとで情報を探しやすくすることができる。
→ 例えば、前回から例に出てくる「Webサイト構築プロジェクト」の場合、「サーバー構築」「Blogネタ」「会議議事録」などのようなチャンネルを作っておくことで、それぞれの情報をわけることができます。メールだと自分でフォルダ分けたりしないといけませんよね。
→ あと、おすすめするのは、「雑談」チャンネルを作っておくこと。Slackにはデフォルトで「random」という雑談用のチャネルが用意されています。ここで、業務とは関係ない、各自の趣味の話などを書き込むことで、コミュニケーションのハードルを下げることができ、チームが元気になります。

ITの仕組みが導入されていない職場ではホワイトボードを活用しよう

そもそも社員のコミュニケーションに PC 等の IT 機材を使っていない職場もありかと思います(中小製造業には多いと思います)。
そのような職場では、チャットツールに変わるものとして、ホワイトボードなどを使った掲示板を用意するのも良いと思います。
休憩所や食堂などのメンバーが集まる場所にホワイトボードを置いておき、誰でも自由に書き込みできるようにしておくと、コミュニケーションの改善に役立ちます。

「コミュニケーション・マネジメントの計画」 → プロマネ自ら、くだらないことを発信してみよう!

さて、上記のようなチャットツールを導入しても、メンバーが誰も情報を発信しないようでは意味がありません。
心理的安全性を下げて、どんな内容でも投稿して良いんだという安心感を与えるために、プロマネ自らがくだらないことを発信するように心掛けると良いと思います。
上記の「雑談」チャネルに、「お昼ごはんで食べたあそこのラーメン屋さんは美味しかった」とか、「先週末は息子の幼稚園の運動会でした」など書き込んであげると、メンバーも気軽にコミュニケーション取ってくれるようになると思います。

「コミュニケーションのマネジメント」 → 定例会をやめてみよう!

チャットツールが定着してきたら、思い切って定例会をやめることを検討してみましょう。
メンバー全員が集まって行う定例会ですが、マンネリ化するとその定例会自体がチームの士気を下げてしまう状況になってしまうことがあります。
特に、
・しゃべっているのはリーダーのみで、ほとんどの参加者は聞いているだけ
・一部の参加者にしか関係のない議論を延々と続けている
・会議開始の時間になってもなかなか全員が揃わない

などの定例会が常態化してしまうと、とても危険です。

プロジェクトは、WBS (次回以降説明します)がきちんと定義されていれば、進捗確認にかける時間というのは最小限で済みます。
進捗確認の結果、遅れやトラブルがでている仕事だけにフォーカスして、その仕事に必要な関係者だけを集めた打合せを都度招集するようにした方がプロジェクトは上手く回っていきます。

「コミュニケーションのマネジメント」 → 会議の議事録はフォーマットを決めてきっちりとろう!

定例会をやめたとしても、上手く進んでいない業務の対応を検討する場合など、個別の会議はどうしても必要です。
そうした会議を行う際には、きちんと議事録を作成し、コミュニケーションにモレがないようにするのが良いと思います。
具体的には、以下のような議事録のフォーマットを先に決めておき、この議事録の内容を埋めるように会議を進行することをお勧めします。
特に、「1. 議題」と 「2. 目的」は、会議開始前にリーダーやプロマネが決めておくと会議がスムーズに進むでしょう。

(会議議事録のサンプル)

1. 議題
(今回の会議の議題を書く)
2. 目的
(今回の会議のアウトプットは何かを書く)
3. 日時・場所
(会議の日時と場所)
4. 参加者
(会議の参加者)
5. 結論
(結局どうなったのか1行〜3行くらいの箇条書きで書く)
6. アクションプラン
(誰が何をやるのかを書く)
7. 次回
(必要に応じて、次の会議の計画を書く)
8. 配付資料
(会議の際に配られた資料があれば、後で参照できるようにここにメモしておく)
9. 議事詳細
(いわゆる会議の議事録。誰が何を言ったかメモしておく)

議事録担当の決め方には色々なやり方がありますが、例えば「メンバーの中で一番経験が浅い人」にすると、その人の成長も期待できるし、全員が理解できる、わかりやすい議事録になることが多いです。
また、別のやり方として、「一番最後に会議室に来た人が書く」というようなゲームっぽいルールにすると、みんな早く集合するようになったりします。
このあたりは、プロジェクトの雰囲気も見ながら進め方を決めていきましょう。

補足: 国をまたいだプロジェクトについて

最後に補足を1つ。

最近増えてきたのが、国をまたいだプロジェクトです。
大きな会社においては、一つのプロジェクトに複数の国のメンバーが参加することは珍しくないでしょうし、中小製造業においても中国・台湾の工場やODM先と協業するようなことは今では普通に行われています。
そうした、海外のメンバーが同じプロジェクトにいるときには、特殊なノウハウが必要になることがあります。例えば以下。

・遠隔会議のシステムにはしっかりお金をかける。
→ 海外のメンバーとのコミュニケーションは遠隔会議が中心になると思いますが、この遠隔会議のクオリティを確保できるかどうかでコミュニケーションの質が大きく左右されます。特に中国は遠隔会議のシステムによってはつながらないことも多いので、常に新しいツールを試してその時点で最も良いものを使うようにしましょう。(最近だと Zoom の評判が良いみたいです。)
→ また、遠隔会議に使用するマイク・スピーカーシステムにもしっかりお金をかけてあげると、しゃべりやすく聞き取りやすい遠隔会議を行うことができます。
遠隔会議のシステムに関しては、値段の高さとクオリティは比例すると思います。ここでお金をケチらない方が良いです。

・適切なタイミングで F2F(Face to Face、直接会うこと)の打合せを入れる。
→ 遠隔会議だけだとどうしても気持ちが伝わりきらない場面もあります。プロジェクトのポイントになりそうなタイミング(キックオフや大きなマイルストーンの前など)では、できるだけ海外出張するなどして F2F で打ち合わせするように心掛けましょう。
→ 飲み会など、アルコールの入ったコミュニケーションも積極的に企画しましょう。

・各国の人たちの国民性や価値観を理解する。
→ その国の文化を理解する上で、「ハイコンテキスト」「ローコンテキスト」という言い方をすることがあります。「ハイコンテキスト」とは、前後の文脈を理解して、直接的な表現を避ける文化のこと。日本人が代表です。「ローコンテキスト」はその逆で、一つ一つのことをきちんと言語化してコミュニケーションする文化のこと。
→ こうした文化の違いを意識することで、「言ったつもり」なのに「伝わっていない」という状況を減らすことができると思います。
→ また、こうしたコミュニケーションミスを防ぐ為の異文化を理解するためのセミナーなどもよく開催されていたりしますので、受講してみるのも良いでしょう。

まとめ。

(1) 「コミュニケーション・マネジメント」とは、プロジェクトに関係する人たちの間で適切なコミュニケーションができるようにする活動のことです。

(2) 施策としては、チャットツールの導入、目的を定めた議事録ベースの会議運営、等があります。こうしたコミュニケーションの改善に関する施策は効果が出やすいので、ぜひ試していただきたいです。

(3) 近年、同じプロジェクトに様々な国の方が参加するケースが増えてきました。それぞれの国の文化を知り、尊重することが重要です。また、遠隔会議システムにはきちんとお金をかけた方が良いと思います。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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