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#058 プロマネのお仕事(本編8) - 調達マネジメント(社外の技術を戦略的に取り入れよう)

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こんにちは。中小企業診断士の多田と申します。

そろそろこの連載も終盤戦。
本編8回目は調達マネジメントです。

# 051: 資源マネジメント
# 052: コミュニケーション・マネジメント
# 053: ステークホルダー・マネジメント
# 054: リスク・マネジメント
# 055: スケジュール・マネジメント
# 056: コスト・マネジメント
# 057: 品質マネジメント
# 058: 調達マネジメント ← 今回
# 059: 統合マネジメント
# 060: スコープ・マネジメント

調達、というと、材料や部品を買ってくることがまず頭に浮かびがちですが、最近特に注目されているのが、業務の一部をアウトソーシングする場合の管理について。
例えば、ソフトウェアの開発やWebサイトの構築などを外部の専門業者に頼むような業務も、この調達マネジメントのスコープに入ります。

最近は、設計から製造まで製品開発のほとんどを中国などの海外の会社に頼むことも増えており、こうした外の会社をきちんとマネジメントできるかどうかがビジネス成功の鍵になることも多くなってきています。

「調達マネジメント」とは

PMBOKの10の知識エリアの中では上から9番目。

PMBOK_調達マネジメント

PMBOKでの定義は以下のとおりです。
「必要なプロダクト、サービス、あるいは所産を、プロジェクト・チームの外部から購入または取得するために必要なプロセスからなる。」
(PMBOK 第6版 p.24)

確かに、モノだけでなく、サービスなどの見えないものを外部調達する場合にも、いろいろと気をつけないといけないことがありそうです。

PMBOKに書かれているプロセス

「調達マネジメント」に書かれているプロセスは「計画」「実行」「チェックとフィードバック」の3つ。

1. 「調達マネジメントの計画」
→ そもそも、その要素を外部から調達するかどうかを決めます。この作業を「内外製分析」などと呼んだりします。
→ いつ、何を、どのように調達するかを決めます。そのために、入札文書や発注先選定基準を作成し、納入候補を特定します(この段階ではまだ最終的な相手の選定や契約は行いません)。
→ アウトプット文書: 調達マネジメント計画書、入札文書、発注先選定基準

2. 「調達の実行」
→ 実際に納入者を選定し、契約を締結します。

3. 「調達のコントロール」
→ 契約通りに責任が果たされているかをチェックし、必要があれば適切な対応を行います。
→ 最終的に納品物に問題が無ければ、契約を終結します。

では、以下、経験上特に注力すべき点についてまとめてみたいと思います。
調達マネジメントにおいては、普段から外の新しい情報を積極的に取り入れているかどうか、がポイントだと思います。

「調達マネジメントの計画」 → 常に外注候補のリストをアップデートしよう!

調達の基本は、結局のところ「良い取引先を見つけられるかどうか」
多少の無理を聞いてくれる部品のサプライヤー、バグのないソフトウェアを決められた工数できっちり仕上げてくれるソフト外注、デザインセンスに優れたWebデザイナー、等々、普段からこうした取引先とお付き合いすることができていれば、それだけで自社の大きな強みになります。

こうした外注先は黙っていても向こうから営業に来てくれるような事はありません。自分から探しに行く必要があります。

例えば、Web で希望の業種を検索すれば、幕張メッセやビッグサイトなどで開催される「展示会」の情報が見つかると思います。
すぐには外部委託の予定がなくても、こうした展示会に定期的に足を運び、良さそうな業者さんのリストを常にアップデートしておくと良いと思います。

その他、「同業者からの口コミ」も有効です。同業の経営者の会合などにまめに顔を出しで情報を入手するのも良いと思います。

また、最近では、特にWebサイト構築などの分野においては、「クラウドソーシング」でかなりクオリティの高いフリーランスの方と契約することが可能になっています。最初は小さな仕事から頼んでみて、自社に合う方が見つかったら継続してその方にお願いする、といったことも一般的に行われるようになってきました。

「調達マネジメントの計画」 → 常に外注の評価基準をアップデートしよう!

PMBOKでは、計画プロセスの中で「発注先選定基準」という文書を作成することが推奨されています。
これは、何かを発注する際、どの外部業者を選定するかの基準となっている文書であり、例えば、

・企業の財務体質(契約途中で潰れないか)
・その企業の過去の実績
・ISO等の認証取得状況、業務プロセスの標準化レベル
・その工場の監査結果(きちんと整理整頓されているか、検査工程はきちんとしているか、等)
・この特集で書いているようなプロジェクトマネジメントの理解度

などの項目を、独自の視点でまとめた資料のことです。
実際に業者選定を行う場合には、こうしたチェックリストに重み付けをして、総得点が一番高かった業者に発注する、といった使い方をします。

…なのですが、

あまり外部調達したことの無い会社でこうした資料をきちんと作成するのは大変ですし、過去の積み上げがなければ、精度の高い、役に立つ選定基準を作るのはなかなか難しいと思います。
まず、とっかかりとして、何か1つの契約が終了した際、その業者の良かったところと悪かったところそれぞれ3つくらいを、簡単にメモに残しておくことをお勧めします。
こうした些細な情報であっても、だんだん積み上がっていくとあとから貴重な資料になります。

「調達マネジメントの計画」 → 海外からの調達に関しては、専門家の協力を依頼しよう!

最近特に難しいのが、国をまたいだ調達です。
例えば、海外に販路を広げたいので現地の営業スタッフを雇いたい、とか、新しい製品を中国で生産したいので、現地でODMやってくれる会社と契約したい、などといった場合です。

現実には、こうした取り組みをまったく経験のない状態で自分たちだけで行うのは不可能に近いと思います。
特に、海外ではビジネスのルールや仕事に対する考え方が異なることも多く、明文化されていないノウハウがたくさんあったりします。

こうした海外展開に関しては、例えば中小企業庁やJETRO等が海外展開の為の情報提供や支援活動を行っていますので、上手に活用するのが良いと思います。
以下、参考になる Web ページへのリンクを貼っておきます。

中小企業庁:経営サポート「海外展開支援」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kokusai/index.html
中小企業海外展開現地支援プラットフォーム:現地日系企業の皆様をサポート(無料) | ジェトロのサービス - ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/services/platform/

「調達マネジメントの計画」 → 社外の技術を戦略的に社内に取り込もう!

最後に、冒頭にも挙げた「内外製分析」のお話です。

調達を外部から行うことは、効率的な経営のためには非常に有効ですが、一方で、戦略的に自社でできることを増やしていくことも重要だと思います。

例えば、これまでは外部に委託していた Web サイト構築が自社内の人材でできるようになれば、社内からの変更要求に対してこれまでよりも迅速に対応できるようになるでしょう。さらには、その社員の技術レベルが上がれば、その社員から、新しいコンテンツや新機能の提案が出てくるかもしれません。

また、何かを調達する際には、基本的に発注側にもそれ相応の知識と経験が求められます
例えば、ソフトウェア開発を外部に委託する場合、発注側がソフトウェアのことをわかっていないと、委託先が作った見積りが正しいのかどうか判断することができません。原料に関する知識に乏しければ、品質の低い原料をだまって納品されても気がつかないかもしれません。
自社でできないからとりあえず外に投げよう、という安易な考え方だと、最終的にうまくいかないことが多いように思います。

外部調達を行う場合には、その契約をいつまで続けるのか、外部の知見を社内に取り込んで、いずれは内製化することができないか、その場合のコスト変動はどうなのか、を戦略的に考えて進めるのが良いと思います。

まとめ。

(1) 「調達マネジメント」とは、自社のビジネスに必要なモノやサービスを外部から調達するための一連の取り組みのことです。それは本当に外部から調達する必要があるのかという内外製分析から始まり、調達先の選定、契約、チェック、契約の終結、の一連の作業を行っていきます。

(2) 調達マネジメントにおいては、何はともあれ、良い調達先を見つけられるかどうかが極めて重要です。そのためには、外部の情報を広く定期的に入手すること、調達先の評価を定期的に行うこと、が重要です。

(3) 「自社に無いから」という理由で、単純に業務を外に投げるのは危険です。戦略的に内外製分析を行い、将来的には必要なリソースを自社内に用意することも検討していくのが良いと思います。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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