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#005 「まんぷく」に学ぶ、新市場開拓に必要なリーダーシップ

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こんにちは。中小企業診断士見習いの多田と申します。

先週で終了した NHK の朝ドラ「まんぷく」がとても良かったです。
特に松坂慶子さんと要潤さんの演技が大好きで、毎回笑わせて頂きました。

連続テレビ小説「まんぷく」|NHKオンライン https://www.nhk.or.jp/mampuku/

さて、このドラマなんですが、私の界隈で新規事業の立ち上げに関わった経験のある方々に特に評判が良かったです。
特に最終週の第147話は、発売直後の「まんぷくヌードル」がなかなか売れず、みんなで販路探しに奔走するという内容で、新規事業の立ち上げに必要なエッセンスがぎっしり詰まった内容になっていました。
(147話のあらすじはこちら→ <https://realsound.jp/movie/2019/03/post-337407.html>)

今回は、あの 15 分のシーンに凝縮された新規事業立ち上げのポイントをまとめてみたいと思います。

当初は売れなかったカップヌードル

この NHK の朝ドラ「まんぷく」は、チキンラーメンやカップヌードルを開発した日清食品の創業者、安藤百福さんの生涯を描いたドラマでした。
(ドラマでは、旦那様を支えた奥様のほうによりスポットライトが当たったストーリーになっていました。)
ドラマ全体通して史実を忠実に再現しているところが多いようで、
上記のまんぷくヌードルの販路を探して奔走する場面についても、現実もほぼ同じような状況だったようです。

以下、Wikipedia からの引用。

https://ja.wikipedia.org/wiki/カップヌードル
当初、問屋を通した正規ルートで希望小売価格100円での展開を目指していたが、当時約25〜35円だった袋入りインスタントラーメンの3〜4倍程度の設定であったため、関係者の反応は悪く、注文の入らない日々が続いた[26]。

ドラマでは、社長の萬平さん、専務の真一さん、営業部長の岡さんと製造部長の森本さん、開発部長の神部さんとその部下で社長の長男の源くん、商社社長の世良さん、がバトルを繰り広げながら販売拡大の策を練る様子がとても興味深かったです。

たった 15 分の中に、以下の3つの「機能別戦略」と、それらのベースとなる「経営戦略」「リーダーシップ」が見事に描かれていました。

機能別戦略その1: 販売戦略

まんぷくヌードルが売れない大きな理由は、袋麺(まんぷくラーメン)が30円程度だった時代に100円という高い値段をつけたことが大きな原因でした。売上げ実績は当初予算の1/3以下だったようです。

営業部長の岡さんは、商品が市場に行き渡る最初の間だけでも価格を下げて売らせて欲しい(市場浸透価格戦略)と社長に直訴します。
しかし、社長の萬平さんは断固としてその要求を聞き入れません。
『まんぷくヌードルは画期的な商品なんだ。安売りすることは絶対にしない。スーパーでは高くて売れないのなら、別の販路を開拓しよう。』
この社長の指示を受けて、社内では新規販路を開拓する為のプロジェクトチームを作ることになります。

機能別戦略その2: マーケティング戦略

新規販路開拓プロジェクトチームは、まず、まんぷくヌードルの特性(USP: Unique Selling Proposition)である「お湯をかけて3分待つだけで手軽に食べられる」という特長を活かすことのできる販路の検討を開始します。
そこで出てきたアイデアは、深夜のタクシー運転手や警備会社など、簡単に食事を取るのが難しい職種の会社に集中して営業をかける、というものでした。

ここで、商社の社長である世良さんからは、そんな狭い市場では目標としている売上にはまったく到達できないから考え直すべきだ、という反対意見が出るのですが、社長の萬平さんはここでも断固として意見を譲らず、
『本当にまんぷくヌードルを必要としている人、価値を理解してくれる人に届けることが重要なんだ。是非やろう。』
ということでこのプロジェクトを実際にスタートさせます。

この、「規模は小さいけれど、その市場では圧倒的なシェアを期待できる市場」のことを、新規事業における「橋頭堡(きょうとうほ)」と呼びます。
まず特定の分野で市場を支配し、徐々にその周辺の市場に影響力を広げていくというのは、新規事業立ち上げの鉄板パターンだったりします。

機能別戦略その3: 組織戦略

さて、橋頭堡を確保すべく飛び込み営業に奔走することになったプロジェクトチームですが、深夜に仕事をしている顧客がターゲットになるため、営業活動も必然的に夜中に行うことになってしまいます。
営業リソースが十分ではないまんぷく食品では、営業だけでなく、企画や開発のメンバーも深夜のタクシー会社を訪問することになりました。

当然、そのような業務は自分の担当外だと思っていた企画や開発のメンバーからは不満の声も出ましたが、ここで、開発部長の神部さんの
『俺は社長の言うことには納得していないが、社長の言うことを信じることにした。』(情緒的コミットメント・規範的コミットメント)
という想いで、開発部メンバーも飛び込み営業に参加(職務拡大)することになります。
結果、飛び込みで訪れたタクシー会社で、まんぷくヌードルの便利さを気に入ってくれた顧客から多量の受注を取りつけることに成功します。
美味しそうにまんぷくヌードルを食べるタクシー運転手さんの姿を見た開発メンバーは、改めて自分たちの開発した商品の素晴らしさを実感することができ、その後の営業活動へのモチベーションを大きく高めることになります。

それぞれの戦略の一貫性と強いリーダーシップ

以上、3つの切り口で萬平さんの施策を見てきましたが、興味深いのは、それぞれの戦略に確固とした一貫性があり、ストーリーとして繋がっているところ、だと思います。

「高くて売れない」というところからスタートして、「商品の USP を信じて安売りはしない」→「橋頭堡を見つける」→「職務拡大の中で社員のモチベーションを上げる」という流れのなかで、販売戦略、マーケティング戦略、人事・組織戦略が見事に繋がっています。

ともすれば、現場の意見を聞きすぎて、全社としてバラバラな施策になってしまうことが多いものですが、社長の信念と強烈なリーダーシップ(この回では普段は温厚な萬平さんが部下を怒鳴る姿が多く描かれています)によって、限られたリソースを最大限に活かし、全てが上手く回り始めるようになりました。

経営者が持つべき視点

さて、この時の萬平さんが持っていた視点はどのような感じだったのでしょうか。以下のフレームワークに当てはめて考えてみたいと思います。
(中小企業診断士の2次試験を受験されたことのある方にはお馴染みの図かもしれません。)

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萬平さんの会社「まんぷく食品」の経営理念は、「世の中の人々に安全・安心・便利な食品を届けること」です。そこから導き出されるビジョンは「世界中の家庭で、まんぷく食品が提供する安全・安心・便利な食品が食べられていること」だと思います。

ここで、発明家でもある萬平さんが「まんぷくヌードル事業」における経営戦略(誰に、何を、どのように売るか)として決めたのが、「お湯を注ぐだけで調理できるという画期的な食品を、その価値がわかる人に、新しいライフスタイルの提案として届ける」でした。この経営戦略は、商品の開発当初から全くブレることがありません。

そして、その経営戦略の下にぶら下がる個々の機能別戦略も、全てこの経営戦略を実現する為の施策として強烈なリーダーシップの下で実行されているため、全体としてまったくブレない経営ができています。
良い経営者というのは、こうした全体の絵をきちんと描いて、実行できる方なのではないかと思いました。

ちなみに、ですが、中小企業診断士の2次試験では、上記の図の黄色の部分が事例1〜4に対応しています。
それぞれの機能別戦略の中だけで回答を作成していてはなかなか点がもらえません。各機能別戦略と、企業理念-ビジョン-環境分析-経営戦略との関係性を与件文から読み取ることができるかどうかが合格のポイントになるように思います。

まとめ。

(1) 新規事業で成功するためには、まず最初に、規模は小さくても強いニーズのある「橋頭堡」となる市場を発見し、その領域でトップシェアを獲得することが重要です。
(2) まず橋頭堡を狙うという戦術に対しては現場から多くの反対が起きることが予想されますが、それでも、そういった反対を押し切ってその市場獲得にリソースを集中させる、強いリーダーシップが重要になってきます。
(3) 経営者としては、全体を高い視点から見て、理念→ビジョン→環境分析→経営戦略→機能別戦略(商品開発、マーケティング、販売、技術開発、組織・人材、等)に一貫性を持たせることが重要になります。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)


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