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#031 準拠集団とマルチブランドの重要性

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前回のエントリで、商品のプロモーションを効果的に行うために重要な「準拠集団」について書いてみましたが、今回はそれに関連して、この準拠集団を意識したブランド戦略についてまとめてみたいと思います。

ブランドの価値を高めることができれば、そのブランドの名前がついた商品の付加価値が上がり、同じ商品でもより高い値段で売ることができるようになります。
しかし、準拠集団を考慮しないブランド戦略は、ブランド価値を上げるどころか、そのブランドの価値が曖昧になってしまったり、場合によってはブランド価値が下がってしまうような事も起こりえます。

準拠集団とは(復習)

「準拠集団」とは、「人の価値観、信念、態度、行動などに強い影響を与える集団」のことを言います。家族や地域、学校、サークル、職場などが代表的な例です。
就職活動で自分の入りたい会社を選ぶ際、その会社が何を目的としているのか、その会社のミッションに共感できるかどうかは、会社選択の重要な要素になり得ます。結果、その会社には、同じような価値観をもった人たちが集まることになります。
マーケティングを考える場合、この準拠集団を意識することは極めて重要です。人の購買行動はこの準拠集団に大きな影響を受けるため、SNSを使って有名人のインフルエンサーに商品の宣伝をしてもらう場合、この準拠集団を意識していないと、全く異なるターゲット顧客に対して広告をしてしまうことになってしまいます。

コトラーの4つのブランド戦略

会社が大きくなり、様々な新しい商品・サービスを取り扱うようになってくると、それまでとは異なる準拠集団を相手に商売をすることになります。
例えば、大衆車をメインに販売していた自動車メーカーが高級自動車の販売を始めるような場合、これまでとは異なる準拠集団の事をよく知らなければいけません。
それぞれの準拠集団に対して自社のブランドをどのように訴求していくか、戦略をたてる必要が出てきます。

ここで、コトラーによる4つのブランド戦略についてまとめてみたいと思います。
「製品カテゴリー」「ブランド名」の2軸に注目することで、ブランドの作り方を4つパターンに分けることができます。

コトラーのブランド戦略

(1) の「ライン拡張」は、既存の製品カテゴリーに対してこれまでと同じブランド名を使用しつつ、製品のラインナップを拡張していくやり方です。既存のブランド力をそのまま活かすことができる、基本的な戦略になります。
例えば、「カップヌードル」というブランドの中で、カレー味やシーフード味などの製品を開発してラインナップを増やしていくのがこの戦略になります。
既存ブランドのブランド力を最大限に活かすため、新しい商品のデザインや広告のトンマナ(トーン&マナー、の略)などは、これまでの商品とほぼ同じにすることが重要です。あまり違うデザインにしてしまうとブランドの一貫性がなくなってしまいます。

(2) の「ブランド拡張」は、既存のブランドを新しい別のカテゴリの商品にも使用する戦略。
例えば、エレクトロニクス機器メーカーの「ソニー」が、「ソニー生命」「ソニー銀行」などソニーの名前を使って別の事業に参入するのがこの戦略です。
最近MBAなどの講義でよく話題になるのが「富士フイルム」の例。社名の通り、元は写真フイルムの会社でしたが、最近は化粧品分野へ富士フイルムの社名のまま参入しています。これは、安定した大企業のイメージを用いることで顧客を安心させると共に、フイルム製造の微細技術などを化粧品製造の差別化要素としていることを訴求したいのではないかと予想します。

(3) の「マルチブランド」は、同一カテゴリの商品に対して別のブランドをつけることで、これまでとはちがうターゲット顧客に対する訴求力を強めていこうとする戦略です。化粧品メーカーが同じ商品に別のブランドをつけることで顧客を広げていく、といった戦略がこれに該当します。

(4) の「新ブランド」は、新しいカテゴリの商品を発売する際、これまでとは違うブランドを使用する戦略です。
トヨタが高級車市場に参入する際にレクサスブランドをつけたり、すかいらーくグループが店舗コンセプトの違いによってガスト・バーミヤン・ジョナサン、など別のブランドでお店を出すのがこの例になります

なお、これら戦略は厳密に分けられるものではなく、どこまでを同じブランドと考えるか、どこまでを同じカテゴリの製品と考えるかによって変わってきます。
例えば、トヨタとレクサスの例は、これらが同じ「車」というカテゴリの製品であると考えるのであれば、(3)のマルチブランド戦略であると考えることもできます。

準拠集団とマルチブランドの重要性

上記で見てきたとおり、ブランド戦略としては、大きく分けて、(1)のライン拡張や(2)のブランド拡張のように、既存のブランドをそのまま使うやりかたと、(3)のマルチブランドや(4)の新ブランドのように、新しいブランドを用意するやりかたの2つの方向性があります。

一般的に、新しい準拠集団に対してブランド訴求をする場合は、後者の方が適しているように思われます。
特に、元々のブランドイメージが強固であればあるほど、そのブランドを別の準拠集団に対して訴求するのは難しくなります。若い女性が強く支持しているブランドを使って、50代のおじさん向けの商品を出してしまったら、おじさん側もその商品をイメージしにくいでしょうし、若い女性の方もそのブランドに魅力を感じなくなってしまうでしょう。

最近、インターネットやSNSの普及により、コミュニティの分断化が進んでいます。SNSは自分と趣味が合う人や同じ考えの人だけをフォローすれば良いので、SNS上ではコミュニティの凝縮が起きやすく、ネット上で自分と違う趣味や考え方の人と出会うことはどんどん少なくなっていきます。

コミュニティの凝縮がおきると、そのコミュニティが指示するブランドイメージも、自然と濃いものになっていきます。ますます一つのブランドで複数の準拠集団を相手にすることが難しい時代になっている、と言えると思います。

以上の点をふまえると、これからのブランド戦略を考える場合、特に会社としてもっと成長していきたい・より広い顧客に自社の製品を売っていきたい、という想いがある場合には、会社自体のブランドイメージはある程度透明にしておき、個々の製品毎にそれぞれ別のブランドをつけていく、といった戦略も検討すべきかと思います。

自社のブランド価値を高めようとして安易にブランド強化策を実行すると、ターゲット顧客を狭めてしまい、将来の成長の芽を摘んでしまうことがあります。ブランド戦略には長期的な視点が重要です。

まとめ。

(1) 「準拠集団」とは、人の価値観、信念、態度、行動などに強い影響を与える集団の事を言います。特にB2C商品のプロモーションを考える際、ターゲット顧客が含まれる準拠集団に刺さるようなブランディングを行うことが重要になります。
(2) コトラーが提唱したブランド戦略には、ライン拡張、ブランド拡張、マルチブランド、新ブランド、の4つの戦略があります。それぞれ、商品やターゲットの特性に応じて適切に使い分ける必要があります。
(3) 1つのブランドで、特性の異なる複数の準拠集団に同時に刺さるようなプロモーションを行うことは往々にして難しいことが多いです。そのような場合には、別のブランドを立ち上げる、マルチブランド戦略や新ブランド戦略が有効です。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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