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#030 スピーカーとイヤホン、マーケティング的にどこが違う?

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マーケティングについて勉強している中で、目から鱗だったのが「準拠集団」という考え方でした。

この考え方、今の実務でもとても役に立っています。

「準拠集団」とは

Wikipedia によると、「準拠集団」とは、

人の価値観、信念、態度、行動などに強い影響を与える集団を意味する、社会学、社会心理学の用語。家族、地域、学校、職場など。構成員に対して、「かくあるべき」との規範を科すのが特徴。

と説明されています。
若いころなら「学校」や「部活・サークル」といった集団が、大人になってからですと「会社」が代表的ですね。知らず知らずのうちに、自分が所属している組織の価値観に影響を受けていることはよくあると思います。
アイドルのファンのグループなんかもこの準拠集団ですね。
また、その価値観に憧れた結果、その集団に属するようになることもあります。会社訪問したら、その会社の雰囲気や社員さんの対応が良かったので、その会社に入社した、と言った話がこの例かと。

あわせて、おもしろいのは、

ただし、準拠集団となるのは、必ずしも当人が所属する集団とは限らない。

という事です。
今は当人はその集団に属していなくても、その人が憧れている集団から影響を受けることもよくあります。
今は企業に勤めているサラリーマンが、起業・独立に憧れているような場合、起業して成功している人たちの SNS をフォローして、そういった集団の言動に影響される、といったことは代表的な例かと思います。

マーケティング的に、この準拠集団を意識することは極めて重要です。それは、人の購買行動は、この準拠集団に大きな影響を受けるからです。

たとえば、SNSを使って有名人のインフルエンサーに商品の宣伝をしてもらう場合、この準拠集団を意識していないと、全く異なるターゲット顧客に対して広告をしてしまうことになってしまいます。

商品特性の違いで準拠集団から受ける影響の大きさが異なる

この準拠集団、どのような商品に対しても同じような効果を発揮するわけでなく、商品の特性によって準拠集団から受ける影響の大きさが変わってくるそうです。
以下は、東京経営短期大学の芳賀先生という方が書かれた論文。

(日本マーケティング学会) テーマ書評<シリーズ97> 準拠集団が消費者行動に及ぼす影響
https://www.j-mac.or.jp/mj/download.php?file_id=427

ご興味のある方は是非全文を読んで頂きたいのですが、重要な図だけ以下に引用してみます。

準拠集団

曰く、準拠集団が「製品(その製品カテゴリ)に与える影響」と「ブランドに与える影響」は、製品の特性によって異なる、とのこと。
ここで重要になってくる製品の特性は、「贅沢品かどうか」「人目に触れるかどうか」の2軸です。

(1)の、「必需品」かつ「人目に触れる」商品、例えば、腕時計や自動車といった商品は、「製品」すなわち、その製品を買うかどうかは準拠集団の影響は受けないが、どのブランドの商品を買うか(ロレックス、オメガ、セイコー、シチズン、カシオ、…)は準拠集団の影響を大きく受けることになります。

同様に、(2) の「贅沢品」かつ「人目に触れる」商品(ゴルフクラブ、ヨット、など)は、その商品を買うかどうか、また、買うとしたらどのブランドを買うかどうか、の両方に対して、準拠集団の影響を強く受けます。
ゴルフはかならずしも生活に必要なものではないですが、ゴルフをやっている人たち(起業経営者など、高所得者の準拠集団のイメージがあります)と同じ仲間に入りたいという気持ちが、ゴルフを始める際の動機の一つになっているように思います。

(3) の「必需品」かつ「人目に触れない」商品(冷蔵庫やトイレットペーパーなど)は、その商品を買うかどうか、どのブランドを買うか、の両方について、あまり準拠集団の影響は受けません。

(4) の「贅沢品」かつ「人目に触れない」商品(TVゲーム、食器洗浄機、自動掃除機、など)は、その商品を買うかどうかは準拠集団の影響を受けますが、ブランドに関しては余り影響を受けません。

これらの分類、一つ一つを整理して考えれば非常に納得感があると思うのですが、実際にマーケティング施策を考える際には余り意識されないことも多いように思います。

スピーカーとヘッドホン、マーケティング的にどこが違う?

一つの具体例として、オーディオ業界における「高級スピーカー」と「Bluetoothイヤホン」の商品特性と準拠集団の影響について考えてみたいと思います。
どちらの商品も、カテゴリ的には「コンシューマ向けオーディオ」という括りになるのですが、その商品特性は大きく異なります。

上記のマトリックスでいうと、「高級スピーカー」は、(4)の「贅沢品」かつ「人目に触れない」という特性を持ちます。すなわち、その商品を買うかどうかについては準拠集団の影響を受けるが、ブランドに関してはあまり準拠集団の影響は受けない、ということになります。
こういった商品をプロモーションする場合、まず、「高級スピーカーのある生活」そのものの良さを準拠集団を使って訴求し、そうしたちょっと豊かな生活に興味のある層に対して、高級オーディオという趣味を広げていく努力を行う必要があります。これをやらずに自社のブランドだけを既存のオーディオファン層に対して行っても、既存のパイを奪い合うだけで売上を増やすことには繋がりにくいです。

一方、ここ数年大きく市場を広げている「Bluetoothイヤホン」に関しては、(1)の「生活必需品」かつ「人目に触れる」製品です。準拠集団からは、どのブランドを買うか(SONY、BOSE、Apple、Beats、…)について大きな影響を受けることになります。自分の好きな芸能人が使っているブランドのイヤホンを買う、ということも多いようです。
こうした商品をプロモーションする場合、「イヤホンのある生活」などといった広告は効果が薄く、そのブランドの世界観を伝えたり、アーティストとセットで広告をうつ、といった手法が非常に有効です。
近年、ヘッドホン・イヤホンのアーティストコラボモデルやアニメコラボモデルが増えているのも、こうした背景があると思います。

以上は非常にわかりやすい例ですが、何か自社の商品プロモーションを考える場合、まずその商品が上記のマトリックスのどこに入るかを意識すると良いと思います。

(おまけ)「日本マーケティング学会」について

今回の論文が投稿されていた「日本マーケティング学会」ですが、Webサイトから過去の論文がすべて読めるようになっています。非常に参考になる内容が多いので、一度ご覧いただけると良いかと思います。
ちなみに、今回引用させて頂いた論文は、以下の特集からリンクされています。

日本マーケティング学会
Vol.35 No.2(2015.09.30)
MJ 2015 AUTUMN 138
マーケティングにおける言葉のマネジメントの重要性
https://www.j-mac.or.jp/mj/mj_detail.php?book_id=33

まとめ。

(1) 「準拠集団」とは、人の価値観、信念、態度、行動などに強い影響を与える集団の事を言います。今その人が所属している集団だけでなく、その人が憧れている集団も準拠集団になり得ます。
(2) ある商品を購入する際、準拠集団からどれくらいの影響を受けるか(その準拠集団と同じ商品を買いたいと思うか)は、その商品が贅沢品かどうか、及び、その商品が人目に触れるものであるかどうか、によって変化します。
(3) これらの商品特性を理解した上で、上手く準拠集団を意識したプロモーションを行うことで、その商品の認知や訴求を効果的に行うことができるようになります。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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