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本の森で深呼吸

降りそうで降らない、それでいてひどく蒸し暑い日曜日のこと。

とくに出かける予定もなかったので、久しぶりに市内で一番大きい図書館に出かけることにした。

館内は広く、ほどよく涼しく、窓の外には緑と水がまぶしくゆらめいている。

独特の静けさ。だけど、人々が発するまどろみ・感情・思考のざわめきが聞こえてくるような場所。

身じろぎせず活字に没頭する女の人。

浅く腰掛け眠りこけるおじいさん。

ちょこんと小さな椅子に座った男の子。

情感たっぷりに絵本を読み聞かせるお母さん。

誰しもが思い思いに過ごしている。

ただただ、ゆったりとした空気が流れ、私はその本の森の空気を心ゆくまで、胸に取り込もうと大きく息を吸った。

私も、今はもう廃校となった母校の本の森が大好きな女の子だった。

あの頃は、手書きで記入するタイプの自分の図書カード。

自分が読んだ本のタイトルがどんどん増えていき、貼り合わせたカードが分厚くなっていくことが誇らしかった。

森のあちこちに「ダイホンバン」という名の分身がたたずんでいるのを見るのも好きだった。(もっぱら児童文学と伝記のあたりを行ったり来たりしていた) 

ページをめくれば物語の世界に入り込むことができた。

本の世界で出会う人はみな温かく勇敢だった。

1人で歩く小学校の帰り道。ただ山ばかりの景色を眺めてとぼとぼ歩く時間さえ惜しく、夢中でページをめくりながら器用に歩いた。

もし、我が子がそんな下校スタイルを採用していると知ったら、あまりの危なっかしさに親としては白目になると思うのだが。

さて。

目についた本をテーブルに運び、ぱらぱらめくったり、棚と棚の間をうろうろ。

児童文学の棚ではやはりタイムスリップしたかのような感慨にしばし包まれる。

色々迷った挙句『ルドルフとイッパイアッテナ』を数冊の本たちの中に忍ばせ。

懐かしい友だちに再会したかのようなほくほくとした気持ちで本の森を後にした。

降りそうで降らない、日曜日。空には思いのほか晴れ間さえのぞいてる。

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