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「一億総観客社会」から脱出するには

はじめに

こんにちは、お読みいただきありがとうございます。

超高齢社会、エネルギー問題、地方の過疎化…日本は世界でも類を見ない課題先進国です。


タイトルの「一億総観客社会」という言葉は、「東北食べる通信」編集長の高橋博之さんの記事から拝借してきた言葉です。確かに難しい問題ばかりですし、見て見ぬふりしがちですよね。

今回は数ある課題の中でも特に地方圏の人口減少に関して取り上げたいと思います。


私の経験


私は東京で生まれ、東京で育ちました。私の住む街は東京の中心から少し西に外れた郊外にあります。開発で街並みが変わっていく一方、急に人数の増えた学校は少し窮屈に感じました。


突然ですが、私には田舎がありません。

父、母の実家はどちらも東京にあります。お正月に親戚みんなが集まりおせちを囲むことや、友達の言う「帰省」になんとなく昔から憧れがあったのです。


あるとき、福島に住む農家のご夫婦のお宅にお邪魔する機会がありました。
それまでは田舎=不便というイメージがあり、都会の方が便利で暮らしやすいと思っていました。

しかし、私のイメージは(いい意味で)見事に打ち砕かれました。都会にはないものの中で特に衝撃的だったのが


ゆったりとした時間の流れと、人のあたたかさ


です。朝日をいっぱいに浴びて目覚め、昼過ぎにゆっくりお茶をして、18時には晩ご飯を食べる。夜はとても静かで虫やカエルの鳴き声しか聞こえません。

初めて時間から、或いは都会の喧騒から解放された瞬間でした。


さらに驚いた言葉がこちら。

「ここは第二の故郷と思ってくれていいからね」

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来たばかりのよそ者の私がこんなに嬉しい言葉をかけてもらえるなんて思ってもいませんでした。車がないとスーパーにもいけないような地区ですが、会う人会う人にたくさんのおすそ分けをいただきました。

私なんて東京にいるときは隣に住んでいる人の顔すら知らないなあ…と反省しつつも、人が少ないと逆に周りの人にあたたかくなれるのかもしれないと感じました。


こんな素敵な場所ですが、ご夫婦は広い畑を耕すのはもう自分たちで最後だろうと。


「確かに先祖代々受け継いだ土地を継いでほしいという気持ちはあるが、息子には自分のやりたいことを思う存分してほしい」

悲しそうにそう仰ったご主人の気持ちが痛いほど伝わってきました。


こうした状況はきっと日本中でたくさん起きているのだと思います。とはいえ、私は移住することは出来ないしどうすればいいんだろう。

…もしかして私みたいに何とかしたいと思ってはいるけれど、一歩が遠い人は意外と多いのではないかと気づきました。

そこで、近年注目されている関係人口という言葉を紹介します。

関係人口とは

「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。

地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。

出典:総務省「関係人口」ポータルサイト

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都市圏に人が集中し地域とのかかわりが薄れる中、この関係人口という概念は停滞した状況を打開する糸口になるのではないでしょうか。
ここではとりわけ面白いと感じた取り組みを二つ紹介します。

“地域を旅する大学”さとのば大学

さとのば大学とは、4年間で4つの地域を巡り、実践し、暮らしながら学ぶ大学です。
この大学は、例えるならば座学だけを教え、社会に出たとたんいきなり車に乗るようなものであった大学を、学びと実践を同時に学び、紐づける場にしたいという思いから生まれました。

「よりよい未来に向けて貢献したくても、多くの人はどう動けばいいのか分からないから挑戦できないのではないでしょうか。僕には海士町という、安心して、自分として生きられる場所があったから挑戦を続けられました。もしかしたら、多くの人が欲しているのは海士町のような『優しい、挑戦環境』なのかもしれない。そうだとしたら、海士町だけで頑張るのではなく、他の地域と連携してこの環境を多くの人に提供しようと思ったんです」(株式会社アスノオト代表取締役:信岡良亮氏のインタビューより)

出典:“優しい、挑戦環境”を。地域を旅する「さとのば大学」が示すこれからの学び

その第1弾として、今年7~10月に「地域プロジェクト留学3か月コース」が全国4地域に分かれて開講されました。実際に一期生として受講した生徒の方からは、

・地域を旅すると世界の見方が変わり、日々の生活の意外なところに面白さを見つけらるようになった。
・新しい考え、価値観、人生観との出会い。わたしの就活にも、人生にも、少しずつ安心感を与えてくれた。知らないことに触れるのは楽しかった

といった声が寄せられています。
現在、さとのば大学は文部科学省の設置基準に準拠した大学ではまだなく、まずは市民大学として立ち上げ、社会人大学院としての開学を目指している段階です。また第2弾、第3弾のプロジェクトも現在受講生を募集しています。

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縁もゆかりも無い土地に一人で飛び込むのはとても不安に感じますが、さとのば大学はそっと背中を押して少しの勇気を与えてくれる場所だと思いました。

さとのば大学運営会社:株式会社アスノオト

ふるさとワーキングホリデー

総務省が主催している、都市部に住む学生や働く世代の人たちが一定期間地方に滞在し、働きながら地域住民との交流や学びの場などを通じて地域の暮らしを体感できる制度です。今年度は22もの道府県が参加しており、2018年度は何と1,800人以上がプログラムに参加しています。

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期間中、仕事が休みの日はまちに出て観光したり、地域の方々と交流したりできます。仕事内容も農業・漁業体験やホテル・旅館での接客、ユニークなものだとキャニオニングのツアーガイド体験などたくさんの仕事があります。

この取組が素晴らしいのは、

地域づくりへの参加など通常の旅行では味わえない体験をしたい若者と、

地域の魅力を知ってもらい消費を拡大したい、あわよくば定住してほしいというという地域

双方のニーズを両立しているところです。

短いものは期間も3日間からと、気軽に参加できます。説明会も全国で開催されているので、気になった方はまずは説明会に参加してみてはいかがでしょうか。

出典:ふるさとワーキングホリデーポータルサイト


最後に


今、私のように「ふるさと」のない人が増えています。

それは言い換えれば、地域、すなわち人とのかかわり方を知らない人が増えている事のように思います。私は福島の人々に出会えて本当に良かったと心から思いました。その反面、根本的な解決のために自分ができることが思いつかず、歯がゆさを味わったのも事実です。

私たち日本人は戦後、自然や地域と関わることは煩わしいとばかりに農漁村を飛び出し、都市になだれ込んでいった。近代が目指した社会は、自分の思い通りにならない自然や他者、地域など、面倒なことと関わらずに生きていける社会だったと言える。しかし、その煩わしさから解放されることと引き換えに、その関わりを通してしか得られない知恵や技、判断力を手放してしまったのである。(冒頭でも紹介した高橋博之さんの記事から抜粋)

これ、まさに私です(笑)

でも、その地域とのかかわり方は移住だけではなく、その地域のファンになって、その地域に通い、かかわり続けるだけでもいい。それでもいいのだと思えたことが今回の新たな発見でした。

正直地方といっても様々で、農業が主な産業の過疎地域もあれば、ある程度人がいるけれどゆるやかに人口が減っている地域もあるし、その自治体のフェーズや地域性によって抱えている悩みもまるで違います。成功した自治体はあくまでロールモデルであって、そっくりそのままモデルを取り入れたとして必ずしもその地域にマッチするとは限りません。そのため、自分のまちや地域に合った方法を、住民が当事者意識をもって模索していく必要があります。

私たちは地域とのかかわり方について、今一度考えなおす時期に差し掛かっているのではないでしょうか。

出典:総務省ポータルサイト(トップ画像引用/長野県長野市鬼無里地区・小川村)


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