ドラマ「アイドル」を見たよ

 こんにちは、雪乃です。NHKで放送されたドラマ「アイドル」。遅ればせながら感想を書いておこうと思います。めちゃくちゃネタバレしてるのでお気をつけください。

 「アイドル」、放送当日までまったく存在を知らず、ただなんとなくNHKをつけたらやっていた、くらいのノリで見始めたのですがめちゃくちゃ良かった。脚本が「おちょやん」の八津先生と知って納得。しかも政策統括が「スカーレット」の内田Pと、両作品ともに大好きな私にとってはまさに夢のタッグでした。「こういうのが見たいんだよ!」の理想形をNHKがお出ししてくれたの、なんかすごく良かったな……。

 「アイドル」の主人公は、ムーラン・ルージュで活躍し「日本初のアイドル」ともいわれる実在の人物・明日待子。以前から朝ドラになってほしいなと思っていたのでドラマ化されて嬉しいと同時に、1話完結ではない連続ドラマで見たかったなあ、とも思います。それくらい内容が濃いドラマでした。本編のみでたった73分という時間でありながら没入感と終わった後の余韻が凄まじく、YouTubeで公開されたレビューシーンの映像を見返しています。

 内容的にも王道の朝ドラ。朝ドラの文法と語彙をこれでもかと使って描かれたドラマでした。「わろてんか」で見た要素と「おちょやん」で見た要素と「カムカムエヴリバディ」の安子編で見た要素が全部一緒にやってきたので、本当に朝ドラを見ているのかと。というかこれ朝ドラにならないかな。「ブギウギ」とテーマや時代が重なることにはなりますが見てみたい。

 故郷から新宿へやってきたヒロイン・とし子がムーラン・ルージュで「アイドール・明日待子」となっていく物語。「成長していく姿を応援する存在=アイドル」という、現代日本的なアイドルの文脈に当時の軽演劇や芸能文化、そして「戦争と娯楽」というテーマを乗せた物語でもありました。

 アイドル・宝塚OG・ミュージカル俳優が共演するレビューシーンは見ごたえ十分。YouTubeでも公開されている「恋のかけひき」は、キャストがトートとエリザベートでもあるので、完全に帝劇クオリティでした。すごい。

 レビューシーンといえば、終盤の「ようこそ新宿」。待子が劇場に入ると、そこにはたくさんのファン。そしてそのファンの中にいて一瞬だけすれ違う恋人の須貝。仲間が待つ舞台に迎えられる待子と、華やかなショー。
 このショーは幻なんだろうなあ、と思いながら見ていましたが、実際に場面ががらんとしたステージに変わった瞬間に号泣。夢と現実、虚構とリアルの間にある「舞台」だからこそ見せられるあまりにも切ない幻。舞台だけが持つ力がこめられた演出でした。

 あと待子の恋人となる青年・須貝役の方が「スカーレット」の鮫島ァ!の方だと知ってびっくり(須貝さんの中の人、Twitterでも鮫島ァ!と呼ばれていて、改めてスカーレットが放送が終了してもなお愛されていることを再確認してちょっと泣きそうに。)
 須貝さんはカムカムの稔さんを彷彿とさせるような、誠実な好青年でした。出征した彼の行く末を劇中で描写することはなく、あくまで史実を調べると「もしかして」と思わせてくれるのが絶妙な塩梅です。

 主人公のとし子が「明日待子」の芸名を得ておさげ髪を切り落とした瞬間に目に輝きが宿る描写や舞台化粧をしていなくとも洗練されていく過程など、「アイドールの誕生と成長」を描く工程は非常に鮮やか。出征していく学生たちに声をかけるシーンで恋人の須貝と再会してもなお彼にも他の学生と同じ言葉をかけ、「みんなの明日待子」を全うしていく姿がすごく好きです。
 一方で作中では、1人の人間としての脆さも描かれていました。慰問へ向かった先で出会った軍人から「兵を笑って死なせてやることがあなたの戦争」と言われて葛藤する姿。須貝の出征を知って狼狽え、彼が病気のふりができれば出征せずに済むから、とお芝居教えてあげると言う姿など。

 冒頭と終盤で登場した「空気 めし ムーラン」のスローガンは、舞台好きとしてもグッとくるものがありました。どんな時代でも、生きるためにエンタメは必要なんだ。そう訴えかける、ムーラン・ルージュの力強さは、舞台ファンとしても強く胸に刻んで生きていきたい。

 そして終わり際にすごく歌の上手い方が出てるな~と思ったのですが、「美空和枝」の名前を聞いて納得。次世代のスターの誕生を予感させ、さらに待子から、のちの「美空ひばり」への文化と魂の継承を描いて終わる、という結び方をした本作。あくまで「明日待子」というアイドールの、芸能の物語として締めくくったの、本当に、信頼しかない……ありがとう……。須貝との恋の結末(おそらく、史実通りに)を描いて締めることも不可能ではなかったのだろうけれど、「アイドル」はあくまで「みんなのアイドール、みんなのまっちゃん」の物語。だからこそこの終わり方をする。最初に提示した主題を掘り下げて定義づけて終わってくれるところ、すごく良かったです。私はこういうのが見たいんだ。

 そして本筋には関係がないのですが、待子が大陸へ渡ったシーンで日曜日の朝によく見る岩山が登場し、変なところでテンションが上がりました。ロケ地に栃木ってあったから多分そうだよね……?

 願わくば内田P&八津先生で朝ドラが見たいなぁと思いつつ、今日はこの辺で。本日もお付き合いいただきありがとうございました。

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