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案ずるより産むが易しと言うけれど【出産レポ】

2020年11月10日。
約束の日が来てしまった。

妊娠41週2日。自然に陣痛が来るのを待ち続けていたけれど、もどかしいほど平穏に1週間は流れて指示された誘発入院の日がやってきた。

予約しておいたタクシーに、スーツケースと大きめのバッグ2つを持って乗り込む。入院中に荷物を持ってきてもらわなくていいように、すべて多めに詰め込んだ。

朝の道路は混んでいて、到着まで小1時間かかった。陣痛や破水で病院にいくことになっていたらまずかったな…と他人事のように思った。

9:30  病院着。
内診の結果、子宮口の開きは1cm。子宮口にバルーンを挿入して出口を拡げる処置と、プロスタグランジンの内服薬で子宮口をやわらかくする処置を実施することに。

シャンデリア型の電飾に茶色い優美なカーテン。ホテルのような個室に通されて、モニターを装着。お手洗いにいくときもずっと一緒なのは厄介だったけれど、お腹の我が子に何かあれば、すぐに気づいてもらえる。そう思うとありがたい。

落ち着かない気持ちを夫とのLINEやTwitterやスマホゲームでごまかしながら1日過ごしたけれど、この日は生理痛レベルの痛みに留まり、子宮口が開いてバルーンが抜けることはなかった。モニターを外して、シャワーを浴びて就寝。

2020年11月11日
よく寝てすっきりしたところで、2日目の内診。「今日は点滴でしっかり誘発していきます」と告げられて怯える。

プロスタグランジンの点滴とモニターを装着。お手洗いにいくのがますます億劫に。

点滴の液量はどんどん増えていくけれど、昼食の時点ではそれほど痛みを感じていなかった。スパイダーソリティアで気を紛らわせながら、今日も生まれないかもしれないと憂いた。

午後になってスパイダーソリティアに集中するのがだんだん難しくなった。痛みはつよめの生理痛ぐらい。

14:30
ちょっと横になろうかな、と腰を上げた瞬間、大量の生温かい液体が。これが破水か…となんだか感慨深い。ナースコールを押して、助産師さんに手伝われて着替える。なんて至れり尽くせり、と感じ入る。子宮口は3cm。バルーンを抜いてもらう。

15:00
医師が診察に。この病院のなかで一番人あたりがやさしくて、贔屓にしていた先生だったので安心する。破水があったときに、赤ちゃんの心拍が落ちていたため、お産が長引くようなら帝王切開になるかもしれないと説明を受ける。

話しているうちに痛みが強まり、言葉につまる時間帯がでてくる。立ち会い不可で1人の私のために、先生が腰を押してくださる。

帝王切開の説明のために、夫に電話をするけれど仕事中でつながらない。そのまま分娩室に移動することに。車椅子に乗せてもらえる優しさに驚き。

16:00
痛みが生理痛レベルを超える。少し吐き気もある。陣痛と陣痛の間も腰の痛みがおさまらず、このままだと12時間もたないと焦る。(子宮口が全開になるまでまだ時間がかかると思っていた)帝王切開するなら早くしてほしいな、と切に願う。

16:30
陣痛誘発の点滴が止まる。吐き気がなくなって、陣痛と陣痛の間に休めるようになった。四つん這いでクッションに抱きつき、痛みがきたら頑張って、去ったら半寝を繰り返す。合間に誰もいなくなるのが、少々つらい。

痛みとうまく付き合うべく、いろいろ試す。
・収縮する子宮に「ありがとう、その調子」と労う
・お腹でがんばっているだろう我が子を思う
・夫が撫でてくれた手の感触と声を思い出す
「ゆきちゃんは大丈夫」

一番効果があったのは3つめ。私にとって安心感の礎は夫。

18:00
夫から電話がかかってくる。痛みで話せなくなりつつ、なんとか状況説明。夫と連絡がついた旨を医師に伝えてもらおうと、ナースコールを押す。

内診した助産師さんに「いきんでいいよ」と言われて驚く。いきみたいのを何時間も我慢するのがつらい、といろんな人のレポで読んでいたから。

分娩台が上がり、取り囲む助産師さんの数が増え、医師の先生も現れて取り上げ態勢に。
え、もうクライマックス?
早くない?

19:00
「もういきまなくていいよ」「ゆっくり吸ってはいて」
これ知ってる、もう終わりの合図。
もう終わっていいんだ。早かったな。

19:06
息子が誕生。
会陰切開の傷を縫われたり、出血が多かったりしたみたいだけど、おおらかな気持ちで処置を受ける。

誕生の瞬間の感情は前回の文章で。


その後、震えが止まらない身体をごまかしてなんとか食事をとり、21時過ぎに自室に戻った。38度の熱があったけれど、アドレナリンが出ているのか、それほどしんどくなかった。夫と電話で今日一日のことを話した。

ひとり静かになった部屋で、大きなことを成し遂げちゃったのだな、と思った。案ずるより産むが易しというのは本当だと思った。事前に頭に入れていたよりも、うんと楽なお産だった。

とはいえ、ソフロロジー分娩よろしく痛みを感じないことなどできなかったし、なんでもいいから早く終わって、と願ったことだって数え切れないほど。

お産はただごとじゃない。
でも、案ずるより産むが易しは本当。

奇跡のような鮮烈な体験を忘れないよう反芻しながら、夜は更けていった。

お産の時に飲もうと持参したアクエリアスは、ほとんど丸々残っていた。でも、その晩のうちに消費した。次の日の朝、熱はすっかり下がっていて、それがなんだかおかしかった。

こうして私は、母親になった。

最後まで読んでくださってありがとうございます! 自分を、子どもを、関わってくださる方を、大切にする在り方とそのための試行錯誤をひとつひとつ言葉にしていきます。