季節遅れの怖い話

これは、わたしが今年の3月に体験した話です。
愛猫を失ったばかりで悲しみに明け暮れていた、
わたしたち一家。
彼女のために、彼女の死を受け入れ、
1歩踏み出そうと決めた夜のことです。
我が家には、失った愛猫の他に8匹の猫が
います。
その中の、目がよく見えない2匹が、元気に
走り回っているのです。
それだけならば、いつもと変わらない
光景でした。

しかし、全速力で走っていた妹の黒猫が、
なにかにぶつかったかのように
足を止めたのです。
そこには、壁も、家具も、なにもありません。
一度や二度ではありませんでした。
なにも存在しない場所で方向転換し、
なにも存在しない場所で立ち止まり、
なにも存在しない場所でぶつかるのです。
それは、なにも見えないわたしたちにとって
不思議な光景でした。

もう一匹、姉の黒猫は、なにも無い場所から
攻撃を受けたかのようにのけぞりました。
いつも、その猫から攻撃を受けると、
姉の黒猫はぎゅっと目を瞑るのです。
まさにその顔でした。
しかし、誰も姉の黒猫には攻撃していません。
それなのに、姉の黒猫は攻撃を受けた顔を
していました。
妹の黒猫のように、何度も何度も。

他の猫たちも、まるで彼女の場所を
空けているかのように、不自然に
一匹分空けて座るのです。
その隙間は、彼女の身体の大きさと同じでした。

四十九日になった日から、猫たちの
不思議な行動はピタリと無くなりました。
きっと、虹の橋へ向かったのでしょう。
わたしはそう思います。
四十九日までは、彼女はいつもと変わらず、
我が家にいたのでしょう。
わたしには彼女の姿は見えないし、彼女の声は
聞こえません。
けれど、猫たちが教えてくれました。
彼女は、そばにいてくれたのだと。

今はもう、猫たちの不思議な行動は
ありませんが、きっと彼女は、
今でも遠い空からわたしたちを見守ってくれて
いるのでしょう。
面倒見が良く、誰よりも優しい子だったので、
虹の橋の麓で、先に行ってしまったたくさんの
小さな命のお世話をしてくれている
ことでしょう。

いつか、また出会える日を願って。

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