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【詩集】夜景のために死んだものたち

『夜景のために死んだものたち』

No.1

このよるが暗いのは、わたしの正気が失せたから
冷汗をながして、よるのわたるたびに、くりかえす
電飾に死す、わたしのただしさ、わびしさ
豪華絢爛のイルミネーションの為に死んだ蛍
指先を灯した、蝋燭、いつかの街灯
このよるは、暗い、まぶしくて、暗い
消灯、わたしのまぶたのうらに、ちらつく
失せし正気
電飾に死す
わたしのよる、暗く、暗く、

【夜景のために死んだものたち】


No.2

この窓に結露するのは、いつの涙だろう
天の河にはかなしみしか流れてはいない
みんな星々のかがやきに慰みをもつのか
みんな星々のかがやきに終わりを祈るのか
結露した窓から、群青の夜が濡れて落ちてゆく
わたしは、いつか来た終わりの日に思い巡る
ささやかで、ずうずうしい、願い事ばかりは
宇宙の果ての順繰りだ

だれもしあわせにならないで、
ゆいいつの純粋な願い事は
今日もかがやくささやかに

【濡れ落ちる天の河】


No.3

失せし星空の信号のみ
わたしのくろい夜に点滅
それは、頭痛の前兆であり
わたしの背中は、冷えていく

星空とは長く逢うこともない
しかし、点滅は、眠りの妨げ
うとましい、星座たちに、
らんざつなまま、寝返りをする
わたしのからだは、ひえびえと、
くろい夜に、ほんろうされてしまう

うたがいもしない、星座の来歴
その星々の点滅、わたしの弁護?
いいえ、実刑、ギャベルの音、
いまだの弁明、星々の点滅、
法服のように、くろい夜に

【それは執行された夜】


No.4

おぼろ、おぼろ、
夏の雪は、大人ほど視えた
水分をふくんだ空気、
月は朧、夏の空気はアスファルトの気配

おぼろ、おぼろ、
夏にあらわる彼方とは、
いつもどこにあるものか、
夏の、彼方より、子守唄、
月は朧、夏の夜空は未だ積乱雲に棲む

【雨季到来の縁側】


No.5

風の音はおびやかす
よわってしまった
とりたてのように
わたしを、おびやかす
夜風はいつだって脅威
ここは沿岸、さみしい田舎町
たわむれはいつだって塩気に満ちる
帰り道の口の中で、
じゃりのような道筋をとおる

そうして風の音は背にせまってくる
とりたてる…脆弱な、わたしから
なにももたない、わたしから、
だれかの夜風は、火照りをなだめ
わたしの夜風は、体温をうばい
目を閉じれば、くろい海、かなしばり、
せきたてられて、誰ぞの船がゆれている

【夜霧のなかには】


No.6

夏につくった単語帳、その意味は、
単語帳そのものであり、夏に意味がある
黒板の文字はお世辞にもきれいとは言えない
それでも、思い出すのは、青空よりも黒板だった
それは、感傷のシンボリック、知識掛ける抒情
窓からはいつも誰かの声がしている
夏につくった単語帳、その意味は、
夏をはらむ言葉と景観、重たいカーテン
寝苦しいばかりの、正午、
意味を感じない、言葉の羅列、
まぶたをぎゅっと閉じたのなら、
それは、心象のためのリリック、景色掛ける慕情
夏につくった単語帳、その意味は、

ひと夏、ただの現象みたいな、

【夏期講習とサボタージュ】



『検索されるわたし』

No.7

狭義的なコズミックに嫌気がさしていた
星を掴むことよりも、澄んだ水をすくうこと
その違い、わたしには、未だ到達不可能な地点
空気の澄んだ場所で、空を見ていた時代
なにもかも、あかりなら、降りてきていた
「わたし」とは、
もっともっと、広義的な意味があった
そんな「かつて」を、今でも地平線の向こうに、
栞のようにして、覚えていたのなら
狭義的に使っていたコズミックとは、
やぶれた事典に過ぎないと、なにもかも、もっと、
目の前に存在するものを、拾い上げてゆけたのなら

【検索されるわたし】


No.8

美術屋には美術屋の衝動がある
光を拒絶した色彩があるいている
熱情だけが、パレットの世界である
水にひたされなかったのならば
最初の色は失われることもない
明暗を必要としなければ
かなしみもよろこびも、もっと素直になれる
しかしながら、カンバスにうなだれているわたし
拒絶してきたすべてへの愛憐
衝動とは、熱情とは、この指にはりついた絵の具
はじめの色は、いつだって光、原初のことわり
わたしは、あるく色彩、紫外線にうつむきながら

【熱視線には背を向けて】


No.9

誰かのことを見ていた日には
誰かの影がうるさくて眠れない
目に焼きついたものはひかりのはず
どこかへ、消えてしまった映像
フィルムは回されることはなく
残像すらもここにはなく

すべては、影になって、映写される
表情も、動きも、言葉も、影である
目に焼きつけたかったはずのものは
あらゆるフィルムを回してみても
すでに消失されてしまった

夕闇、見ていた人、誰かが見ていた、

【瞳に回る映写機】


No.10

虚しさを氷にしてグラスに入れたのなら
感傷的な色をしたウィスキーをそそいで
アイスピックみたいな言葉が喉を焼く
(全部、わたしが、悪かった、)
もしも、わたしがそう言えば、
再び酒場のレコードに針が落とされる
なにごともなく、サイレントシネマを背景に
無駄な話で深夜2時まで過ごすことが出来る
冷たくて、痛くて、火傷をするような、味、
好む、香り高い、感傷のウィスキーには、
虚しいばかりの氷がよくにあう
喉を焼くような、言葉、飲み込んでいる
「わたしは、全部、悪くはない」
全ての明かりが落とされる時
わたしは実に水平に、グラスを床に落とした

【オン・ザ・ロック】

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