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122. 試合に出れていないあなたへ

今、試合に出場できていないあなたへ。ベンチに入れない君へ。

競技を続けていると、たいていの選手はどこかで必ず壁にぶち当たる。なんの困難もなくトントン拍子でステップアップしていけるのはほんの一握りで、それ以外の選手は、上を目指している限り必ずどこかのタイミングで自分の自尊心をぽきっとへし折られるような経験をする瞬間があるだろう。

地方で点を取りまくっていた選手が、東京に出てきて全く試合に出られなくなる。高校では敵なしだった選手が大学に入り輝きを失う。日本ではスターと呼ばれた選手が海外では全く通用しない。楽しいと感じていたはずのスポーツが、自らを表す最たるものであるはずのスポーツが、いつしか苦痛の根源となっていく。このような経験をしたことのある選手はきっと少なくないだろう。

僕も例外ではない。

「試合に出れないくらいで落ち込んでいる場合じゃないよ」

このように励ましてくれる人が周りにいることはきっと幸運なことだと思うが、一方で、このような言葉を投げかけられたからと言って、そう簡単に現実を変えることはできない。正直なことを言えば、自分が思い通りにプレイできていない日々を過ごしている中だと、どれだけ優しい言葉を周りから言われたとしても「でも実際問題、そんなん言われたところで試合に出れるチャンスがないんだからどうしようもない」と考えてしまうこともきっとあるはずだ。

試合に出れない日々が続くと、「このスポーツをするためにここへ来た自分はいったい何をやっているんだ」という思いが強くなり、それがいつしか絶望や焦りに変わっていく。その心境が痛いほどわかる。

試合に出れない選手たちが決まって言われるのは「試合に出れていなくても外から学べることだってあるよ」という一言ではないかと思う。確かに、俯瞰的にチームの試合などを見ることで身につけられたり学べたりするものはある。ただ、もし仮にそこで様々な知識を吸収したとしても、それをアピールできる場はチーム内の紅白戦や練習の中での一コマであり、そこで大きなインパクトを残せないと結局何の変化も起こすことが出来ない。

そもそも、一度「控え選手」という札を付けられた選手が、「レギュラー」の座を掴み取ることは非常に難しいことだと僕は思う。もし仮に練習で良いプレイを一度できたとしても、それがきっかけで「あいつを次の試合で使おう」と簡単に評価が変わることはない。僕もそれを経験したし、今でもその現象は当たり前のように普段の練習から起きている。例えば普段ベンチに入っていない選手が、練習の中で素晴らしい形からレギュラー相手に点を取ったとしても、それがロースターに直接影響することはあまりない。「レギュラー」というのは、絶大な信頼を置かれており、ちょっとやそっとのミスで外されるものではないからだ。

築城十年落城一日という言葉のように、評価は積み重ねるまで時間がかかり崩れ去るのは一瞬とよく言うけど、それはそもそも崩れてしまいやすい素材で城を作ってしまっている選手で、本当の本当に評価が高い選手というのは、一日でその城が取り壊されることはない、と僕は思っている。言ってしまえばそのダメージはせいぜいひび割れくらいのものだろう。どんなチームでもそういった選手は絶対に存在するはずだ。理不尽なことに思えるかもしれないが、その信頼は、その選手が自らの力でつかみ取ったものだ。

つまり、チームにはミスしていい選手とミスしてはいけない選手がいるということ。ミスが許される選手とそうでない選手は確実に存在する。許される選手は、今述べた通りそう簡単には崩れない城(評価)をすでに築き上げた者。ミスが許されない選手はその逆で、評価が積み重なっていない選手たち、要は控えのメンバーだ。「失敗を恐れずやろう!」と言われていたとしても、例えば自分がリスクを冒してチャレンジした結果上手くいかなかったとき(例えば敵を抜こうとして簡単にボールを取られるなど)、コーチによっては「ナイストライ」と思ってくれる人もいるかもしれないけど、「チャンスあげたけどやっぱりダメか」という判断を下されるケースの方が多いのではないかと思う。

現状を変えることは、本当に難しい。そもそもチャンスを与えられること自体が少ないし、ましてやその機会を生かすことはもっと困難だろう。チャンスをもらったのに生かせず、結局評価を変えられず。また次のチャンスを待つしかない・・というループに陥ってしまう。そういうことを考えていると、どんどん気が滅入ってしまうかもしれない。

「あいつより俺の方が100%うまいのに!」

何度この感情を味わったかわからない。試合メンバー発表のとき、自分の名前が書かれておらず肩を落としたことが何度もある。試合を観客席から見ながら何度唇を噛んだかわからない。ベンチには入れたものの、一度も氷の上に乗ることなく試合を終えたときの悔しさは一生忘れられない。

ただ、それでも。

そんな毎日を変えたいと思うのならば、他でもないあなた自身が動き出すしかない。本当に現状を変えたいと願うのならば、それを変えられるのはあなたしかいない。

ものすごくシンプルなことが一つある。それは、試合に出たいのであれば「自分で掴み取るしかない」ということ。与えられないのであれば、自分で掴むしかない。これは本当にシンプルでクリアなことだけど、一番最初に理解しなくてはいけない。”Not given, but earned”だ。本当に掴み取りたいのであれば、「与えられるのを待つ」という姿勢から「自分のポジションを”狩る”」くらいの心境になるべきだと思う。それこそ動物が獲物を捕らえるときのあの眼と同じように。それくらいの感覚を持たないと、本当に現状を変えることは難しい。

正直なことを言うと、「何か起こしたければ自分で動け!」という言葉が僕はあまり好きではない。本当はあまり言いたくない。なぜなら人には人のペースがあるから。その人のバックグラウンドも知らないのに、「何もしていないあなたは、これだからダメなんだ」とでも突きつけてくるような雰囲気や態度を押し付けてくる人が僕は苦手だ。

試合に出れていない現状に対して、「特にショックを感じていない」人がいたとしても、それは決して間違いではないと思う。試合に出ることをあきらめることは間違いではないし、選択肢の一つとして全然ありだ。「どうして戦わないんだ!」とその人を周りが責める筋合いもない。自分が決めることだから。

ただ、もし「試合に出れていないこの状況をなんとか変えたい」と自分自身が感じているのであれば、まさしく「自分で動く」しかない。これは決して自己啓発系のメッセージでもなんでもなく、事実としてやらなければいけないことだ。

単純にやるべきことなんだ。

ここで「自分で動く」と決意したとしても、何をすればいいかわからない人もいるのではないかと思う。結局、決意だけを変えたところでレギュラーになれるわけではないからだ。

でも、そこには必ず道がある。どれだけ難しく、現状に希望を見出せなかったとしても、そこには必ず、絶対に、日常に変革をもたらすチャンスが存在する。もし今この瞬間にはそう感じることが出来なかったとしても、そう信じこむ。とにかくこの先自分に変化が訪れるということを、信じ抜く。

ここでは、僕が試合に出れていなかった当時、毎日心がけていたことを、あくまで一つの例として皆さんに紹介したい。これから話すことは「これをやれば絶対に試合に出れるようになる」というものでもないし、「コーチにゴマをすりに行く」とかそういったくだらないものでもない。繰り返すようだが、これは自己啓発メッセージじゃない。人それぞれケースは違うし、これをマネしたところですべてが好転するわけじゃないだろう。これはhow to本ではない。これから話すことは、控え選手だった僕がその時期に毎分毎秒考えていたことではあるが、これらがレギュラーになるための直接的な要因になったかどうかは僕にも分からない。それでも、僕はこうして戦ってきた。そして今がある。

僕がずっと心がけていたこと。それは、

・”何か”のスペシャリストになること
・補欠の中の一番手になること

この二つだ。

まず、「何かのスペシャリストになる」とはどういうことか。これはつまり、「この場面だったら俺の右に出る者はいない」という武器を一つ見つけるということ。それは、シュート力かもしれないし、足の速さかもしれないし、競り合いの勝率かもしれない。とにかく何でもよい。何でもよいから、自分が絶対にチームの中で負けない役割を見つけること。これがとっても大切だと思う。

少し細かい話をすると、先ほど述べたシュート力とか足の速さといった部門は、すでに他の選手で埋められている可能性が高い。もしあなたがシュート力でチーム随一の力量を携えていたのであれば、今頃レギュラーとして間違いなく試合に出ていたはずだ。要するに、目立ちやすい部門にはチーム内にもライバルが多くいる。だからこそ、一見地味かもしれないが、確実にチームにとっては必要となる場面を探す。

例えば、シュートブロック。相手のシュートを、キーパーに届けることなく防ぐことが出来たら、チームにとって大きなプラスとなる。失点を防ぐことに直接的な影響を与えられる。

例えば、ボディコンタクト。パック(ボール)を奪えるかどうかはさておき、毎回出番があった時に必ず数回ボディチェックをしてくれる選手がいたらきっとチームのプラスになる。

勝敗を決めるのは得点数だけど、勝利を手繰り寄せるための要素は得点だけじゃない。試合を見渡してみれば、必ずどんな内容でも似たような場面が数回訪れる。その、どこかワンシーンのプロフェッショナルになるということだ。

続いて、「補欠の中の一番手になること」は読んで字の如く、控え選手の中でナンバーワンのプレイヤーになるという事。つまり、レギュラーメンバーに何か起こった時(例えば怪我や不調)に、コーチの頭の中に第一に浮かぶ選手が自分であるべきということ。

補欠メンバーの中でトップ選手になることは、いきなりレギュラーの座を取るよりはきっと難易度は低いはずだ。

試合中でも、シーズン中でも、必ず何かしらの予測不可能な出来事は訪れる。常に調子の良いチームはなかなか存在しないし、連敗が続くチームは「何か変えるきっかけが欲しい」と考えるだろう。その時の”きっかけ”が自分になるために日頃から準備をするということだ。

僕はこれを常に意識していた。もちろん、自分の中ではレギュラーメンバーにも負けている気はしていなかったけれども、それが評価されないのであれば、まずは「同じ場所にいる控え選手たちと俺は違うんだぞ」ということを見せなければならない。

控え選手になってしまった時点で、与えてもらえるチャンス数は格段に下がる。それは仕方ないことだ。だからこそ、自分で掴みとりにいかなければいけない。直接出番をつかむことが出来ないとしても、「チャンスを与えてみようかな」と相手に考えさせることはできる。

そもそも試合でアピールすることが難しい場合、自分の評価を変えられるチャンスは練習中しかない。これがなかなか厄介だ。時間は限られているし、練習でいくらいいプレイをできたとしても、それがきっかけでいきなりピッチに立たせてもらえるわけではない。だからこそ、積み重ねが必要だ。「今のプレイ良かったな」というシーンをできるだけ多く作り、相手に認識させていく。それを何度も繰り返しながら、自分の力を証明していく。

先の見えない日々を過ごしたり、嬉しい瞬間があまり訪れない時間が長く続くと、心が折れそうになる瞬間がやってくるかもしれない。「こんだけやってんのに!何も変わらない!」と感じるときもある。

それはもう仕方ない。そう簡単に変わっていたら今まで苦労してないはずだから。ただ、「もしかしたら何か変わるかもしれない」という可能性は、自分が動くことをやめた瞬間にゼロになる。それは確実なことだ。

遅かれ早かれ、自分がこの場を抜け出す瞬間は必ず来る。それは明日の練習かもしれない。それは来週か、来月か、はたまた来年になるかもしれない。それでも、必ずその瞬間はどこかのタイミングで訪れる。だから、今挑み続ける。それを何度も何度も、自分に言い聞かせる。自分が希望を持ち続け、もがき続ければきっと変わる日が来る。

これこそが「戦う」ということなんだと僕は思う。

今回は、「試合に出る」ということに焦点をあてて話したけど、これは決してゴールではない。きっと、どの選手もその先に叶えたいもの、達成したいことがあるはず。ただ、それを現実にするためには、「試合に出ること」は乗り越えないといけない壁だ。

前にも書いた通り、これはあくまで「本気で試合に出たいと思うならやるべきこと」ことであって、「全員が絶対にやらなければいけないこと」ではない。レギュラーに入れていない現状に対して、あなたがどう感じているかによる。そこに悔しさがあるのなら、まだ諦めていないのなら、「戦う」価値はあると思う。自分がそのような感情を抱いているということは、つまり、まだこの先の自分を信じている何よりの証拠だから。


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