相容れない先輩をどう立てるか。

むかし、むかし。

よく出てくる、某医療法人の訪問介護事業所で、サービス提供責任者をしていた頃の話。

私と、もう1人先輩でAさんという責任者が居た。

カリスマ性があり、オーラで人を黙らせてしまう圧倒的な雰囲気、リーダーとしての統率力は、今まで見てきた様々な上司の中では、五本の指に入るほどの方だった。

しかし、彼女のマネジメント能力は、ある意味強引で、その日の気分と、己の好き嫌いという感情により左右される。

つまり、彼女に気に入られなければ全てが終わりな、何とも理不尽なものだった。

私が最も理想としないマネジメント手法である。

この手法を取れば、部下は自分の能力を磨く努力はしない。上司に気に入られる事しか考えない。仕事の内容よりも、いかにその上司とうまく付き合うかばかりを考えてしまう結果は、言うまでもなく高齢者のニーズは置き去りになり、介護者本意の自分勝手な介護になってしまいやすい。

私に言わせれば、本来向くべき方向性ではなく、仕事に対する冒涜である。

しかし、何度か書いているが…。

残念ながらこんな時代錯誤なやり方をしている介護関係の管理者は、未だに多い。

経験則、女性に特に多い傾向がある。

なるべく合理的で公平を目指し、相手にわかりやすいように正論を示し、誰にも指摘を受けようのない形にしていく、理論的で男性的なタイプの私のマネジメントとは真逆。

つまりは、決して相容れない関係であった。


情報もトップダウン方式、報・連・相の掌握も自身で行い、外ケアマネとの連絡は、よほどの事がない限り自分が休みの日でも行うAさん。

他の職員に仕事を任せれないタイプだ。

そして、忙しいだとか大変だとか言って、自分の存在は唯一無二であるアピールをしてしまう。


正直、私には考えられない。

職員を信用していない事を、行動で伝えてしまっている。そうしておきながら、何かあればすぐに自分に言えと怒る。言えば今は忙しいだの、後にしろ、空気読めだのと言う。

部下に対して『黙って自分の機嫌を見ろ、空気読め』だなんて理不尽も甚だしい。

部下の気持ちをわかってやろうという計らいがない上司ほど、独りよがりで孤独なヒロインを謳って、何ともイタイ人が完成してしまう。


部下に信頼してもらいたければ、まず自分が相手を知り、相手を信用している事を伝えて、様子を見ながら渡せる仕事を任せていく事をせねば、伝わる訳がない。

勿論、簡単な事ではない。

この匙加減をまかり間違えば、取り返しのつかない事になる。

だが、簡単ではないからこそ、管理職という仕事なのだ。余裕で誰にでもできれば世の中の管理職は誰も苦労なんてしない。

また、ここに管理職の醍醐味もある。

私は、問題点の分析、優先順位を考察し、それを解決するため、あらゆる人々との交渉を行う事が好きだし、得意だという自覚がある。

これは、この立ち位置でなければ楽しめない。


話を戻すが、Aさんのような中間管理職が存在している理由は、ただ一つ。

上層部がきちんと管理職マネジメントをできていないからである。

上がAさんが暴走しないように、コントロールしてあげなければ彼女は永遠に自分の手法は間違っていないと思い、突っ走ってしまうのだろう。

さて、どうしたものか。

このある意味、女帝王国が出来上がってしまっている中で、私に出来る事は何か。


…正直、給与も安過ぎて辛いので長居をする気持ちは全くなかったが

これも何か学びの期間なのだろうと考え、

自分はサブであり、Aさんのサポート役として彼女が仕事しやすく、かつ、なるべく理不尽なマネジメントが無いよう、Aさんのご機嫌を取りながら調整、交渉をするといった立ち位置で仕事をしていく事にした。

これが、彼女には絶妙に効果的であった。

きちんと理由を伝えて、暴走を抑えれば実に良い上司なのである。

上層部がマネジメントをしていない中で、私の立ち位置からの調整は決して簡単ではなかったが、筋道を立てて伝える事の意識だけを忘れなければ、本人も自覚をして修正してくる。

基本の根っこは直らないが、軌道修正だけでも、部下にはかなりいい形で伝わるものである。

それをまたAさん自身が感じ取り、より良い方向を模索していく。良いスパイラルを生み出した。


自分自身が、一番上ではなく二番目が役割として合うと痛感した、十数年前の話。





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