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愛の礎石

詩人、吉原幸子は愛についての詩を多く残している。愛といっても、わたしはその身振りも目つきも、概念も定義も知らない。しかし詩人は、どこか後ろ向きに、過去のなかに愛なるものを探しているようにみえる。

それはかつて存在していたのか、それともそもそも存在しないものなのか、それら詩篇を読むに、その彷徨は痛みがともなっているかに。

でも虚しさやたんなる甘美に堕さないのは、詩人のなかに愛の礎石が確実にあったからではなかろうか。とすれば、それはさまよいではなく確かさの歩みだったに違いない。

逃げた愛の顔
死んだ夢の顔
行方不明の わたしの顔
(「行方不明」)

あの人たちにとって
愛とは 満ち足りることなのに

わたしにとって
それは 決して満ち足りないと
気づくことなのだ
(「塔」)


何度も繰り返し読んでいると、紙面という平面に書かれたものなのに、詩人が後ろ向きに歩いて見つけようとした愛の手触りが見えてくるような気がした。


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