見出し画像

Covid-19展に遭遇する

クリニックは、あまり行ったことがない地区にあった。
 
診察が終わったのは、午後3時。これからどうしようか。会計を待ちながら、Googleマップを開く。
 
歩いて3分くらいのところに、南部女性博物館というところがある。
 
入場無料。クチコミを見ると、充実していたという人と、そうでもなかったという人と、まちまちだ。ここを目的に出かけるには、微妙な情報量。
 
ちょうどいい。近くにいるから、行ってみよう。
 
クリニックをでて、博物館に向けて歩く。博物館につづく道は、空き瓶やお酒を漬けるような瓶、壺が売られた店が連なっている。


壺の先にあった南部女性博物館は、立派な建物で、でもどこまでが博物館かいまいちわからなかった。
 
順路も特にないし、無料なので、人ははじめの入口の近くで微笑むお兄さんがいるだけだ。客も私しかいない。
 
1階は、偉業を成し遂げた女性たちが着たアオザイを飾った小さな部屋だった。

キャプションの名前と役職を見ても、知識がなさすぎて、いまいちぴんとこない。


まさかこれで終わりだろうか……。部屋から出て外にある階段を上がる。
 
スタッフの事務所だったらどうしようと入口のお兄さんを見ると、微笑まれたので、展示があるということだろう。
 
 
2階の部屋にはいると、ここもまた誰もいない。壁には「Covid-19」と大きく書かれている。
 
なんとコロナ禍をテーマにした展示だった。この国では、もう過去のことということだろうか。そして、南部女性博物館は、1階で終わったのだろうか。

社会主義の国らしく、コロナ対策は政府が強く主導し、ロックダウンもかなり厳しく、在住日本人も一歩も外に出れないような日が続いたと聞いていた。
 
政府の宣伝的な展示かな、さらっと見ようと思ったら、キャプションを読むと、意外と物語がある。

地方でマスクをつくりつづけたおばあさんのミシンと、その姿を描いた絵。
ロックダウン中、感染者にごはんを届けるときに使ったもの。
子供を産んですぐ、新生児のコロナ治療に徹した医療従事者の絵。半年後、家に戻ると、自分の子供がなかなか懐かなかったというエピソードとともに。
ロックダウン時に使われた無料のお米のATM。
最前線の医療スタッフの寄せ書きのはいった医療着。


政府の宣伝と気を抜いて見ていたなかで、人の直筆メッセージは、コロナ禍の不安な時期の記憶とあいまって、不意打ちで心を動かされた。


フィーチャーされるのが女性が多めだったので、企画展というかんじなのかもしれない。
 
 
まだあるかわからないが、3階に進む。ドアがあいていて、展示があるようだ。
 
ここも誰もいないが、イメージしていた南部女性博物館に近い雰囲気だった。
 
戦時中、活躍した女性にまつわるものや、エピソード、像が展示してある。

夕方、シリアスな英語のキャプションを読む元気がつづかず、半分くらいきたところで、ベトナム戦争について学んでからまた来ようと決める。
 
 
階段はまだある。4階に上がると、今度はドアが閉まっていた。どうやらこれで終わりのようだ。
 
前庭の立派な像の写真を撮って、博物館をあとにする。

 

 
家に帰ってあらためて調べると、どうやら本当は、もっとたくさんアオザイや工芸品を展示している部屋があったらしい。
 
 
ドアの閉まっていた4階がそれだったのか、Covid-19展の場所が本来そうだったのか、もしくは1階にもうひとつ部屋があったのか。
 
それは今もよくわからないままだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?