私が女子高生だったあの頃は。

日曜日の朝。私はよく旦那とモーニングに行く。近所にそれらしい喫茶店があればいいのだが、特にオシャレな店はない。なので、行くとしても大抵は牛丼屋で朝の定食メニュー、もしくはファミレスで洋食メニューを食べるのである。

その後どこかに出掛ける用事がある時は牛丼屋で手っ取り早く済ます。が、特に用事がない時はファミレスに行き、ドリンクバーでコーヒーや紅茶、ココアなどをゆっくり堪能するのが好きなのだ。我が家は和食派なので、基本的に家では食パンを食べることがない。なので、こうしてたまにファミレスに来て、熱々カリカリに焼けたトーストをウインナーやスクランブルエッグ、目玉焼きなどと一緒に食べるのが私の密かな楽しみである。

先日もファミレスに行った。日曜の朝早くだからか人影はまばらで、店内には2、3組の客しかいなかった。窓際の席に座り、私はトーストと目玉焼きのセットを注文。和食好きの旦那は魚定食を注文した。二人で静かなモーニングを堪能したのだった。

すると、二人の若い女の子が入って来た。制服を着ていないので正確には分からないが、中学3年生か高校1年生ぐらいだろうか。店内はガラガラなのに、彼女達は何故か私達の真後ろの席に座った。そして、大声ではしゃぎ出した。

旦那は新聞を広げて軽く流し読みをしており、私はドリンクバーからカプチーノを持って来たところだった。食後に静かな一杯を、と思っていたところだったので彼女達の登場により興醒めしてしまった。私はとても神経質で物音に敏感な体質なのである。一人暮らしをしていた時、ボロアパートの騒音に悩まされて精神を病んだ程だ。

静かな店内に響き渡る彼女達の賑やかな声が私には酷く耳障りに感じて仕方がなかった。カプチーノを程々に、私達はその後すぐに店を出た。席を立った時、チラッとそちらを見てみたのだが、彼女達が口にしていたのはピザとメロンソーダだった。一人一枚づつ大きなピザを頬張りながら、楽しそうに笑い合っていた。朝からピザとメロンソーダである。おばさんになってしまった自分には到底真似できないメニューだ。

彼女達は近くにある映画館が目的なのかもしれない。映画の開始までまだ時間があるからちょっとファミレスで時間潰さない?そんな風に私には見えた。そうでなければ年頃の女子中高生が朝からファミレスでモーニングメニューも注文せずにいきなりピザを注文するはずがない。

帰りの車内で、私は旦那に不満をぶつけた。うるさくて全然ゆっくり出来なかった、と。しかし、スーパーポジティブな旦那はこう言った。

「あれぐらいの年頃って箸が転がっただけでも楽しいって言うじゃん。あの子達もきっとそうなんだよ」

確かに街に出ると大抵の中高生は常に楽しそうに笑い合い、はしゃいでいる。集団で暗い顔をしている子など一人もいない。旦那は更に続けた。

「俺もあの子達と同じくらいの時はそうだったなぁ。夢とか憧れとか将来のこととかさ、俺は将来絶対こうなるんだ!みたいな根拠のない自信が常にあったよね。あの年頃なんて、今の俺達みたいにこれから建てる家のこととか生活の不安とか何も気にしなくていいしね」

その言葉に、私は自身の学生時代を少しだけ思い出した。私は彼女達みたいな明るい学生生活を送っていた訳ではなかった。成績不振、いじめ、友達関係の悩み、将来の不安など、今思い出してもあまり良い気持ちにはならない暗い学生時代だった。

しかし高校生の頃の私には憧れがあった。当時、私はバックストリートボーイズ やバステッドといった洋楽アーティストにハマっていた。あまり良いことがない学校生活を音楽を聴くことで紛らわせていた。そして、洋楽を聴くことで海外への憧れも募って行ったのだ。

「将来、イケメンで日本語ペラペラな外人さんと結婚できたらいいな」

そんなことを大真面目に考えていた。私は英語が苦手なので日本にとても詳しく、日本語が堪能な外人と出会って恋に落ち、結婚することに憧れを抱いていた。今考えると酷く恥ずかしい気持ちになる。穴があったら入りたいぐらいだ。まぁ、それはある意味では暗い学生生活からの現実逃避であったのかもしれないが。

日曜朝のファミレスにいた女子中高生は、かつてのそんな自分と同じなのかもしれないのだ。彼女達がピザを頬張りながら一体何を楽しそうに話していたのかは私には分からない。だが「夢や憧れ」について語り合っていたのかもしれないのである。

彼女達も大人になり結婚したらきっと今の私や旦那のように、かつての自分をふと思い出す瞬間が訪れるのだろう。そのとき、大人になった彼女達は一体何を思うのだろうか?日々の生活の中で忘れていた、若りし頃の夢や憧れをふと思い出すのだろうか?

そう思うと、先程までの不満はどこかに吹っ飛んでしまった。

大人になった今、私はごく普通の日本人である旦那と、日曜朝のファミレスでごく普通のモーニングをしている。

あの頃憧れていた「イケメンで日本語堪能な外人夫」には程遠いが、それでも私は今この時を、心から幸せだと思えるのだ。

彼女達が大人になったとき、心から幸せだと思える。そんな境涯になると良いな。そんな風に思った日曜の朝だった。

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