PUFFYは脱力感×ビートルズサウンドという奥田民生マジックによって人気になったという話。

【私が日本人アーティストで初めてファンになったPUFFY】

私は当時、小学6年生~中学1年生だった。ファンだと認識したのがいつの曲頃なのかは覚えていない。しかし、自分の部屋に彼女達のポスターを貼っていたことは今でも覚えている。

そんな私が当時繰り返し聞いていたのが3rd「JET CD」でこれはロック色の強いアルバムだ。手持ちの曲がなくなってしまった奥田民生が自分の人脈を辿って色々なミュージシャンに声を掛け、曲提供を呼び掛けたことで多彩な曲が集まったのだという。

PUFFYといえば奥田民生と井上陽水のイメージが強いが、他の人が作る曲もとても魅力的である。これはそのことがよく分かるアルバムだ。このアルバムを聞いていた当時、私はもちろんこんな背景は知らない。ネットも普及していなかったし、音楽雑誌など買ったことがなかったからだ。ただ純粋にPUFFYが好きで聞いていた。なので、大人になってから色々調べてみて曲提供したミュージシャンの豪華さに驚いたのだった。

何故、私がPUFFYの魅力にハマったのかというとそれには明確な答えがある。「ビートルズ」を彷彿とさせる曲が沢山あるからだ。私は小学生の時にビートルズにハマっていた。理由を書くと長くなるのでここでは割愛するが、先にビートルズにハマっていたからこそ、私はPUFFYの曲をすんなりと受け入れられたのだと思うし、またファンにもなったのだと思うのだ。これは大人になってから気づいたことである。

PUFFYの曲がどうしてビートルズを彷彿とさせるのかというと、それはプロデューサーである奥田民生がビートルズのファンだからである。彼はPUFFYという二人の女の子にビートルズサウンドを上手く掛け合わせた。それがとても絶妙だったのだ。だからPUFFYは人気になったのである。

今回はそんなPUFFYの「JET CD」の曲について、私の思い出話と共に綴っていこうと思う。

【これが私の生きる道】

PUFFYといえばアジアの純真かこの曲だろう。これこそ奥田民生のビートルズ愛が全面に表れた曲である。この曲にはビートルズ初期曲の要素が隠れている。その代表的な曲が「プリーズプリーズミ―」と「デイトリッパー」である。

当時、ビートルズファンの父がこの曲を聞く度に「これはデイトリッパーに似ている」と言っていた。具体的に言うと、サビの終わり~次の歌詞に行く前に入るギターが、デイトリッパーのイントロ。それから、間奏終わりに入るギターは「プリーズプリーズミー」のイントロだ。しかも、後者はビートルズがハーモニカであるのに対して、PUFFYの方はギター。間奏がハーモニカソロなのだから、そのままハーモニカで展開しても良さそうなのものをわざわざギターに変えている。確かにもしもハーモニカソロで全て展開していたら、ビートルズの丸パクリになってしまうし、音のメリハリがないのでイマイチ面白みに欠ける。だからあえて、ギターに変えたのかもしれない。奥田民生の光る音楽的センスに脱帽だ。

他にもコーラス、ハーモニカ、ハンドクラップ、タンバリンなど初期のビートルズを彩った要素がたっぷり詰まっている。そして、途中に入るギロの音が良いアクセントになっている。大人になってから聞いて思ったのだが、今の日本の音楽界に、曲の合間にギロを使うアーティストなど殆どいないのではないだろうか。今はどちらかというと純粋なバンドサウンドか、もしくは機械だけで作ったとても複雑なサウンドが主流な気がする。こういうアナログな楽器の音の温かさというのはとても大切な要素だなと私は思う。

そして、全力でビートルズに寄せたこの曲に合わせたのは「まぁ人生こんなもんか」みたいな肩の力を抜いた歌詞と、脱力感のあるPUFFYの歌声とメロディだ。これがまた絶妙でとても癖になる。もしもこの曲の歌詞がガッチガチのラブソングだったり、クソ真面目な人生ソングだったらここまで売れていないだろう。ビートルズサウンド×脱力感というマジックは奥田民生にしか出せない魅力である。

【CAKE IS LOVE】

カップルのあるひとつの場面を切り取った曲なのだが、歌詞にとても特徴がある。サビ以外は文章の前半は日本語、後半はカタカナで構成されている。カタカナの殆どはタイトルで察する通り、ケーキやスイーツの名前だ。サウンドはとても緩くて幻想的な感じ……上手く言葉に表せないが、今こんな曲を作る人は殆どいないのではないだろうか。

この曲を作ったのは奥田民生ではない。PUFFYヒットの要因を作ったもう一人の大物ミュージシャン、井上陽水である。どこかで聞いたことがあるような独特な雰囲気、でもどこで聞いたのかは思い出せない……そんな気持ちでこの曲の作詞作曲者を調べて井上陽水の名前を見た瞬間、妙に納得してしまった。私は井上陽水の世代ではないので有名な曲というと数曲しか知らない。しかし昔、彼のUNITED COVERという昭和歌謡のカバーアルバムが好きでよく聞いていた。当時、私は中学生だった。中学生で井上陽水の歌う昭和歌謡を聞いているなんて我ながら渋いと思う。そのアルバムは彼のことをよく知らなくても「これぞ井上陽水ワールド」と分かる程、独特な魅力溢れるアルバムだ。

このアルバムに収録されている「コーヒールンバ」という曲が私は特に印象に残っていたのだが、大人になってからCAKE IS LOVEを聞いた時に咄嗟にこの曲が思い浮かんだのだ。曲調は決して同じとはいえないが、雰囲気は井上陽水の特徴そのものである。ケーキの名前を羅列することによって女子らしい歌詞になり、それをPUFFYの二人が歌う。そうすると、雰囲気はグッと女性らしいものになって可愛い雰囲気になる。

井上陽水ワールド×かわゆるい(可愛くて緩い。私が勝手に考えた造語です)でこんな素敵な曲が生まれるのだ。

【愛のしるし】

スピッツの草野マサムネさんが提供した有名曲。草野さんが作った曲をPUFFYが歌うとこうなるのか!と、ストレートな感想を持つ曲。一度見れば誰でも一緒に踊れる簡単な振り付けも印象的で楽しそうに歌う二人がとても可愛い。元々スピッツは草野さんの中性的なボーカルの影響で女性的なイメージを持つこともあるためか(曲自体は男性目線が多いが)違和感は全くない。

後に草野さんがスピッツでもセルフカバーをしているのだが、PUFFYとは違う魅力があってこちらもなかなか良い。先にPUFFYが歌っているので女性的なイメージが強いからか、草野さんのボーカルがより可愛いく聞こえるのだ。スピッツは男性目線の曲も多いが、女性目線の曲もこんなに違和感なく歌える草野さんはやはり中性的な魅力があるのだろうと思う。

【小美人】

イントロを聞いた瞬間、真っ先に奥田民生のマニアックなビートルズ愛が炸裂している……!と思った曲。(しかし作曲したのは奥田民生ではない)これは間違いなく子供だった当時はわけが分からずに飛ばして聞いていた曲だ。

タイトルの小美人とは映画「モスラ」に登場する妖精のことらしく(見た事がないので分からない)それをモチーフにした曲とのこと。

歌詞は一部だけのインスト曲だが、全体を覆う摩訶不思議でサイケデリックな雰囲気がビートルズ中期の名曲を彷彿とさせる。「アイアムザウォルラス」と「アデイインザライフ」を足して2で割ったような曲だ。二人のボーカルは一部だけでほぼインスト曲なので、何もわざわざPUFFYの土俵でこんなマニアックなことをやる必要はないと思うのだが、それだけ奥田民生はPUFFYのプロデュースを良い意味で楽しんでいたのだろうなぁと思う。

【ネホリーナハホリーナ】

ウルフルズのトータス松本が提供した曲だ。PUFFYといえばやはり奥田民生のプロデュース力が活かされていると思うが、この曲を聞くとトータス松本が二人をプロデュースしたら、また違った面白さがあったのではないかというもうひとつの可能性に気が付く。

はっきり言って歌詞に深い意味はない。歌詞だけを見るとウルフルズの曲?と思うぐらいトータス松本の世界観が全面に表れている。トータス松本のユーモア×PUFFYの脱力感を掛け合わせるとまた違う魅力が生まれる。それを純粋に楽しむような曲である。

【サーキットの娘】

当時も好きな曲だったが、大人になった今の方が思い入れのある曲だ。理由はふたつある。

①ビートルズの名曲が隠れている
まず、この曲はビートルズのアイソーハースタンディングゼアという曲に似ている。似ているというよりも歌詞とメロディを除けばバックサウンドはほぼそのままである。当時から曲の終わり方がビートルズの初期曲っぽいということに気づいてはいたのだが、曲名まではっきりと浮かんだのは大人になってからだ。それは私自身、大人になってからビートルズの曲をより幅広く聞くようになったから。

アイソーハースタンディングゼアは、リンゴが強烈な8ビートを刻むロックの名曲だが、シングルではなくアルバム曲である。数あるベスト盤の中でも最高峰である通称「赤盤」にも収録されていない。つまり「隠れた名曲」なのだ。だから、ベスト盤ばかり聞いていてもこの曲を知ることはできない。当時、私はベスト盤とお気に入りのアルバムしか聞いていなかった。だからこの曲を知らなかったのだ。大人になってから初めてこの曲が入っている1stアルバムを聞いた。こんなにかっこいい曲がベスト盤に入っていない事に驚き、そして今まで知らずにいた自分を恥じた。

そんな思い入れのあるアイソーハースタンディングゼアと似ているこの曲。歌っているPUFFYの魅力はもちろんだが、何よりも作った奥田民生の「ビートルズ愛」をひしひしと感じ、何だか「分かる分かる!ビートルズ真似したくなるよね!」と思わず、奥田民生本人に賛同したくなってしまう。

因みにアイソーハースタンディングゼアのベースラインは1950年代に活躍したチャックベリーというアーティストの「アイムトーキングアバウトユー」という曲のベースラインをそのまま使っているという。ビートルズのメンバーはチャックベリーを敬愛しており、色々な曲をカバーしている。この曲はそんなチャックベリーに対してのメンバーのリスペクトが詰まった曲でもあるのだ。

チャックベリーに触発された曲をビートルズが作って歌い、そのビートルズに触発された曲を奥田民生が作って歌い、しかもPUFFYに曲提供している。(奥田民生はこの曲をセルフカバーもしている)この一本の線に気づいた時、思わず鳥肌が立った。音楽のルーツとはこうやって作られていくものなのか……と。

②ヤマハ・ビーノCM曲
子供だった為、当時は全く意識していなかったが、この曲はヤマハのビーノというスクーターとタイアップしている。このビーノというスクーター、実は現在、私が愛用しているスクーターなのだ。もちろんモデルは当時のものではなく最近の型だが、メーカーと車種は全く同じ。バイク好きの旦那に「このバイクは昔、PUFFYが乗ってたやつなんだよ!」と言われ、初めて知ったのだった。この曲のMVでPUFFYの二人がビーノに乗っている。最近、YouTubeでフル視聴したのだが(当時はネット普及前だったからMVを簡単に見られる時代ではなかった)見覚えのあるスクーターに二人が乗っている姿に思わず感動してしまった。バイク正面の顔は今ほどまだスタイリッシュではないが、横から見るとビーノの特徴そのまま。20年以上経ってからまさか自分がこのスクーターに乗る事になるとは。

自分が昔、好きだったアーティストの、しかも好きな曲と、普段乗っている愛車にまさかこのような接点があったとは驚きの事実で、とても嬉しかった。PUFFYとは不思議な縁があるのかもしれないと、思った出来事だった。

【渚にまつわるエトセトラ】

PUFFYのデビュー曲「アジアの純真」の井上陽水×奥田民生タッグが提供した曲だ。夏の海辺をドライブしながら聞きたくなるリズミカルな曲で、聞いていて思わず口ずさんでしまう。また、西城秀樹のヤングマンをモチーフにした振り付けも印象的で、思わず踊りだしたくなる。とにかくリズムが心地良いという印象があるのだが、その秘密はドラムの4つ打ちのリズム、そしてバッグで絶えず鳴っているハンドクラップとボンゴにあると私は思う。

4つ打ちはディスコ調の曲によく使われる横乗りのリズムだ。もしもこの曲が8ビートのロック調のリズムだったらどうなるだろう?海辺で聞きたくなるとは思えないし、何よりも井上陽水ワールドが炸裂した不思議な歌詞にはミスマッチだろう。曲の雰囲気とリズムがしっかりと合致した曲であるといえる。

YouTubeでこの曲を検索すると、予測ワードには曲名よりも先に「カニ食べ行こう」というフレーズが出て来る。それぐらいこの曲の歌詞にはユーモアがある。個人的に私が気に入っているのは「止まり木にハリソン・フォード」のくだりだ。何回聞いても意味が分からないし、想像したら凄くシュールで笑える。こんな歌詞をどうやったら思いつくのかぜひ井上陽水に聞いてみたい。

アジアの純真の歌詞も意味不明で訳が分からないが、それがPUFFYへ送る井上陽水の曲の魅力なのだろう。逆に歌詞に意味を持たせない方が脱力感を売りにした二人にピッタリだと思ったのかもしれない。曲のリズムと歌詞の面白さがリスナーの心をがっちりと掴む夏の名曲だ。

【これから先もPUFFYの魅力は尽きない】

考えてみてほしい。もしもPUFFYが正統派のアイドルやアーティストとしてデビューしていたら、一体どうなっていただろう?きっちりとした衣装、抜群の歌唱力、凝った振り付け、メッセージ性のある曲……そんなアーティストは日本にも世界にもごまんといるし、新鮮みもない。たぶん、誰も見向きもしなかっただろう。PUFFYはプロデューサーが奥田民生だったからこそ世界的に人気になったのである。

年明けにNHKで放送された歌番組にPUFFYが出ていた。デビューから25年以上も経っているが、歌はちっとも上達していない。でもそれでいいのである。二人の魅力は歌の上手い下手ではないのだ。Tシャツにジーパンという普段着のような格好で、とっつきやすくて歌詞が意味不明な曲を脱力感たっぷりに、簡単な振り付けを踊りながら歌う、それが二人の魅力なのだ。だからこそ、子供だった私は当時二人のファンになったのだ。

また、私のようにビートルズが好きだったからこそPUFFYも好きだという人もいたと思う。中にはビートルズ→奥田民生→PUFFYみたいな流れで好きになった人もいたかもしれない。ビートルズがいなかったらきっと彼らに影響を受けたミュージシャンの殆どは今、音楽業界にはいないだろう。そう考えると音楽のルーツとは大事なものだし、不思議な縁を感じる。何よりビートルズはそれだけ後世の音楽に多大な影響を与えたのである。

大人になった今、PUFFYを聞くともちろん懐かしさもあるのだが、それよりも奥田民生がいかにビートルズが好きなのかということを再確認するし、聞く度に新しい発見がある。きっとこれから先もPUFFYの魅力は尽きないのだろうなと思う。

おばあちゃんになっても、PUFFYの曲を聞きながら一緒に口ずさんだり踊ったり……そんな風に年を重ねられたらいいなぁと思うのである。

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