入院中に励まされたあの曲やこの曲

去年の秋。急性肝炎で救急車で運ばれ、そのまま約10日間、入院をした。私自身、幼い頃から体がとても弱く、体調を崩しがちだった。しかし、入院は小学校低学年の時に一度しただけだった。だから、今回の入院騒ぎはその時以来。当時の記憶は殆どないのでほぼ初めてに等しい体験であった。

このご時世ということもあり、病院の対策はとても厳しいものだった。事前に別病院で検査を受け、陰性だったのだが、入院先の病院で行う検査で陰性反応が出ないと自由に入院生活を送ることができないという事で結果を待つ間、個室に隔離された。

およそ3日間。洗面台がないので支給される濡れタオルで顔や手を拭いた、トイレはポータブル、買い物は看護師に依頼、と、かなり窮屈な生活だった。そして、結果が陰性と分かると大部屋に移動したが、家族との面会条件もとても厳しいものだった。案内不足の病院側と家族の間でトラブルがあったりで、結局会えたのは母と妹のみ。旦那は手違いで病院から門前払いを食らう羽目になった。

気軽に家族に会えない、大部屋には迷惑な患者がいて気を休める事もできない、そんな入院生活にストレスは溜まり、寂しさも募る一方だった。このご時世でなければ直接励ましの言葉を掛けてくれるであろう家族には会えず、たった一人で病気と闘う事に何度も心が折れそうになった。こんな時代でなければ、と何度思ったことか。


どうしようもなくなった時、ふと思い立った。今こそ歌の力を借りる時だと。私は病室のベットに横になったまま、ネットで応援歌や励まされる曲を片っ端から調べ、気に入ったものをスマホの音楽アプリで購入した。以前の記事にも書いたが、私は今まであまりネットで音楽を購入したことがなかった。しかし、音楽を聴く環境などない病院においてネットに繋げば手軽に音楽が聴けるということに喜びを感じたのだった。

全10曲。中には元々、応援歌としてこれまでにも聴いてきた曲もある。この10曲に何度励まされたことだろう。寂しさや折れそうになる心を何度も奮い立たせてくれた曲たちをこれから紹介していこうと思う。


1,何度でも DREAMS COME TRUE
東日本大震災の時にも日本全国の悩める沢山の人々を励ました有名な応援歌だ。私自身もこれまで音楽番組で何度も耳にして来たのだが、悩んでいる時に聞いたことがなく、いつも何となく他人事のような感覚で聞いていた。良い曲だということは分かっていた。しかし、自分自身が当事者になっていざ聞いてみると、こんなにも心に響く歌だとは。今の自分の気持ちを代弁してくれているかのような歌詞、何度も立ち上がるんだ、というエールに涙が溢れた。


2,明日はきっといい日になる 高橋優
この曲も音楽番組でたまに耳にしていた曲だった。日々様々な事で思い悩む人々の姿を通して、明日はきっといい日になる、今日よりずっといい日になる、だから笑おうというとても前向きな歌詞に何度も励まされた。思い通りの人生ではないかもしれない、でもそれを幸せと思うこともできるし、どんな事だって自分を彩る絵の具になるんだよ、というメッセージにも、うんうん、その通りだと頷きながらも涙を拭ったものだった。


3,俺たちの明日 エレファントカシマシ
今、お前はどうしている?どこかできっと頑張っている事だろうなぁと、青春を共に過ごしたかつての親友に向け、当時の事を懐かしく思い出しながらこれまでの人生を振り返り、さぁ頑張ろう!と自分と親友に向けて歌っている曲である。最初はYouTubeでPVを見たのだが、ボーカルの宮本さんがカメラに向かって歌っている姿が、自分に向けて「頑張れ!」とエールを送っているように思えて涙が込み上げたのだった。スマホで曲のみを聞くと、やはりボーカルの宮本さんが自分に向けて語り掛けてくれているような、そんな優しい曲だ。


4,終わりなき旅 Mr,children
この曲がリリースされたのは1998年だ。私は当時中学生だった。その頃、日本の音楽業界は全盛期を迎えており、様々なヒット曲が生まれた。私自身もそんなJーPOPが大好きで、当時ペンションを営んでいた自宅に備え付けられていた有線(今でいうUSEN)のヒット曲チャンネルを、カセットに録音して音楽を楽しんでいた。この曲は丁度、そのカセットに入っていた1曲だった。ミスチルは普通に聞いていたが、この曲は他の曲に比べるとスローテンポなバラードで、当時まだ中学生だった自分にはあまり良さが分からなかった。歌詞の意味ももちろん良く分からなかった。

しかし、今年の東京五輪で私は再びこの曲に出会った。とあるテレビ番組で、日本の選手達が自分を鼓舞したり奮い立たせる為に聞いていた曲の特集を組んでいたが、柔道のウルフアロン選手がこの曲を挙げていたのだ。この時、私は初めてこの曲の意味を知った。より高い壁であれば、それを登り切った時は気持ちが良いじゃないか、限界はまだまだこれからだ、そんな歌詞にウルフ選手は心を奮い立たせたという。

そんなウルフ選手の言葉を、病室で応援歌を探している時にふと思い出した私はスマホの音楽アプリを探ってみた。ずっと前にCDから入れたミスチルのベスト盤が埋もれていた。そこからこの曲を引っ張り出して聞いてみた。子供の頃に聞いても理解できなかった歌詞が、スッと心に入ってくるのが分かった。

過去は振り返ることなく未来を見据え、辻褄を合せるように生きていく
誰の真似もしなくていい、生きる為のレシピなどないのだから君は君らしくあれ
胸に抱えた迷いがプラスになるようにいつもどんな時も私達は生きている

こういった意味の歌詞が散りばめられていた。曲を聞き、歌詞を読みながらも涙が止まらなかった。私自身の解釈だが、「辻褄を合わせる」とは、後でその出来事を振り返った時に「あれはとても辛い経験だったけど、今こうして生きていく為に必要な事だったんだ」とその経験に意味を見出す事ではないだろうか。

だから、私は「病気と闘っている今はとても辛いけど、きっと後で振り返った時にきちんと意味があったんだ、そう思える時がきっと来る」と自分を奮い立たせる事ができたのだった。子供の頃に出会った曲が、大人になってから自分を救ってくれるなんて夢にも思わなかった。とても不思議な体験だった。


5,旅路 藤井風
話題になっているのは知っていたが、最近になって初めて聞いてハマったアーティストだった。(前の記事で最近の曲が分からないと書いたが、私にとって彼は例外な存在)

前から良い曲だなと思っていたのだが、病気になって初めて歌詞が心にスッと響いて来た曲だった。果てしないと思っていてもいつか終わりがくる、私達はまだ先の長い旅の途中で、誰かを好きになったり忘れてしまったり色々あるけど、いつかこの日さえも懐かしいと笑える時が来るだろう、そんな意味の歌詞が、スローな曲調に乗せて悩み苦しむ自分の心に優しく響く、いや、まるで優しく寄り添ってくれるようなそんな気がした。この曲を聞くと心が穏やかになったのだった。


6、MY HEART DRAWS A DREAM L'Arc~en~ciel
私は中学生の頃からのラルクファンである。なので、この応援歌プレイリストにもラルクの曲を入れた。タイトルは直訳すると「私の胸は夢を描く」直訳というか、まあその通りの歌詞なのだが、そのストレートで美しい歌詞がいかにもhydeらしくてとても癒される曲だ。因みにライブでは観客とバンドが一体となって大合唱をする定番ソングである(現在、合唱は禁止されているが)

「君の夢がいつかきっと叶うといいな」そんな歌詞が、作家になりたいという志半ばで病魔に負けそうになっている私の背中をそっと押してくれているかのようで、ライブの思い出と相まってとても勇気付けられたのだ。「笑顔のままの君に逢えるといいな」この困難を乗り越えて、笑顔で再びラルクのメンバーと会えるように(正確にはライブに行けるように、だが)頑張らなければ!と心を奮い立たせた曲であった。


7,Mirai L'Arc~en~Ciel
続いてもラルクの曲。これは去年リリースされ、日本を元気付けたい、励ましたい、というラルクの思いが詰まった曲だ。タイトルの通り、この困難を乗り越えた先にある未来へ向かって進んでいこう、そんな歌詞になっている。病室のベッドで一人、心細い思いを抱えながら窓から見える夜空を見上げてこの曲を聞いていると、自分が満天の星空に向かって大きな声で「夜空に向かって矢を放て、そして朝を呼ぼう」と熱唱しているような気分になった。

そして、満天の星が君を見守ってくれているんだ、君は一人じゃないよ、というhydeの力強くそれでいて優しい歌声は、自分を励ましてくれている、そんな風に思えて心があったかくなった。

乗り越えた不安が自信に繋がる、未来はいつも自分次第、手を伸ばすんだ
虹がかかり繋がる、私は頬をつねって「これは夢じゃない」と言う

困難を乗り越えた先にある未来と大きな虹。自分がそれらを目の当たりにして感動している様子を想像してみると、とても勇気が湧いた。そして、ラストにベースのてっちゃんとコーラス隊の合唱が入るのだがその和訳が「輝かしい日々(直訳すると栄光の日になるが)」「私達の心は永遠に」ここで涙腺が崩壊した。病に体は蝕まれても、私の心は絶対に壊されない。そう心に誓ったのだった。


8、果てない空 嵐
私は中学生の頃からのラルクファンだが、元嵐ファンでもある。ファン歴は僅か3年ほどで結婚を機に卒業してしまったが、いまだに曲は聞くぐらい好きなアーティストだ。そんな嵐の曲の中で私が最も励まされるといえばこの曲だ。活動休止前に行われた20周年ツアーには私も参加したが、そのセットリストにも組み込まれており、ワンコーラスをニノがソロで担当するというスペシャルな演出。そのニノの歌声がまた毎回とても力強くて心に突き刺さるのである。

特にサビの終わり、何度でも踏み出してやり直そう、という部分で私は毎回、泣いてしまうのだ。しかも不思議な事に、ライブでも映像でも20周年ツアーでこの曲を聞く時、私は必ず何かしらの困難に直面している。それだけに、ニノの力強い歌声を聞く度に励まされ、いつも涙が溢れてしまうのである。病室に映像を持ち込めないので、今回はCD音源で歌声のみを聞いていたが、それでもやはり「飛べない自分を変えていこう」「何度でも立ち上がるんだ」という歌詞に涙が込み上げ、何度も心を奮い立たせたのだった。


9、アオゾラペダル 嵐
引き続き嵐の曲。これは20周年ツアーのセットリストで果てない空の次に歌われる曲だ。しかも翔くんがピアノの伴奏を担当し、それに合わせて他メンバーと観客が一体となって合唱するというこれまたスペシャルな演出。お恥ずかしながら、私は初めて参加したこのツアーでこの曲を初めてしっかり聞いたのだが、とても深い歌詞に感動したのだった。

明日を上手く描こうとして綺麗な色を塗り過ぎてしまったり、悲しい出来事なんか忘れようとして色を重ねてしまったりもする、そうして塗り過ぎてしまった色は白には戻せない、だけどそれでいいんだ、また新しい色で明日を描いていこう

人生を一枚の絵に例えた、こういった意味の歌詞にとても共感した。本当にその通りだなと思ったのだ。上手く生きようとして背伸びして失敗したりすることもある。けど、上手く生きようとしなくていいし、やり過ぎてしまってもそれを忘れる必要なんてないのだ。それをバネにまた新たな気持ちで進んでいけばいい、そういう風に思えた。

ライブで果てない空とこの曲を繋げたのは「人生には色々なことがあるけど頑張って進んでいこう」という嵐のメンバーからのエールなのではないだろうかと私は思っている。だから、私の中で「果てない空~アオゾラペダル」はセットなのである。


10、Happiness 嵐
嵐が三連発になってしまったが、私の中では「果てない空~アオゾラペダル」はセットなので実質2曲のイメージだ(半ば強引過ぎる気もするw)この曲は応援歌としての歌詞はもちろん、私には生涯忘れられない思い出がくっついている。それは20周年ツアーで北海道へ遠征した時のことだ。

私は生まれは神奈川県だが、育ったのは北海道である。保育園~高校卒業までを北海道で過ごした。私の青春時代といっても過言ではない。だから、私にとって北海道は特別なのだ。そんな北海道に大好きな嵐を観に行ったことは私の中でとても大きな出来事だった。

飛行機に乗り、電車を乗り継いで向かった懐かしい札幌ドーム。完成当初、家族で一度だけ見学に訪れたことがあった。その時以来の訪問だった。まるで青春時代が蘇ったかのような心持ちで参加したライブは、これまで参加した20周年ツアーのライブとは比べ物にならいぐらいの感動を覚えるライブだった。そのライブのラストに歌われたのがこの曲だ。

毎回、観客とメンバーで大合唱になるのだが、札幌ドームでのライブは凄い一体感が生まれた。まさに会場がひとつになったのだ。あの感覚は上手く言葉には言い表せないが、その後に参加した東京公演の一体感とは比べ物にならなかった。(東京公演が悪い訳ではない)あまりの感動に鳥肌が立ち、涙が止まらなかった。それは恐らく、私にとって札幌公演が特別なライブだったことももちろん理由のひとつだと思うが、何よりも観客一人一人の強い思いによるものだと思うのだ。

札幌ドームはどんなに人気のあるアーティストでも満員にするのは難しいと言われている。何故かというと北海道民だけでは埋められないというのと、遠征するには遠すぎるからである。しかし当時、日本の社会現象となっていた嵐は札幌ドームを満員にすることができた。それは遠征組が大半だったからだ。ライブ期間中は新千歳空港や飛行機が嵐ファンで一杯になった程だった。だから、観客は皆「北海道まではるばる嵐を観に来た」という思いが強く、それがラストのこの曲の一体感に繋がったのではないかと私は思っている。

そんな北海道の思い出が詰まったこの曲を病室のベッドに横になりながら聞くと、励まされる歌詞と相まって様々な記憶や思いが蘇ってきた。

君の声を聞かせてよ、ずっとそばにいるよ

まるで嵐のメンバーがすぐそばで自分を励ましてくれているように思え、自然と笑顔になった。札幌ドームで感じたあの一体感が蘇って、彼らはあの時からずっとそばにいてくれているんだな、そんな風にも思えたのだった。


以上。後半は好きなアーティストで偏ってしまったが、今回の入院騒ぎで改めて「歌の力」がどれだけ凄いのかを実感した気がする。特に夜、消灯までの時間にこの10曲を聞くと「明日も頑張ろう」という気になれたものだった。

ミスチルの終わりなき旅を始め、初めて聞いた時には分からなかった歌詞や歌の良さが、困難に直面したことによって驚くほど素直に心に響いてくるということも分かった。先日、退院してから久々に料理を作ったが、その時のBGMにもう一度この10曲を聞いてみたが、いつの間にか歌えるようになっていた。それだけ、私は彼らに何度も何度も救ってもらったのだなぁと改めて感謝の気持ちが湧いたのだった。

今、入院時の私のように一人でいることを強いられる人も沢山いると思う。そんな時にこそ、歌を聞いてみて欲しい。「もう駄目だ」「どうやって前向きに生きて行けばいいんだ」そんな時こそ歌を聞こう。

それらは絶対に自分を励ましてくれる。孤独な心を必ず包み込み、勇気づけてくれるだろう。

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