一筋の光
車で聖子(せいこ)を家に送る。
聖子は今、どんなことを考えているのだろう?
彼女を僕に紹介して来たのは母だ。
「聖子さんて言うとってもいいお嬢さんがいるの。
わたしと同じ大学出身者で、しっかりしていて優秀なの。
きっと可愛らしいし、あなたも気にいるわ。
あなたが、この間連れて来た子なんかより、
よっぽど素敵なのよ。
ぜひ、会ってみて。」
母は、よほど僕がこの前連れてきた◯◯女子大学の元カノのことが気に入らなかったようだ。
待ち合わせに現れた聖子は、はきはきして清楚で、いかにも母が気に入りそうな感じの子だった。
たしかに、今まで僕に近づいてきた派手好きで楽しい事が大好きな女の子たちとは少し違うように感じた。
最初のうちは物珍しさで、聖子と会っていたが、僕もだんだんと彼女に惹かれていった。
だが、聖子に近づけば近づくほど、自分の劣等感が刺激されてむしゃくしゃする部分もあった。
聖子は、自分に正直に生きている女の子だった。
僕はそんな彼女をまぶしく感じた。
だか、一方では彼女のそのようなところは、僕のコンプレックスを激しく刺激するのだった。
自分の人生が、祖父の敷いたレールの上を走っているにすぎないと感じ、すべてが嘘臭く思えた。
次第に、むずかしいことを言わない他の女の子たちの話を聞く方が、楽だと感じることが多くなった。
しかし、母も母だ。
僕を焚きつけておいて、結局自分の手に負えなくなったところで、見放すようなことを言う。
「もう、いい加減にしなさい‼︎」
数日前に母に言われた言葉だ。
結局、
僕は彼女に自分のことを、
何一つ話すことは出来なかった。
彼女は、今でも僕を苦労知らずのお坊ちゃんだとでも思っているのだろうか?
勘の良い彼女の事だから、見栄っ張りのお調子者の僕を見破っているのかもしれない。
だったら、なぜ僕なんかに執着するんだろうか?
初めての男だからか?
そうならば、次の男が現れればすぐに僕のことなど忘れるだろう。
敬虔な彼女の事だから、僕の祖父の結核患者を受け入れる病院に聖母マリアのように降り立つことを夢見たのかもしれない。
でも、現実はそんなもんじゃない。
彼女をこれ以上巻き込まないで済んで良かったのかもしれない。
そんな事を考えているうちに、彼女の寮の前に着いて、彼女が車から降りた。
運転席から聖子を見ると、
彼女はまだ未練がましいような複雑な表情をしていた。
「じゃあ、元気で。」僕は早口で言って、車を出した。
気がつくと、僕は中野駅の北口に来ていた。
あの日僕が待ち合わせに行かなかった中野駅だ。
僕は、車を降りて空を見上げた。
結局、僕は大学も結婚する相手も自分で選べない。
母も僕も自分の人生を選ぶ事ができない。
祖父の庇護の中で生きるより他にないのだ。
そう思うと、悲しさや寂しさと同時に、不思議と清々しさも感じた。
夕暮れの空をふと見上げると、
雲の隙間から、
一筋の光がさして僕を照らしているように感じた。
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BTSの『Let Go』によせて、小説を書いてみました。感想等ございましたら、ぜひお寄せください😊♪